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さて、帰りますか。



 「お?何だ何だ?この()はアンタの……コレか?」


言いながらニヤリと笑いつつ、右手の小指を立てるデフネ。


「「ち、違いますって!!」」


見事に二人してハモり、そして互いの顔を見合わせながら何となく気まずげに俯くハジメとクァイナ。


「あ、そーいやさっきリーダーがどうのこうの……とか言ってたわよね?じゃ、ここらでパーティ組んで仕事してんだ!ふ~ん、なるほどねぇ……」

言いながら交互に二人の顔を見つつ、まぁ、若い者同士仲良くやんなさいな?と、見た目と裏腹に年寄りじみた言い方をして、デフネはそれはともかく、と前置きしてから、


「……あの砂漠鯨の姐さんが、君にも話があるって言ってたわよ?ちょっと付き合ってあげたら?」


と背中越しに親指を向けてハジメを促す。その先には、大型旅客機並みの巨体が背中を砂の上に晒し出したまま、時折ゆらり……と身を動かしている。

その様子は砂漠に突き出た岩盤にも見えて、動かなければそれが生命体だとは思えない程の大きさだった。


「……改めてこうやって見ると……呆れちゃう位の大きさだわ……遠くから双眼鏡で見てたけど、アンタこのクジラ達と一戦交えてたんでしょ?」


「うん……それどころか四方囲まれてました……俺、何考えてたんだろ?絶対無理ゲーだって……」


お互いにそう言い交わしながら近付いていくと、砂漠鯨はゆらり、と身体を捻り二人に正対し、


【……あら?……いつのまにか知らないお嬢さんが居たのね。はじめまして……私は砂漠鯨(サンド・ホエール)の雌の群れを率いている《砂漠の女王》と、名乗っておきましょうか……そちらは?】


「は、ハイ!……えと、わ、私は……このハジメをリーダーとして編成されている【クァイナと愉快な仲間達】のメンバーの、クァイナ・ベアクルスと言いますぅ!」


内心、目の前の巨躯から放たれる言い知れない圧迫感(オーラか?)に気圧されながら、クァイナは力強く答える。ちょっとだけ語尾が裏声になっていたけれども、《砂漠の女王》は細かいことに拘らず、


【フフフ……自分の御名前をパーティ名にするなんて、面白い娘さんね……♪それにしてもハジメ君、なかなかやるじゃない?転移者としては何と言うか……そうね、一本筋の通った所があるわね。……何せ、うちの方には怪我をした子も居なかったし、最初からそうしてたんでしょ?】


と、何となくハジメを高く買っているようだった。


「いや、それはその……ただ、何となく意識を持った相手だし、それに俺……あんまり殺し合いみたいなのは好きじゃないから……そんだけですよ……」


【あらあら……謙虚ですこと。でもそういうの、嫌いじゃないわよ?ま、とにかく今日はお疲れ様。さっき渡した物は私達、砂漠鯨からの餞別よ。勿体振って先伸ばしにするのは嫌だから、ね?】


と、伝えた《砂漠の女王》はハジメの方に、ずいいぃ……、と大きな顔を寄せてから、



【……ハジメ君、あなたの力……《神殺し》の出る可能性が有るって聞いたわ……忠告しておくけれど、神はそんな貴方を野放しにはしないわよ?きっとね……。だから、もし……本当に困ったことになったら、砂漠に逃げなさい。逃げて逃げて逃げて……そうして砂漠の真ん中に在る《星渡りの船》まで逃げなさい。そこまで逃げられたら、私達が助けてあげましょう……】


と、ゆっくりとしたリズムで伝えた後、静かに身を翻して砂へと少しづつ潜り始める。


「ち、ちょっとタンマ!待ってくださいって!!……それってどーゆーことなんですか!?……野放しにしないとか物騒なことになるんですかッ!?ねぇ、ちょっと!!」


【…………神々は……自らに忠実な(しもべ)は欲するけれど…………逆らうような輩には容赦しないわよ?……ハジメ君、永遠に滅したくなかったら……時には寝たフリも必要なのよ?…………私達みたいにね…………】


それだけ伝えた《砂漠の女王》は、身体全てを砂の中に没して見えなくなってしまった。



「……よく、判らないよ、そんなこと…………まぁ、いいか」


ハジメは独り呟くと、傍らのクァイナの方を見る。彼女は複雑そうな顔で彼を見つめながら、


「……《神殺し》……ねぇ……ハジメ、あんたの力ってランダム要素が強いから、どんな結果が出るかは判らないんでしょ?……その結果が……何だか色々あった末にとんでもないことに、なったら……なったら…………」


「……ならないよ、たぶん。……でも、なりそうになったら、クァイナさんが俺をブッ飛ばしてくれれば何とかなるんじゃない?」


「……ブッ!?ちょっと待ってよ!!まるで私がしょっちゅうハジメのことをブッ飛ばしてるみたいじゃないの!?」


「……二人とも何をじゃれてるのよ、もぅ……妬けちゃうわよ?ホント……」


言いながら拳を振り上げるクァイナの背後に、いつの間に現れていたデフネが煙管片手に溜め息が出そうな声をあげつつ立っていた。


「ふぁっ!?いや、別にじゃれてなんかいませんよ!?ねぇ、リーダーのハジメさんッ!?」


「……まぁ、そうなんですけど……あ、デフネさんもコレ、持っていきますか?」


ハジメは貰った竜涎香を取り出そうとするが、彼女は「私も貰ったから心配しなくていーわよ?……それに私の目的はまだ別にあるからねぇ」と言いながら町へと戻る為に歩き出す。


「さぁ、宴は終わりよ!そんじゃ、一足お先にぃ!!」


言いながらコウモリの翼然とした羽根を伸ばした彼女はばさっ、と一回羽ばたいた後、ゆっくりと浮上しながらクルリ、と身体を回してハジメとクァイナの方に向かって、


「ハジメ、あんたなかなか死なないみたいだから、いつか稽古の相手してくんないかな?……もしハジメが勝てたら……そうねぇ、()()()()()()()()()()()()……そんじゃ、それまで死ぬなよ?」


それだけ言い残したデフネは、二人を置き去りにして羽ばたきながらあっという間に高く舞い上がり、振り返りもせずに見えなくなってしまった。


「……ハジメ、私達も帰ろうか?」


そう言いながら、クァイナはハジメの手に自らの手を重ねながらギュッ、と掴んで、


「……ハジメが嫌じゃなかったら、町に近付くまで……こうしてて、いい?」


と、恥ずかしそうに言い、そして俯いたまま暫く歩きながら、思い付いたようにポツリと、


「でも……誰か来たら……手、離すからね?」


……と、ハジメに伝えつつも、どこか嬉しそうに手を振るクァイナだった。




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