【査問審査】
目覚めた時の光景は、今でも忘れはない。
目覚めた直後は、つい先程強制的に転移させられた映画館の中(ハジメ曰くあそこは試写室だったそうだ)なのかと思ったけれど、周りに誰かが居る気配を感じ少しだけ頭を起こし、自分が身体を横にしていることに気付き、そして周りを囲むように立つ者の姿へと意識を集中させる。
私の周囲を見たこともない人達、いや……【役の神】達が取り囲み、その中には明らかに戦さに特化したとおぼしき姿の、手に見たこともないような武具を携え全身から殺気を漲せている神々も見てとれた。
武具……と言えど、私が見てどのような使い方をするのかは皆目検討も付かない。だがもし、神が使うような物が人間相手に振るわれたら……果たしてどうなるのだろうか?想像した私は思わず身震いしてしまう。
けれど居並ぶ神の数を見ると、どうやら私達に使われるような代物じゃないんだろうな、と薄々だが感じ取れる。何故なら……彼等は私の周りにではなく、その先に横たわる黒衣の魔女の周りに多く居たのだ。
やや薄暗い周囲はどうやら木々に囲まれた林の中のようで、そう言えば馬車が停まってハジメが黒衣の魔女と相対した場所だった、と思い返して周りを見回すと、離れた場所に馬車が停まっているのが見てとれた。
「クァイナさん……目が覚めましたか?」
傍らのマニトバさんが私の頭を膝の上で支えながら、覗き込むように語りかけてくる。
「マニトバ……さん?こ、これは一体……?」
「……クァイナさん……静かに。……これから【査問審査】が始まるそうです……」
何なの……【査問審査】って……?
マニトバが口にした聞き慣れない単語を反芻しながら、私は彼女の膝の上から身を起こすと、神々に取り囲まれている中にハジメの姿を認め、疑問に思う。
……自分の力を悪用して、やりたい放題に暴れまわったあの魔女が査問何とかされるのは、判るけど……何でハジメまでそんな目に合わなきゃならないの?
「ち、ちょっと待ってアゴゴゴゴモァ!?」
(シーッ!!クァイナさん……【査問審査】の最中は、静かにしないと退廷させられるって【役の神】様が言ってらしたわ……最悪の場合、《この世界》から退廷させられるそうです……)
叫ぼうとした私の口を塞ぎ、声を潜めながら囁くマニトバさんの言葉には、明らかな恐怖、そして成り行きの判らない不安が感じられて……私は口をつぐんだ。
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「……イチ・ハジメ、そなたは……この《木村 美奈子》の仮の姿……通称【スキル・ラーニングの魔女】に自らの力を見せて転移を促した……相違ないか?」
先頭に立つ屈強なビキニパンツ一丁の【役の神】が、筋骨隆々の姿を晒しながらハジメに詰問する。
「……それは違います。俺はその……【スキル・ラーニングの魔女】って人に【ステータス閲覧】とか言う奴を掛けられて、まぁ、その……自分のスキルを丸裸にされただけで……あ、別にそちらの格好に上手いことかけた訳じゃないですよ!?……いや、少しは意識したんですが……それで……そう!」
そこまで言ったハジメはポン!と手を打ち、
「その人がステータスを見てから、《私も同じ力が貰えるのか?》と聞かれたので、俺は《それは《超時空戦艦》次第じゃない?》と答えたんです……えぇ」
と、思い返したように返答し、促した【役の神】の様子を伺う。
「……それが真実ならば……そなたの意思で授かった【超時空戦艦】の能力を、
この悪意に食い尽くされた《木村 美奈子》に分け与えようとした訳ではない、ということか?」
片手を顎に手をやりながら【役の神】はそう言うと、元【スキル・ラーニングの魔女】……今は脱け殻のような呆けた表情で地面を見つめる女の方を見ながら、周囲の【役の神】と二言三言交わした後、
「……【役の神】を束ね【裁決】を司る我、アドンが申し渡そうぞ……そなた、イチ・ハジメは自らに与えられたスキル【超時空戦艦】を他者に与えた疑惑は不問と処す。……それと、我のこの姿は知り合いに勧められて試したのだが……やはり、駄目か?」
