質量対質量
間が空きましたが投稿します。
確かに俺の耐久力は半端ない。力も本気なら常軌を逸してる。でも……その力を振るう人間の心は……普通の人間なんだよな。
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砂の中では視界の全く効かない状態ながら、息を止めて潜る彼等は音響探知を活用し、お互いの場所はおろか、地形や砂上に居る人間の位置や動作、更には性別や装備品まで判るまでに進化している。
と、小難しく言うよりも、砂の上に転がるメタクチャになった元チート能力者の亡骸を見れば一目瞭然。
《砂漠の鯨》と呼ばれる彼等は、もう鯨類の範疇に収まらない無双振りを遺憾無く発揮し、砂漠に特化した生命体として無謀な挑戦者を捩じ伏せ続けるのであった。
《……何でアイツ、普通に砂の上を歩けてるの?》
群れを率いるリーダー格の雌鯨、通称【サンドクィーン】はハジメの進む姿を感知しながら驚いていた。
何故ならその場所は仲間達が念入りに砂粒の粒子結合を緩くしている箇所を、全く意に介さず歩き進んでいたのだ。
《だ~か~ら~ッ!!ちょっとアンタ!あの子だけ何で普通に進んでるのよ!?》
あ、ハイ……それはハジメが超時空戦艦の船首人形で、つまりアイツは見た目こそ人間だけど、実際は他の次元に存在するバカでっかい戦艦の極一部が、アイツの姿を借りてチョコッとだけ、こちらの次元にコンニチワワしてるだけだから、足元にアリ地獄が有ろうと何が有ろうと関係無いってことです。
《ふ~ん。でも、人間だってことは変わりないのよね?……だったら、真面目に追い込めばいいって訳?》
……追い込む……って、それ、堅気の言葉じゃないですよね?
《う~ん、どっちかって言うとカチ込むかもしれないね~♪》
……怖い。
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砂漠の鯨は、数百年掛けて……一族が束になって練り上げてきたチート能力者である。
砂漠に濃密に溶け込んだ魔素を吸収し、体内に取り込んだそれを用いて生きる糧とし、産み育てて育み……更に磨きを掛けてきたのだ。
その能力は単純明快だ。より速く、より強く……そして、
……《生きる為の力を高めて》きたのだ。
「……こうやって砂漠の真ん中まで来ると……足元に鮫が泳いでる水槽に入る様に緊張するぞ…まぁ、そんなこと絶対にしたくねーけど……」
ハジメはかなりの距離を進んでいたが、遂に一歩も歩けない場所まで来てしまった。
彼の周りをグルグルと波打つように何かが動く震動が伝わり、時おり隆起した背中が一瞬、垣間見えたりして……すっかり包囲されているのが手に取るように判ってしまうのだ。
遠くでは巨体が中空まで飛び上がり、砂煙を上げながら着地し再び潜っていく。その大きさは彼の数百倍近くあり、着地により発生する衝撃波は凄まじいの一言。ビリビリと空気を震動させ、その圧力は距離の離れたこの場所まで僅かながら感じられる程だった。
「……ん?……な、何だあれ……こいつら、鯨じゃなかったのかよ……ッ!?」
視界の隅で繰り広げられていた攻防は、彼の【砂漠鯨】に対する認識をガラリと変える程の光景だった。
頭の先を少しだけ覗かせた砂漠鯨に、巨大な氷柱を叩き付ける転移者。しかし、一般的な車並の氷柱が触れる瞬間、砂漠鯨は頭部の先端から砂を吹き出し撥ね飛ばした。
振り下ろされた勢いと同じ速度で、自らに向かって跳ね返る氷柱を真横に転がることで辛くも避けた転移者だったが、次の瞬間、
ブフォッ!!
