ハジメの映画観覧
少しだけ変化球
「ハジメ……無事なら無事だって……あれ?何してんのよ……」
馬車から素早い身のこなしで降り立ったクァイナは、地面に顔をめり込ませて突っ伏したままのハジメと、その傍らで横寝の状態で横たわる黒いローブの黒長髪の女に気付き、警戒心を強めたのだが、
「く、クァイナさんッ!!そ、その女が緊急クエストの相手ですよ!」
と言われて思わず身構える。……だが、その割りにハジメと女は身動き一つしない。
「……まぁ、リーダーは不死身だから心配することないけど、問題はこっちよねぇ。……い、いきなりガバッ!と起き上がったりは……してこないか……えいえいっ!!」
お約束の小枝deツンツンを敢行し終えると、クァイナは女の方の身元改めを始める。脈を取り、息の有ることを確認し、ついでに胸元をチラ見して軽く舌打ちをしてからつつく場所を変えて、
「……しっかし、ムカつくオッパイしてるわねぇ……絶対この人、転移補正で豊胸したわよね?……むむっ、何でこんなにタユンタユンしてんのよ全くぅ……私みたいにナチュラリズム重視の姿勢で挑む度胸を持ちなさいっての……」
ブツブツと不平不満を垂れ流しつつ、とりあえず捕縛することにして、馬車から手近な紐を持ち出すとグルグルと腕を背中に廻して縛り上げてから、
「……これでよし!……それにしても争う音も聞こえなかったけど、二人は戦ったりしてたのかしら?」
「さぁ……そんな様子はなかったと思うんですが……あれ?クァイナさん……ちょっと何かおかしくないですか?」
マニトバの言葉に振り返ったクァイナが目にしたのは、周囲の景色が歪み弛んで引き伸ばされ……あの時と同じ光景だった……。
「あっ!!マニトバさん!私の手を掴んで!早くっ!!」
「クァイナさん?……一体何が始まるのですかッ!?」
マニトバが必死に伸ばした指先に触れた瞬間、二人は一瞬の浮遊感の後、何処か遠い場所へと強制的に転移させられて行った……。
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「……んぅ、あら……着いたみたいね……マニトバは……居たッ!」
薄暗い広々とした室内で意識を取り戻したクァイナは、周囲を見回し少し離れた場所に横たわるマニトバの姿を認めると、彼女の元へと歩き出す。
来る直前と同じままの格好で、赤いカーペットが敷かれた床の上に横たわっていた。
「ほら……マニトバ、起きて……ねぇっ!?」
「……はぁ……んッ!?あ、クァイナさん……こ、ここは一体どこなんですか!?」
クァイナに揺り動かされ、身動ぎしながら目を覚ましたマニトバは、事情も判らぬままに転移されたこともあって混乱していたが、
「ん~、まぁ危険な所じゃないわ。私も二回程ここには来てるし……あれ?ハジメじゃん、いつの間に来たの!?」
半身を起こしたマニトバを支えながら立たせたクァイナは、自分達の方へと近寄ってくる人影がハジメだと判り声を掛ける。
「うぉっすぅ~御両人。俺も初めて来たから判らなかったけど、こんな場所なんだ……あ、これさっきそこで貰ったけど食べる?」
ハジメはそう言うと手に持った大きな紙の筒を差し出しながら、中の物をパリパリと食べ始める。
「アンタねぇ……って、ポップコーンじゃないの?それ……じゃ、もしかしてそっちはコーラ?」
「ピンポーン♪正解したクァイナさんにはこちらのコークをどーぞー!」
スッ、と差し出す二つのLサイズのドリンクを手に取ったクァイナは、片方をマニトバに手渡すと、
「こっちはマニトバのね?……コーラ飲んだことある?」
「……コーラ、ですか?……何ですの?それ……」
手に持ったドリンクを掲げながら、マニトバは飲み方が判らずに困惑していたが、
「あ~、《くえばわかる亭》では紅茶か何かだったわね(※コーヒーです)……これはコーラ……まぁ、飲めば判るわよ?こーやってココから吸うのよ……ね?」
クァイナはストローに口を付けて吸って見せると、怖々としながらもマニトバも真似をして一口吸い上げ……、
「……ふぇっ!?な、何ですかこれッ!!シュワシュワってして……口の中が溶けちゃったりしないんですか!?」
