《くえばわかる亭》ビールフェスタ!②
……パキュッ♪もり、もりもり、ごっくん。
歯応え軽やかなソーセージ。その媚肉からは滋味深い脂と肉特有の旨味が滲み出て、舌の付け根を否応なく刺激し続ける。
その味をホップの苦味と小麦の爽快な後味とで洗い流し、再度肉汁豊かなソーセージを頬張りながら噛み砕き、舌の上で踊らせつつまた、ビールを流し込み、飲み下す。
……ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ…………っぷふぁ~っ!!
「いやぁ~、アンタの世界のゲルマン人ってのは天才だな!いや、もう天災的な不可避状態としか言えないぃ~♪ビール、そしてソーセージ!おまけにピクルスに粒マスタード!!いやはや……おかわりッ!!」
モルフィスはマイジョッキ(彼女の顔とほぼ同じ大きさ)を両手で掴みながら中身を空にすると、アーレヴに高々と掲げつつお代わりを催促する。
「はいはい……判りました判りましたって……だから、ツンツンしないの!」
独特の形をした真鍮製のビールサーバー(鳥の形を模した特注品)に水で洗って氷を入れてグルグルとかき回して、よく冷やしたジョッキを斜めに宛がいながら、ゆっくりとビールを注ぎ込むアーレヴの背中を、脇に置いてあった孫の手でつついて催促するモルフィス。
しかし、仕事の腕は確かな彼は、まず黄金色の液体をジョッキ半分まで注いだ後、縦に戻して徐々に側面から中心へと注ぎ入れる場所を変えながら、細やかな泡を次第に盛り上げていき、七対三の比率になるとサーバーからジョッキを離し、泡の上部をバターナイフで摺り取ると、また少しだけ注ぎ入れて完成させる。
その手腕はビールの泡を極めて細かい状態へと変化させて、無駄な苦味や渋味を消す為の努力を惜しまなかった。
……まぁ、それは瞬く間に消化されちゃうから、複雑なんですけれど。
「今日もよく飲みますねぇ。自分の店の売り上げに貢献してもあんまり意味無いですからね?僕の仕事量が増えるだけなんですが」
アーレヴは愚痴を言いつつも、決して手は休めること無く手早くサーブし、モルフィスへと手渡す。
「まぁ堅いこと言わないの!うっひょひょ~♪いっただっきまぁ~す!」
モルフィスは大口を開けて、麦とモルトのさざ波を迎え入れる。その黄金色は迸りながら口の中を滑り落ち、舌の上から体内へと吸い込まれていく。
酒精の高い飲み物が思考を研ぎ澄ましながら、量が増えれば眠りへと導くのとは違って、ビールはその爽やかな刺激を堪能するそのことが至極。量が増えると胃に堪えるが、それまではただ愉悦の時を過ごそうではないか?
仰々しいことを言えばそういうことだが、要はビールは喉越しが大切(エールに限ればの話だが)で、寒空の下で震えながら楽しむものではない。ついでにビールにはソーセージだと筆者は思う。
「……外野が五月蝿いけど、まぁ気にしない気にしない!」
……ハイハイ、フライドポテトだって何だって旨ければいーですよ?別に。
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「ところでさ~、ハジメはお酒つよいの?さっきから飲んでてもあんまり変わらないからさぁ~?」
「うーん、たぶん弱くはないけれど……昔は普通でしたねぇ」
パキッ、と肉汁弾けるソーセージを噛みながら、ビールを流し込む二人の周りでは、クァイナとマニトバ、その他の人々がガーグー、すやすや……と睡眠を貪っていた。まぁ、平和な光景ですな。
ハジメとモルフィスは互いのジョッキを空にしながら、無言でもむもむとソーセージを頬張りながら、何となく沈黙してしまう。
「……もう、寝ますか?」
ハジメの言葉にモルフィスはいやいや、と首を振りながら、
「もうちっとだけ付き合ってちょ?アーレヴ!モルト!ロック!」
「はいはい……あまり飲み過ぎないようにしてくださいね?」
そう言いながらアーレヴは分厚いクリスタルグラスに丸い氷を浮かべて、その中に琥珀色の液体を注ぎ入れる。モルトと呼ばれた液体は、モヤモヤと霞がかかるような高純度の酒精。それが氷の周囲をゆっくりと滑り落ち、グラスに溜まっていく。
……カラン、とグラスは硬質で澄んだ音を奏でながら、静かに廻りつつ全体が冷やされる。汗をかいたグラスを静かに掲げると、ハジメとモルフィスは、ほぅ……、と息を継ぎ、
「……これ、アイラモルト……ですかね?こんな上質なウィスキーがあるなんて信じられませんよ……」
「さぁ?ワタシはよく判らないけど、知り合いの知り合いに言わせれば【ピートの薫りがしているから間違いなくこれはモルトだ】ってことらしいね」
ハジメとモルフィスはグラスを傾けながら、よしなしごとを繰りつつ酒精を消化していく。
アーレヴはそんな二人にチャーム(バーに入ると最初に出されるおつまみ)のナッツを差し出しつつ、洗い終わったグラスを念入りに磨き始める。それはバーテンダーにとっては日々繰り返される、大切な儀式。
新しくやって来るお客様に、くすんだグラスを提供せぬよう気遣う為に必要なことなのだから。
だが、予期せぬ客、というのも確かに存在する訳で、それが夜も遅い時間にしかも若過ぎる女性が一人っきりで、
「……はぁ、はぁ、はぁ……た、助けてくださぃ……」
さも追われて逃げ込んで来た、といった調子であれば、彼が掛けるべき言葉の選択肢は少ないだろう。
「お客さん、お一人ですか~?」
「バカアーレヴッ!!見りゃ一人なのは一目瞭然だろ!!」
言葉の意味を掴みかねて呆然とする少女に駆け寄りながら、モルフィスは彼女に手を差し出して、
「どーしたどーした?こんな夜更けに一人で……見たとこ、あちこち走り回って辿り着いたって感じみたいだけど……アンタどこから……」
そう訊ねた瞬間、荒々しく表の扉が開かれて、中に黒っぽい衣装を纏った男が三人雪崩れ込んで来る。
身を縮ませてモルフィスの背後に隠れる少女を遮るように、ハジメは前へと進み、周囲に巻き込まれる者が居ないことを確認した。
「……ンフ♪……もう……飲めましぇんよぅ……」
定番の寝言をクァイナが発し、男達は若干気勢を削がれたかに見えたが……気を取り直して、
「……そいつを、こちらに渡して貰おうか?」
意外に通る声で、ハジメとモルフィスへと言ったのだった。
そろそろボッコを書きたくなってきました。




