ひとまずおいて、
久々更新恐縮
「……そんなものなんですか?はぁ……まぁ、仕方ないか」
ハジメとクァイナは町の櫓に陣取ったシャルロットに討伐終了の旨を伝えたのだけど、返ってきた答えは意外なものだった。
「ん、お疲れ。まず、町に迫っていた砂漠鯨の危機は回避出来たんで、それはヨシ。でもな?討伐と撃退は全く違うからな?そこは理解してくれるよな?」
(……大きな声じゃ言えないけど、某ゲームと同じだよね?)
(……そうね……大切なことだから、押さえておかないとね……)
ハジメとクァイナは超有名ゲームのことが脳裏を過ったけれど、詳細は誤魔化しておいた。流石は元社会人のお二人、判っているようで……。
「でだ、あんたら《クァイナと愉しい仲間達》は、数多いライバル達を出し抜いて砂漠鯨撃退に成功した!これは事実!……でも、討伐はナシ……あ~あ、あ~あぁ!!……俺、砂漠鯨のサエズリとかコロとかオノミとか大好きだったのによぉ……役立たずめ……」
恨みの籠った眼差しのシャルロットだったが、ハジメもこればかりは譲れない。何せ彼だって(精神的に)幾度も危機を迎えていたのだから、おめおめと引き下がる訳にはいかなかったのだ。
「……お言葉ではありますが、あの群れの真ん中に立って、生き延びることが出来たのは、俺ともう一人……ええっと……何て名前だったっけ?」
「……アンタって基本的にやれば出来る子だけど、やってみると失敗だらけよね……まぁ、ともかく!ハジメとデフネさんは無事に帰還しました!デフネさんは流しの討伐者だったので、細かい報酬は欲していませんでした!」
クァイナの説明にうんうん、と頷いていたシャルロットは、ハジメとクァイナの方を交互に見ながら、
「だろうなぁ、アイツは金や名誉、ましてやコッチの都合なんて微塵も気にしてねーだろうからな……ま、ほっといて、アンタらの加算ポイントは……20ポイント!」
……その言葉を聞いた二人は顔を見合わせたまま、しばらくお互いに色々と予測してみたものの、結局判らずじまいだったので、
【……そのポイントって高いの低いの?】
と、心の声で静かに問い合わせてみた。
「あーあー、判ったっての!ポイントってのは、積み上げれば《現世への一時帰還》を叶えることが出来る評価の単位だよ!100ポイント貯めれば一泊二日の滞在を許可されるから気張ればいーんじゃね?」
と、これまた正直に答えてくれました。流石は懐の深い女神様です。
「……そうなの?ふむぅ……そう……」
「……ありゃ?反応そんだけかよ?……まーいーや。ホイ!コッチは討伐の報酬!!ま、少なくもねーけど、大事に使えよな?」
シャルロットが差し出した報酬は革袋に入った金貨数枚、銀貨多目のなかなかな量だったが、二人にとっては命を懸けるに値するとは到底思えない対価だった。
受け取ってから無言のまま数えて中身を確かめて、クァイナはシャルロットに向かって一礼して、ゆっくりとシャルロットの元を辞して、無言のまま、ぽくてくと歩き始める。
「ちょ、ちょっと待ってクァイナさん……ったらぁっ!?」
雰囲気の重さに居心地が悪くなり、クァイナを引き留めようとしたハジメだったが、彼女が突然足を止めたので背中に当たりそうになる。
「……ねぇ、ハジメ……私、言ったことあったっけ?……」
「え?……何……のことを……?」
「私……コッチの世界に来てから……ずーっとフラッシュバック(※①)で眠れなくて……」
そう言うクァイナの表情は喜怒哀楽の欠如した、仮面のような平淡さだった。言葉にも抑揚は乏しく普段の感情豊かな様子は皆無で、ハジメの心中に波風が立つ。
そんなハジメの雰囲気にハッとしたクァイナは、
「あっ!!いやいやそんな深刻な話じゃないの!!うんうん……あ、そーだー!あそこで話すから、ね!?」
慌てて先を歩き出し、後ろも振り向かずにハジメの首を鷲掴みにして振り回しながら、一軒の喫茶店らしき店へと足早に向かい始める。
(あがががががががががっ!!?ま、まさか……クァイナさん、手首と首を間違えてるとか!?てか重さで判るから普通ならぁ~!!助けて助けろ~!!)