慌てふためくマニトバの様子を見て、(あー、自分も小さい頃はあんな風だったなぁ……)と、ハジメとクァイナは納得していたのだが、
【……まもなく上映を開始いたします。お客様は席にお座りになってお待ちくださいませ……】
館内に響く女性の声のアナウンスが響くと、クァイナはここに座りましょ?とマニトバの手を引いて促し、その隣にハジメも座り三人並んで腰を掛けた。
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「あ~、俺ここに座って眺めるの初めてなんだよな~!何だかワクワクするなぁ!」
妙に高いテンションのハジメは、マニトバに向かってクァイナへ手渡すようにお願いしながらポップコーンを預けると、シートに深く腰を落として前方のスクリーンを凝視し、
「そうなの?……あ、このポップコーン、カレー味じゃん♪懐かしいわぁ~小さい頃ってば映画と言えばコレだったのよね……」
パリパリと噛み締めたクァイナは、懐かしい感傷に浸っていた……。
小さい頃とはいえ、まだ若いクァイナにとってはそれほど昔ではない。でも、その記憶はキラキラと美しく輝きを放っていた。
……胸踊らせながらチケットを手渡して通り抜け、父に手を引かれながら見上げた魔法少女のポスター、そして……当時はまだ就学前でありきたりな香辛料に少し舌が痺れたけれども……多めに振られた塩味が少しキツかったけれども……でも、楽しかった映画観覧には付き物の懐かしい味……。
父に手渡された包み越しのポップコーンから伝わる、仄かな温かみは……そのまま心に染み入り、今もこうして思い出せるのだ。
……クァイナは、自らの死が現実だということは忘れはしないけれど、今こうして思い出せる、そのことだけは……ただ単純に嬉しかった。
「…………ん、何だか慣れてくるとシュワシュワの刺激が癖になりそうです……ケプッ!?」
マニトバはコーラにややハマりながらも、突然込み上げて来たゲップに目を白黒させていたが、
【……お待たせいたしました。只今から《超時空戦艦・ミエコ》の上映を開始致します。】
「「ブッ!?み、ミエコ~ッ!?」」
上品かつ落ち着いた女性の丁寧なアナウンスが鳴り響いたものの、ハジメとクァイナはそのタイトルを聞いた瞬間、タイミング悪くコーラを口に含んでいたので吹き出してしまった。
【……尚、上映中のお煙草、ご飲食、並びに席を立っての化粧直しや激しいイチャイチャうふふ等は、他のお客様の御迷惑となりますので……御遠慮頂きますよう、御願い致します。】
(イチャイチャうふふ……とはどんなことなんでしょうか……?)
マニトバは、イチャイチャうふふ、がどのような状態を現すことなのか理解できず、後で聞いてみることにした。まぁ知らない方がいいとは思うけれど……。
ビーーッ!!と鳴り響くブザーと共に、相変わらずの配給元を表す丸い球体が画面下から浮かび上がり、続けて宇宙の星々が画面を埋め尽くしていく。
【……宇宙、そこは人々の夢と現実がせめぎ合う人類最後のフロンティア……】
「お~、何か雰囲気あるなぁ~!クァイナ、毎回こんなナレーション流れて始まるの!?」
「チッチッチッ……残念だがハジメ君!……ここのナレーションは毎回違うんだよ?三回目ともなると、たまにはナレーターが若本さんだったりしないかな?って期待しちゃうのよねぇ~♪」
……そこに出てきたら悪役の声に当てられないでしょうが。まぁそれはそれとして、三人はすっかりリラックスしながら本編の始まりを待っていた(マニトバは迫力ある音響設備と大画面のスクリーンに激しいカルチャーショックを受けて硬直していた)。
「第一話・ミエコの旅立ち」
「「……だから、ミエコって……誰ッ!?」」
……事の成り行きを把握しきれていないハジメとクァイナは、さっきからチョイチョイ出現している名前に覚えが全く無かった為、思わず二人同時に突っ込みを入れていた。
(……息もピッタリね……もう二人ともそのまま付き合っちゃえばいいのに……)
マニトバはと言えば二人を眺めつつ、毎度お馴染みの突っ込みを心の中で入れていたのでした。