無慈悲な砂の奔流は、起き上がろうとした転移者を包み込み宙へと跳ね上げ、そこに追い打ちを掛けるように付近に現れた砂漠鯨が、次々と砂の息を吹き付ける。
まるで風に舞い上げられるちり紙のように空高く飛ばされた人間は、ハジメの目の前に落下する。
「……う、うげぇ……こんな死に方したくないっての……!」
落下した人間は糸の切れた凧のように無残に墜落した後、手足を振り回しながら転がり続け、やっとのことで停止したその姿は余りにも悲惨だった。
関節が砕けた手足はあらぬ方向に投げ出され、首は捻れて有り得ない角度で曲がり胸元に埋まっていた。その胸部も肋骨が全て砕けているのだろう、口や鼻から血を垂れ流して埋まるその顔は男女の区別もつかない程に傷付き、遠心力で引き出された舌が最期の命を灯す蝋燭のように痙攣しながら微動していた。
だが、そんな無惨な亡骸も……砂漠鯨にとっては数多くの標的の一つに過ぎないのか、砂中から現れた長い尾鰭が作り出す影に隠れたと思うと、
……ぐちゃ。
蝿叩きの要領で止めの一撃を加えられ、ひしゃげた肉塊と赤黒い血溜まり、そして生々しくはみ出す臓物の痕跡のみを残して人から物へと変えられた。
「おえええぇ…………ひ、ひでぇ……な、何でここまで……っ!」
思わずえずいてしまうハジメ。その目尻には吐き気を堪える際に溢れた涙とは違った、彼の感情的な高ぶりに伴い流れた涙も含まれていた。
《あら?アナタはいちいち蝿を叩くのに理由や正義を説かないと指一本動かせないの?随分と博愛主義者なのね~♪》
思わず口にした言葉に、どこからともなく聞こえる声が砂漠鯨の発した物だと判り狼狽えるハジメだったが、
《そんなに慌てることないわよ?だって……アナタ、私達の群れのど真ん中に立ってるんだから……》
……ずずずっ、と目の前の小さな砂丘が動き出し、それすらも砂漠鯨の体の一部だと理解したその時、
《はじめまして、ちっさい転移者さん。ねぇアナタ、今から私達と遊んでくれないかしら?》
砂漠鯨の一頭がその身体の大半を浮上させて彼に姿を見せ付ける。おおよその大きさとしては、大型旅客機よりも一回りは大きく、その全身は滑らかな曲線で構成され一切の突起は見当たらず、砂の中を進む為に進化した体型は長い尾鰭が身体と同じ長さまで発達し、まるで深海魚のようだった。
更に我々の知るような鯨の類いと最も違う点は、その口蓋の端に有る筈の眼は無く、それが光を一切通さない砂の中を進む彼等の最も顕著な特徴だった。
《……驚いた?……私達がアナタの知ってる鯨と全然違うこと……でもね?これでも私達は普通に生きて、恋をして……子を産み育てて生きているの。見た目が違っても、不可思議な能力を持っていても、それでも私達は鯨……の、仲間なの》
「……で、でも!だからと言って……こうも簡単に残酷に人間を殺さなくても……」
《あははははははっ!!そうね、そうよね!ごもっとも!……でも、そんなのは御互い様よ!》
そう答えた砂漠鯨はゆらゆら、と尻尾を振りながら、見えていない眼を向けるようにハジメの方に頭を揺らしたりしながら続ける。
《……でもね?……昔、私達の仲間を殺して殺して殺しまくってその骨で小屋を建ててその中に鯨の油を保管したりしたアナタの祖先達に、同じ質問をしたら何て返答したのかしらね?……きっと【生きる為に他の生き物を殺すことは仕方ないことだ】とか言ったと思うわよ?》
揺れる尻尾がピタリと止まり、一瞬沈黙が降りた後、砂漠鯨は尻尾の先を砂に差し込むと左右にくねらせて少しづつ身体を砂の中へと埋め始める。その様子は砂漠に生きる蛇のようで、そんな蛇の動画を一度見たことを思い出した時には、砂漠鯨の姿は既に半身を砂へと隠していた。
《……だから、私達も生きる為に……生き延びる為に……立ち向かう人間を殺す。娯楽の一環として葬る。立ち塞がる相手を残酷に蹴散らす。全能力を使い、全員一丸となって、容赦なく叩き潰すわ!》
「ま、待ってくれ!俺は別にあんたらを殺す気はないし、動機も何も無いんだから……」
姿を隠しかける砂漠鯨に叫ぶハジメだったが、相手はただ一言、
《……生き延びることが出来たなら、またお話しましょうね》
と、言った瞬間、彼を取り囲むように三百頭の砂漠鯨が次々と周囲に姿を現した。その大きさは最初の一頭よりは各々小さいものの、それでも滑らかで漆黒の表皮に包まれた巨体は、ハジメの戦意を見る間に削ぎ落とす程の圧倒的な威圧感に満たされていた。