普通の人間なら酸欠と血流不足で失神確定状態だが、宇宙戦艦の船首人形だからこその丈夫さを誇るハジメは、良くも悪くも店内に入るまでそのまま引き摺られて行きました。
※①→フラッシュバック。事故や事件に巻き込まれた被害者や当事者が、その瞬間の映像や記憶が甦り精神的に不安定になること。古くはベトナム戦争従軍兵士が不眠症や記憶障害、異常行動等により社会的生活を送れなくなり犯罪や自死へと導かれて問題化した。しかし、文献や記録が曖昧なだけで、当然ながら遥か昔から存在はしていただろう。
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四段程の階段を昇り(ここでクァイナは初めてハジメにしていた拘束を解いた)、扉を開けて店内に入る二人。
その店は転移者が経営しているのだろう、どことなく簡素な室内の端々に現代的な調度品が垣間見え、なんとなく二人は落ち着き従業員の女性に促されるままに席へと案内される。
「……ご注文が決まりましたらお呼びください」
静かに言いながらメニューを差し出す彼女が立ち去り、二人は眺めながらアイスティーらしきものを注文し、暫くしてから運ばれてきて置かれるまで、まだ開店して間も無かった無人の店内、無言のままだった。
どちらともなくカップに口をつけてから、中身の苦さに辟易としつつ砂糖のないことに苦笑した二人は、それを皮切りに話し出した。
「……ハジメ、私……コッチの世界に来てから……その、うん…………、投身した瞬間から……のことが思い出されて……まともに眠れたことが一度も……なかったの」
「……一度も!?そ、それって……いつから!?」
クァイナの告白にハジメは驚愕しながら答えを待つが、クァイナが口を開いたのはそれから暫くしてからだった。
「うん……こっちに来てから……三ヶ月……位かな?…………眠りが浅くても倒れたりはしなかったけど……何かと集中出来ないし、況してや……こう、戦いみたいなことなんて……全然出来なかった……」
俯きながら告白するクァイナの話の内容は、ハジメの記憶にある彼女の姿に一つ一つ当てはまり、欠けていたパズルのピースが嵌まり込むような実感を与えていた。
((あじがどぉ~っ!はじめぇ~っ!!わだじ……もうずっど……レブェルアッブじながっだがらぁ……諦めでだがらぁ~っ!!)……って言ってたのは、彼女の経験値がゼロだったからか……当たり前な話だよなぁ……それにしてもあの時は良い匂いしたなぁ……正にお花畑!!って感じだったねぇ……)
「……ちょっとハジメ!聞いてるの!?」
「あ、はい!!ごめんなさいっ!!」
……もう、ちゃんと聞いてなさいよ……、と口ごもるクァイナだったが、それはともかく!と前置きしてから、
「それで……実は、アンタと一緒に寝てから……あ!あともルフィスも居たか!で、そ、それから……ずーっとキチンと眠れるようになったのよ……」
「……はい?……うん……あ、《あたたかいおもてなしの心》のおかげか!?」
「やっぱり!!そんなことなんだろうと思ってたけど……理由はアンタだったのね……そっか、納得だわ……」
クァイナはそこまで話した後、カップに再度口をつけて、やっぱり苦さに辟易としながら一息ついて、
「……わ、私が言いたかったのは、その……た、たまにで良いからねッ!?ホント、たま~にで、良いから……その……変なことしちゃダメだけど、その……一緒に寝てほしい……ってこと!!も~ッ!!変にゃこと言わせないでよバカハジメッ!!」
「……うん、変なことはしないから、たま~に、一緒に寝ますよ、ハイ」
ハジメの答えを聞いたクァイナはモジモジしていたが、丁度折よくカップを下げに来た従業員に向かって、
「あ、会計お願いします!……で、これって何のお茶なんですか?」
「はい、こちらですか?これは霊芝と冬虫夏草を配合した、薬膳茶……だそうです。マスターのオリジナルブレンドですが、如何でしたか?」
「や、薬膳……ですか……何だか元気になりそうですね……あ、アハハハ……」
ブレンドって、何が入ってるんだろうか……と、追求するのは止めにした二人は大人しく店を出て、とりあえずマニトバの待つモルフィスの店へと向かうことにした。