ビクビクッ!と大胸筋を蠢かしながら、若干残念そうにしている【裁決】のアドンに内心で(いや、俺たぶんその知り合いの女神に会ってますよね?以前に……)と思いつつ、
「駄目とか全然ありませんよ!いや逆にイケてると思いますよ!?うーん凄く逞しいです!すっごくキレてますよ!」
たぶん、これが正解だろうと考えて答えると、その言葉に気を良くしたのか片眉を上げながら……そ、そうか?うむ……そうか!と納得した様子で、
「……やはり、彼女の見立てに間違いは無かった訳か……《素晴らしい肉体には衣服など無粋で無用の長物なんですよ♪》とか言っていた意味が……今なら判る……気がするぞ!」
フハハハハハハッ!!と笑いながら肩で風を切り颯爽と身を翻し、これにて【査問審査】は終了である!その者は引っ立てい!と叫ぶや否や、地を突き破り巨大な腕が黒衣の元魔女を鷲掴みにすると、一瞬で引き込んで消えてしまい、その場に開いた穴へと瓦礫が降り注ぎ両方の姿は見えなくなっていた。
《ねーねーどうするこの後!》
《久々の下界だから飲んで帰るぅ?》
《予約なしで入れるなら……あ、くえばわかる亭なら楽勝じゃね?》
《わ~い♪あそこの腸詰め、マジヤバイ位に旨いんよ?》
《ウッソ!?マジで!?行っとくぅ?》
《ヨシ!じゃ、そこで集合ねぇ~♪今日も遅れた奴の総払いってことでぇ~!》
ワイワイガヤガヤとはしゃぎながら、順次解散する【役の神】達……その後ろ姿は、どこから見てもアフター残業の勤め人にしか見えないのだが。
「……じゃ、俺らも帰ったら飯にすっか?……馬車はまだ有るから……急げば町まで暗くなる前に着きそうだし……でも馬車って……どうやって動かすの?」
「馬車なら私が操れますよ?……こう見えても馬を操る位は為せますから!……貧乏貴族の娘ならお手のもの、ですわよ?」
犠牲になった筈の御者の痕跡が見当たらないことにホッとしつつ、とりあえず御者台へと乗り込もうとするハジメを制したのはマニトバだった。
「いや、それはお願い出来れば助かりますが……ほら、こっちのお客さん達と話しながら帰れた方がその……何かと捗るんじゃない?」
しかし、ハジメがそう言うことに怪訝な顔をした瞬間、
「マニ御姉様!!ふええぇ~ん!!」
「こ、こら!何で先に……私が先に……もう……うわあああぁ~ん!!」
彼の後ろから白いドレスを着た、二人の少女が飛び出すと次々にマニトバへと飛び付き、ぐしぐしと顔を押し付けながら泣き始める。
「マイラ!……それにクリトガも……今まで一体何処に居たの!?」
「あ~、それは言ってなかったけど……この近くに有った民家に押し籠められてたみたいで……ま、見つけたのは【役の神】さんなんだけどね……」
その民家の住人は全員事切れていたのだが、二人は二階の一室に軟禁されていたという。
果たして黒衣の魔女が何を企んで二人を拐かしたのか、だが真相は自らを閉ざした彼女の深い心の闇の底に沈んでしまったが。
「……でも、二人には怪我一つ負わせてなかったみたいだし……まぁ、今はいっか……」
マイラとクリトガ、そしてマニトバ……何故か貰い泣きしてるクァイナの四人の姿を見ながら、ハジメはひとまず……そっとしておくことにした。
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深い深い闇の底……私は沈む……冷たい水のような闇の中を。
偶然与えられた力は私には重過ぎた。目標も無く宙に浮いたまま、流されるままに討伐などを繰り返し……次第に私は心の中に闇を溜めていった。
闇はいつでも私を見つめていた。私は闇を見ない振りして誤魔化して来たが、ある時……救い出した筈の人質に「何も……殺すことなかったのに……っ!」と言われた瞬間、私の中の闇は静かに微笑みながら……囁いた。
《……あぁあ、だーから言ったでしょ?……控え目な女なんて……男から見たら物足りないだけ……只の飯炊き専門の使用人同然よ?》
転生前にそう言われたことを思い出し……気がつけば人質を黙ったまま千切りにしていた。
……もうやーめた!聞き分け良く大人しく甲斐甲斐しく女らしく……使い勝手よく……床あしらいよく……都合のいい女は!!
