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寝床が無いっ!!

久々に更新。過労死コース巡回中なんで。




 ……かたいなぁ……背中がゴリゴリする……床……床かな?……あぁ、大詰めに入って二週間、会社に泊まりっぱ、だったっけ……最近、シャワー目当てで二駅離れたとこのネットカフェに入り浸りだから、明らかに店員サンに顔、覚えられてるだろーなぁ……あそこのメガネの店員サン、かあいーんだよなぁ……




「……ハジメさん、()きてますかぁ?」


「……ふ、ふあああああああぁ~ッ!!?」


ガバッ、と身を起こしたハジメは、目の前に立つイケメン天然金髪パーマのアーレヴに気付き、慌ててその場に正座しながら回想してみる……まず、


……モルフィスと浴びる程ビールを飲み、店に飛び込んできた少女が居て……あれ?……と、言うか、何故……床に寝ているのだ?俺は。


「あの……もしかして破廉恥三昧で愛想尽かされて放置された……とかだったり、します?」


恐る恐る尋ねるハジメだったが、アーレヴは明らかに(んな訳ないでしょうに……)と言いたげな顔で、


「いやいやそんなことはありませんよ?実に紳士的な振舞いでしたから……まぁ、だいたい、ですが……」


「うわああはあはあああぁ~明らかに怪しいぃ~っ!!」


……ハジメには、逆効果でした。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「ハイ、これは酔い醒ましに効く薬草酒(アンゴスチュラ)。迎え酒ですが、眼が醒めますよ?」


茶色い液体をショットグラスに少量注ぎ、少しだけ真水を足して差し出す。普段のおちゃらけた言動には似つかわしくない気遣いに、ほんのちょっとだけ警戒心を掻き立てられたが、グラグラと回る頭を抱えたハジメにとっては正に地獄に仏、と言ったところか。だからこそ、手渡されたそれを黙して嚥下する。口の中にヨードチンキ(うがい薬)にも似た独特のカラメルのような風味と、薬草酒の複雑な苦味と香りが広がり、酒の酔いで拡散していた意識が急速に纏まってくる……ような気がした。


「…………んぐっ、……に、苦いぃ……うわぁ……でも、うん……何だか効きそうです……ありがとうございますぅ……」


……素直に飲み干し、グラスを返しながらアーレヴにお礼の言葉を返す。その様子を眺めながらアーレヴは最後になったグラスを磨きつつ、


「まぁ、お気になさらずに。こちらはお酒を提供するのは務め……そして、お客さんが帰るまでキチンと見守るのが、バーテンダーの本当の役目なんですよ?」


そう言いながらカタン、と拭き終わったグラスを背後の棚に仕舞うとハジメの方へと身体を向けて、彼をしっかりと見つめながら、


「……ちなみに昨日の夜、ハジメ君が……何と言うか、いつもと違う感じになっちゃって、それのせいで距離を置きたくなったヒトも居るから……暫く、時間をおいてからみんなと会った方がいーと思いますよ?余計なお世話かもしれないけどねぇ……」


と、親切心から忠告してくれたのだけど、


(うっわぁ~ッ!!それって絶対アウトな奴じゃん!!クァイナさんに!?それともマニトバさんに!?……ま、まさか……モルフィスさん……い、いや……アーレヴさんの言い方だと、その……逃げ込んできた女の子に……!?いやいやいやいやそれは絶対アウトでしょ!?セーフ無しな死ですッ!!でも……パッと見ではそんなに幼女っぽくなかったから……いやいや、でももしかしたら保護者とかが存在してたら『ウチの娘に何してくれてるのっ!?』とか言えばその場でアウトだよなぁ……某メンバーがそれで人生のほぼ全分野でアウトになったから……あーあ、何処かの国がココに○CBM落としてくれないかなぁ……)


……等と、自分なりに分析した結果で勝手に落ち込みながら、フラフラと店の外へと出て行った。


「……あらまぁ……お早いお出掛けで……お気をつけてぇ!」


……ふぁ~い、いってぎますぅ……。


力無く応えるハジメに同性としてちょっぴり同情しつつ、しかし接客業に従事して長い時間を過ごしてきたアーレヴは、ほんの少しだけ心配はしたものの、ハジメの底知れない打たれ強さは理解していた為、


