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悪運



 「はい、確かに認証いたしました。……ん、何か?」


目の前に座る髪の長い眼鏡女子(しかもピッチリなスーツ姿)風の出で立ちな神様は、そう言いながら眼鏡をチャキ、と上げつつハジメに問う。


「いや、その、若く見えたから……って」


「あ、そこ?だって私、まだ神様に格上げされてから一年未満だもの、まだまだ若輩者の神ですからね……フフフ♪」


パルマと名乗る神様はそう言うと、トントンと紙束を纏めながら封筒に入れて蜜蝋で封印し、一握りはありそうな印を捺してゴニョゴニョと唱え始めると封印は光輝いて……一件落着、のように安堵の表情を浮かべ、


「えーっと、そちらのイチ・ハジメと、こちらのクァイナ・ベアクルスは本日只今を持ってパーティ編成を完了いたしました。私、立会人を務めるディーレン・パルマが責任を持って了承と証書提出を行い、追って承認許可を報せますので、そのつもりでいてください。……何か質問は有りますか?」


キチンと折り目正しい姿勢でハジメとクァイナに問うが、二人とも彼女から受けたキッチリでカッチリな一時間の説明は仔細を極めていたので、


「い、いや……特にないです。ねぇ?」


「わ、私!?そそそりゃ「秩序」を尊ぶ神のパルマ様ですから何一つ問題は有りません!!」


二人は慌ててそう答えるのが精一杯だったけれど、それを聞いたパルマはホッ、と安堵の表情を浮かべながら一息つき、


「それならばいいですわ♪さーて、ココのランチを楽しみにしてたんだから絶対に外さないわよ!……マスター、こっちに《売り切れ御免!鶏鳥(とりとり)サンド・ギルガメッシュ風》宜しくぅ!あと飲み物はマンダリンでお願いッ!!」


えっ、嘘ッ!?昼間っからヘビーなカクテルっすか!?と驚くクァイナを尻目に、ウキウキと悦びの表情を浮かべながら、


「いやいやいやいや、神だって飲みたい物は飲みたいの!うっひょ~♪ちべたそー♪いっただっきまぁ~す!!」


……と、オレンジ色の液体を煽りながら件の何とか風のサンドどか載せ大皿料理を手掴みにしつつ、


「……へにゃ……やっば!チキンまじヤバ!……あ、そーそー、この後、荒野で狩猟するつもりなら気を付けた方がいいですよ?ついさっき連絡があって、激甚級(グラビデクラス)の徘徊獣が見つかってるらしいですから……あ、うまぁ!!……ぷっはぁ~♪マスター!御代わり!!」


と、パーティ編成早々に、露骨なフラグ立てをちゃっかりやってくれながら、成り立て神様のパルマさんはカクテルの追加をしていたのでした。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「それで、これからどうするんですか?えっと……クァイナさん?」


「ああ、クァイナで良いわよ?だってあなたがリーダーなんだから」


「うう……そうですよね……まぁ、そうなんですが」


二人は「くえばわかる亭」を出た後、とりあえず町から然程(さほど)離れていない町外れの砂漠へと赴いて、危険度の低い低級魔獣相手に腕試しと日銭稼ぎにやって来たのだが……、




「……ねぇ、これ、アレですよね?」


「うん、確かにアレだね……」


町外れの砂漠をほんの少しだけ進んだ二人の背後に、ド派手な砂煙を噴き上げて現れたのは、見たこともない硬質な皮膚を持っていそうな巨大な節足動物……だったのだけど、彼等の目の前でバキボキと更に巨大な禍々しい生物に噛み砕かれて絶命していく……。


所謂(いわゆる)、その……喰われてますね」


「うん、確かに喰われてるわね……」


ごりん、と最後に突き出していた頭部を噛み砕き終わった巨大な顎は、黄色い煙を揚げながら閉じていく。


……そのまま消えろ消えてくれ……と祈る二人だったが、顎の上に並ぶ数十の無感動な眼は明らかに意思を持って二人を捕捉し、ゆっくりと砂の中から長い身体を引き摺り出していく。


「うわぁ……流石は《ク・ヴォルティス》……グラビデ・クラスの名に恥じない……素晴らしい食べられっぷり……」


「ええええぇ~ッ!?アッチの喰われた方が要注意だったの!!」


狼狽えるハジメ、そして悲しげに首を振るクァイナ。


「えぇ……激甚災害並みの破壊力を誇る全長15メートルの怪物、だったわ……」


クァイナの告白に、同じく悲しげな表情のハジメ。


「ねぇ……こんな時に聞くのも何だけど、一つ良いかしら?」


「はい……?あ、昨日奢った分で俺、無一文でしたが……」


「いや、それじゃなくて……えぇっ!?……まぁ……それじゃなくて!」


災害クラスの怪物を喰い終わった、眼前の怪物は全身黒々としたヌメヌメな皮革に包まれて、所々に小さなヒレの付いた奇っ怪な姿だったが、しかし即座に二人へと飛び掛かるでもなく、シュルシュルと身体を蠢かせながら二人と距離を取っていた。


「あのね……正直言うけど、さっきパーティ編成が完了した段階で、あなたのスキル、こっそり拝見させて貰ったんだけど……その、プライバシーとか言わないでね?……やっぱ不安だったから……」