それからは……男に近づいてはスキルを盗み、使い道が無くなったら夜伽の最後に棄てて終わり。自分より強そうな奴でも……睦み合いの最中ならば簡単に殺せた。
私は……一つの目標を決めた。いつかこの力を持ったまま、現世へと返り咲きしてやる……そして、私を向こうの世界で徹底的に追い詰めてくれたクズ共に復讐する。その為に……神に仕える予定の小娘の能力を盗み取ろうとしたのに……、
……バカみたいに大きい癖に……ちっとも強そうじゃなくて……おまけに能力を盗み取ろうとした相手に「たぶん【超時空戦艦】が許してくれるなら大丈夫じゃない?」なんてアッサリと許しちゃうとか……バカの極致に、
……あっさりと降参した。……いや、力に満ち溢れ残忍で、残酷な位に自己中だった【スキル・ラーニングの魔女】が、ではなく……《木村 美奈子》が白旗を挙げたのだ。
沈み続けて辿り着いた底で、巨大な長い爪を生やした手が……私を燃え盛る熔岩のような中へと放り込み……
《贖罪の転生》を始める為に……まず魂を抜き取られた。
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「……ねぇ、ハジメ……私達、どーなっちゃうんだろうね……」
クァイナは御者台の上で、ハジメと並びながら馬車に揺られていた。彼女のショートヘアーの髪は揺れに併せて、ふわり……ふわり、と舞うように広がっては、柔らかく静かに沈む。
その度に髪から漂う香油の薫りがハジメに届き、どうしても異性として意識してしまう。
「ん?……うん……どーしたの?急に……クァイナらしくないてててッ!!」
ボカスカと握りこぶしを振り乱して無言で乱打するクァイナだったが、本気で叩いている訳ではなさそうだったので、ハジメは暫く好きにさせておくことにした。
「もぅ!ハジメのあほちん!!……私だってたまには真面目に考えるのよ?悪かったわね……」
暫く沈黙が漂ったが、後ろの馬車からマニトバ、そしてマイラとクリトガの三人の明るく朗らかな笑い声が聞こえてきて、思わずクァイナが、はふぅ……、と柔らかく溜め息を吐いてから、
「三人、仲いいわよね……六つ違いの双子の妹かぁ……ハジメは兄弟居たの?」
「……ん?……居なかったよ……高齢出産だったから……」
そうなんだ……うちも変わらないよ?一人っ子だったわ……。クァイナはそう言いながら、
「……チート持ちの魔女って言っても……頭おかしくなって……廃品回収みたいに連行されて、さようなら……だもん。……おかしくなったら、私もあんな風になるのかなぁ、って、思うと……ちょっとね……」
「クァイナはそんな風にならないよ、たぶん……」
ハジメは(……だって俺が居るから……)と続けたかったけれど、その言葉は飲み込んで、代わりにこう言って締め括ることにした。
「……だって、あんなにたゆんたゆんしてないものおおおおおっ!!!!」
「バカバカバカバカバカ~ッ!!クッソ真面目に言ったのにおっぱい比較すんなっ!!」
ボカスカからゴッゴッゴッ、と筋繊維に食い込み骨に響く鈍い音を奏でながら、ハジメは重量級のフックとレバーブローの乱打に悶絶しながら崩折れる。
「ねぇマニ御姉様、何で表のお二方はお付き合いしてないの?」
「……マイラ、そういうことは二人が決めるのよ!……ねぇ、お姉様?」
「まぁ、そういうこと……ですわ」
マイラとクリトガの二人と向き合いながら、マニトバは御者台から転落するハジメを眺めつつ、丈夫な彼が少しだけ……羨ましく思えた。