「……まぁ、酔い醒ましのお散歩ですかね?若いからすぐ立ち直るでしょーが、ねぇ」


と、納得しながら片付けに専念することにした。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「あぁ……どうしたらいいんだろうか……俺、何やらかしたんだろうかぁ……はぁ、困ったなぁ……」


てくてくと独りで衝動的に歩き続けたハジメだったが、その足は決して無目的にさ迷っていた訳ではなかった。まだ日も昇りかけの早朝には人の気配を感じればそそくさと路地裏へと進み、全く人気の無い場所は避けつつ街の外周部を巡るように歩き続け、早朝から店を開けている軽食を扱う店が見えてくると最初からそこへ向かっていたのだ、と言わんばかりの自然体で店内へと吸い込まれ、手頃で胃に優しそうな《おじぎ草とヤタラ豆の煮込みスープ・パン付き》のようなメニューをさっくりと注文して胃に納め、御馳走様!と言いながら看板娘に美味しかったよ♪と手を振りながら立ち去ったりしている位なのだから、まぁ……無目的ではなかったようだ。


「……あ、ここって……もしかして不動産屋……的なとこかな?」


ハジメは暫くブラブラしていたが、目の前に現れたこじんまりとした商用事務所然の素っ気ない建物に掲げられた看板が【家売買】と掲示されていたので、眺めながら事の顛末と自分の状況を考えてみた。


そもそも、モルフィスの店に居候はしているものの、出来ることなら自分の住まいは確保したい。いや、まず第一に年若いパーティメンバー(しかも女性ばかり)を抱えながら、すべからく宿無しでは体裁が悪いし周囲の目も気になる。おまけに風呂のない環境で年若い女性(年齢は上だが見た目はロリの家主まで居る)と一つ屋根の下で暮らす生活は……色々と息詰まるものがある。プライバシー無いし……。


……やっぱ、この辺で一区切り付ける意味も含めて、思い切って行動してみることにしよう!


心の中で決断したハジメは、吸い寄せられるように中へと入っていった。



「……あの……朝早くからすいませんが……」


「あ、ハイハイお客さんですよね?こちらへどうぞ!!」


ハジメが簡素な扉を開けて中へ入ると、カウンターの向こうから店主らしき初老の恰幅の良い男性が現れて、愛想良く招きながら対応し席へと促した。


「それでお客さん、お家をお探しですか?」


「それなんですが……この辺で部屋数の多い貸し家みたいなのって有りますか?」


ハジメが自分の希望をざっくりと説明しながら店主の反応を見ると、複雑そうな表情を浮かべながらハジメに向かって説明し始める。


「う~ん……お客さん、この辺りとなると……貸し家は極く限られた物しか残ってないんですよ……」


「……え、そうなんですか?」


店主がかいつまんで説明してくれたが、この界隈は基本的に家の売り買いは春がピークで今はその時期から外れて物件はほぼ皆無らしい。そもそも土地の所有権自体が余り切り売りされないらしく(地主が民間なのは小数)、既存の家の権利を賃貸契約するのが一般的でそれも引っ越すのが容易な春に済ませる為、今は賃貸物件も数えるほどしか無いそうだ。


「……で、一応こちらの貸家だけしか残っていないんですが……」


言いながら差し出す一枚の書類には、おおまかな間取りの略図、そして現地の文字で説明文が添えられているものの、字の読めないハジメでも一瞬でその家の特徴が判ってしまった。



「……へ、部屋数がとんでもなく多いですねぇ!!」


「そうでしょ?元々は貴族の接待施設だった場所が、賭け事か何かで人手に渡ってからは転々としてその都度様々な使い方をされてましてねぇ……最後は娼館だったようですが……その……」


「……?」


口ごもる店主に予感しながらも、とりあえず自分から切り出してみることにした。その方が何となく心理的衝撃が少なそうな気がしたから、であるが。


「あ~、もしかしたら幽霊が出るとか何かで残った物件じゃないんですか?」


「……ッ!?ど、どうしてそれを……!」


ハジメは久々に【悪運】※①の巨大な歯車が音を立てながら噛み合わさり、ゆっくりと容赦なく動き出すのをハッキリと感じていた。





※①→【悪運】。ハジメの三つのスキルの一つ。本人の意志に関わらず、突発的に発揮されるパッシブスキル。事態の振り幅最大値の結果が得られる代わりに極めて困難そして他の選択肢が無い状況になる。作者は【悪運】小が標準装備されている。



ではまた次回(休みが一週間後だ)

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