そこまで言った後、クァイナはハジメを真っ直ぐ見つめて、


「……あなたのスキルも能力も全部、【Secret】ってなってるの、どーゆーこと!?」


不安な気持ちを一切合切ぶつける勢いで捲し立てたのだが……肝心のハジメはと言うと……、


「……それは……俺のスキルが《超時空戦艦》だから……かな?」


「……はい?……えっ?……えっ?……ハジメ、見た目は人間だよね?」


戸惑うクァイナ、対して曖昧な笑みを浮かべながら、ハジメは自分の右手のひらをニギニギと開けたり閉じたりしつつ、


「……うん、たぶん。……でも、俺のスキルは《超時空戦艦》なんだよねぇ……」


「……超、時空……戦艦?……あの、戦艦って海に浮かぶぅ、大砲のいーっぱい付いてる船のこと?」


あたふたと大砲を模して腕を突き出して振り回したり、船の真似をして泳ぐようなジェスチャーを繰り返すクァイナ。


「……やっぱりクァイナも、そーゆーこと知ってるんだ……ハハハァ……つまり、俺と同じで【ゲーム関連であの世に旅立った】ヒトなんだねぇ……」


力無く薄笑いを浮かべつつ、ハジメはクァイナの前に出て、初めての巨塊と対峙しながら、


「俺は……まぁ、呆気なく死んで……運の無さを嘆いて恨んで……何か最期のチャンスじみたくじ引きの順番待ちで目の前で物凄い強そうなスキルを引き当てられて……ガッツポーズしてる奴の背中を眺めてたよ……」


呟きながらハジメは一歩、前に出る。……すると、漆黒の地鰻(ちうなぎ)とでも呼ぶに相応しい奇怪な巨体は、ずるり、と後退する。


「うそ!!なんであんな化け物が……あんたから逃げようとしてんのよ!?」


すたすた、ずりずり、すたすた、ずりずり……。


クァイナとの距離が次第に離れていく中、ハジメの声は離れるにつれて自然と大きくなり、


「……でも!…………担当の神さんが!!……【丁度ネタ切れになったから、貴方の好きな能力を与えてあげるわ】って!!……でも!!!……その神さん!!……もっのすごくおっちょこちょいだったんだよぉ~ッ!!!」


ハジメはそこまで叫んだ瞬間、グンッ、としゃがみ込んだと思ったのも束の間、


「……このスキルッ!!……俺が危機に晒されないと発揮しないって言ってた!!」


……一跳びで相手との距離を詰めたかと思うと……、






…………体当たりしました。


「……リーダー、何それ?」


「どっちくしょおぉ~ッ!!!誰が好き好んで《超時空戦艦のフィギュアヘッド》になりたい……なんて、思う訳ね~でしょ~がぁッ!!!」


体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり体当たり……ッ!!


がっ、ごっ……幾度も幾度もハジメは身体をぶつけては弾かれ、またぶつけては弾かれ……。


無論相手の巨大地鰻もやられっぱなしでもなく、彼の体当たりを弾き返しながら押し潰そうとしたり、噛み付いたりはしたのですが……、


ちょいと布団を跳ね退けるようにヒョイ、と身体の下から地面にめり込んだハジメが何事もなかったかのように這い出てきて、


それからも噛み付かれたりはしましたが……これまた暖簾を掻き分けながら「よっ!もう開いてるぅ~?」と駅前の馴染みの居酒屋に足を運ぶサラリーマンの如く、身の丈も遥かに超す長さの牙を押し退けて身体を覗かせてから、遥か上空と言える高さから軽々と飛び降りて普通に着地し、


「……あ、足ひねったかも?……ややや、ちょっとタンマタンマ!」


とか言いながら片足立ちでクニクニと足首を廻したりしてました。その危機感の全くない様子にクァイナは呆れ果て、


「ねぇ!ハジメ、体当たり以外に何か技無いのっ!?」


たまらず絶叫してしまったのはご愛嬌。乙女らしからぬ振る舞いにちょっとだけ眉をしかめたハジメでしたが彼は自称紳士です。……広い心で受け入れました。


「ん~、それじゃ、何とかしてみようか……ちょい待ち……んと、これかな?」


まるでそこに何かがあるように、虚空をチョイチョイとタップする姿は実に滑稽なんですが、その最中も地鰻にやっぱり噛み付かれたりしばかれたりはしています……全く効いてはいませんが。


「おっ!!あったあった……でも、これしかないから……合ってるよなぁ……?」


ハジメが呟きながら、ポチッと空中に指を当てた瞬間、クァイナは周囲の景色が突然糸を引くように流れて細くなり……意識も身体も何処かへと転移させられていると気が付きます。


「ひ、ひぃ~っ!?……なななななにこれぇ……って、あれ?」


気が付くと、彼女は真っ暗な空間に転送されて、いつの間にか何かの椅子らしきものに座っていました。


「いつのまに……でも、ここって一体どこ?……それにハジメは何処行ったの?」



肘掛け付きのビロード張りの椅子に腰掛けたまま、暗闇の中をヒトの気配を探ってキョロキョロと見回していると、目の前に突然、巨大な光り輝く長方形が浮かび上がり、彼女はヒッ!?と軽く浮き上がりかけましたが、


「……え?も、もしかしてコレ……スクリーン!?……じゃ、ここは【映画館】ってこと!?」



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳






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