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転移者の中身





 《わたしはー、えと……これから旅立つぅー、あ……なんだっけ……?》


《カットカットカットッ!!もうどーしたんだよミナコッ!!さっきからずーっとド忘れしっぱなしじゃないか!!》


バシバシとメガホンを叩きながら怒りを露にし、付け髭ミナコ監督が激昂しつつ怒鳴り散らす。

しかし言われる側の女優のミナコは上の空で、感情の欠如した顔のままブツブツと呟きながら俯き立ち尽くしていた。



「……ねぇ、ハジメ……あんたの時もあんな風に何回もNG出しながらやってるの?……その、映画撮影って……」


クァイナはスクリーンに映し出されている、もはや茶番劇を超えた悲しい模様に唖然としつつ、ハジメに問い質す。


「……違うよ?俺の場合は一回か二回位だから……でも、あの人は……」


ハジメはと言えば、スクリーンを見つめながら暫く考えて……一言、




「……出られるのかな?……この()()()()()()()……」


そう、ぽつりと言うと、ポップコーンを頬張りながら画面へと視線を移した。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




「……全く……付き合わされるこっちの身にもなってほしいわ……もうポップコーンもなくなっちゃったわよ……」


頬杖のまま欠伸しながらクァイナは呟くと、既に眠ってしまったマニトバの様子を気にしつつ、ねぇハジメ……、と語りかけて、


「あの人は……あんたのスキル《超時空戦艦》をその……ラーニングしたのよね?……ってことは、あ~っと言う間に超絶無敵の不死身ボディになったんじゃないの?」


腕組みしながらスクリーンを見ると、何回も何回も出されるNGの度に激昂する付け髭監督ミナコ、そして……白いユニフォーム姿(しっかりと赤い下着が透けて見えてる)の……あの黒衣の魔女とは似ても似つかぬ、疲れきった中年女性がたどたどしく演技を続けていた。


「……あ、そこは台詞違うっての、もぅ…………ん?あー、それは違うよ。だってあれ、スキルじゃないから」


「えっ!?あ、あんなに強いのに……スキルじゃないのッ!?」


あっけらかんと否定するハジメに驚愕するクァイナ。そりゃそうだ、巨獣に噛まれようと踏みつけられようと、又は鋭利な剣で一方的に滅多切りにされようと全く効かない不死身の姿を晒しているにもかかわらず、それは能力(スキル)ではない、と言われたのだ。


ハジメは驚くクァイナの前で、ポリポリと頬を爪先で掻きながらスクリーンを見つめつつ考えてから、


「ん~、判り易く言うと……クァイナの言う頑丈さと力ってのは……ただ当たり前に自分自身が《超時空戦艦》の一部だから、ってことだから……かな?」


「何それ?……あ、そーか……ハジメは【超時空戦艦の船首人形(フュギィア・ヘッド)】だって言ってたわね……そうよね……幾ら巨大な獣でも、何千倍の大きさの構造物じゃ相手にならないか?……それじゃ、あの人はどうしてずーっと映画の中でNGを出し続けてるの?」


不思議そうに訊ねるクァイナの質問に、それは簡単だよ!と、明るい表情になったハジメは右手を振り上げて、


「俺には【超時空戦艦】のクルーとしての、いや……船首人形(フュギィア・ヘッド)としての誇りがある!!俺が先頭に立って巨大な超時空戦艦を先へと導く使命がある!!……そんな気骨に答えてくれるからこそ!【超時空戦艦】は俺に力を与えてくれるのさ!!」


と、明朗快活に答えたのだけど、クァイナの反応は、


「あー、そうなの……つまり、やる気が無いと力が与えらんないってことじゃん……普通の人なら、あんなスッケスケなハズい格好で茶番劇やれ!って言われたら……誰でもあーなるんじゃないの?あ~、アホくさぁ……。ふああああぁ……もぅ眠たいわぁ……」


と、至って冷静に返答した後、諦めて寝ることに決めたのか、バスン!と背もたれに身体を預けると、おやすみなさぁい……と言ってすぐ、スヤスヤと眠りについてしまった。


「クァイナさん……あーあ、即寝とか……しっかし二人とも無防備な格好で……やれやれ……」


マニトバは両手を合わせて頬を預け肩へと載せながら、クァイナは両手を胸の下で組みながら(お陰で胸元が更に強調されるのなんの……)ハジメの肩に頭を載せて寝息を立てている。


マニトバはすっかり熟睡中らしく静かな寝息を立てているが、クァイナは寝入り始めだからか、時折モゾモゾと身体を動かしハジメの肩に頭を擦り付けたり、半開きの唇から悩ましげな声を出して何事かを呟いてみたり……見た目とは裏腹に少々騒がしいのだけれども……、


(……疲れてたのかな?……それにしても、クァイナさんはどうして俺に自分の能力のこと、話してくれないんだろうか……)


ハジメはクァイナの呟きを耳にしながら、ムニャムニャ……と本当に寝ながら言う人がいるんだなぁ……あと、ヨダレ、肩にかかってるの……何とかならないよなぁ……、と思いながら瞼の重みに堪えきれず、結局二人の後を追って眠りにつくのだった。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



……患者は心肺停止……、瞳孔反応無し……、脈拍……無し。


……可哀想に……若いのに、



《……若くてもクソみたいな生き方する位なら……死んだ方がいい!……ドブの水を啜って汚物を食む位なら……生きたくなんかない!》




【……そうなの?まぁ、割りと多いわよ?……あなたみたいに()()()()()()()()()()()()()()




……また、この夢……。


……結局、この夢を見なかったのは、ハジメと一緒に寝たあの日だけなのかぁ……。


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