迫り来る超時空戦艦
「……何か近付いてくるわね……つーか、何なのよこれ?……バッカみたいに薄らデカッイ割りに魔力皆無だし……」
【スキルラーニングの魔女】を自称しているその女は、ゆっくりのったりと現在地付近へと移動してくる存在を、数あるラーニングスキルの【千里眼】で感知していたのだが、危機感の欠片も感じられぬそのバカ丸出しの気配に呆れ果てていた。
例えるなら、現代社会で極く稀に見かける企業PR用の飛行船のように、大きさに不釣り合いな搭乗可能人数(大抵は数人程度)的な空っぽな存在であり、間違っても相手になるような器には感じられなかったのだが、何故か……何処か気になるのだ。
傍らに転がしておいた二人の姉妹(彼女の目には全く違いが見当たらなかったので双子なのだろう)を一瞥し、暫くは逃げもしないだろうと判断した彼女は、
「ま、退屈しのぎに見に行ってみるわ……はあわわわわぁ……眠いわぁ……。」
大きく欠伸をしながら伸びをして、一軒の建物から外に出て歩き出した。
その足元には元住人の身体が乱雑に転がされていて、邪魔に感じた彼女は爪先で蹴り上げて扉の外へと転がして、
「あーぁ、早く神でも何でも来ないかなぁ……噂じゃ戦魔とか言う連中が、この世の中で一番の武闘派らしいから、そいつらでも来てくれないかしら~?」
ヌフ♪とほくそ笑みながら罰当たりなことを考えつつ、早速集まり出して来た蝿を手で払い除けながら外へと出ていった。
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「だ~か~ら~っ!!そのロシアンケーキは私のだからダメだって言ってるでしょ~がぁ~!!」
「何でだよ!!さっき俺が《要るかい?》って聞いたら《固くて美味しくなさそうだからパス!》って言ってたじゃないか~い!!」
(もう二人とも付き合っちゃえばいいのに……)
クァイナとハジメの二人は、のったりマイペースな乗り合い馬車の上で、誠に滑稽で意地汚い焼き菓子の奪い合いに興じていた。そんな二人をマニトバはいつものように冷静な眼で眺めていたのだ。
確かにロシアンケーキは名前こそケーキの癖に……堅い。いや正確に言うとケーキとしてみればの話であって、乾パンや八ツ橋や青梅煎餅(※①)と比べればまだまだ柔らかいと思うが、その噛み締め甲斐のあるケーキ生地(と呼ぶべきなのか?)と、中心部に鎮座するやわな歯の詰め物全てを容赦なく奪い去るような粘着性の高いジャムが、昨今の【やわらか~い♪】と言わないと始まらない、顎の退化した虚弱体質な食レポ全般を容易く蹴散らさんと鼻息荒く待機しているのだ。
しかし……それはあくまでケーキ、としての話であって、単体で味わえば紅茶との相性のいい、ジャムの甘味もしっかりと感じられるバランスの良さと、噛めば噛むほど程好く感じられる焼き菓子特有の香ばしさ……つまり、先入観さえ無ければ立派に美味しいクッキーなのである。
ハジメに促された時は(ケーキっても生クリーム入ってないじゃん!見た目もクッキーだし……)と、最初は即スルー物件としてノーマークだったのだが、何故か一番数が多く販売されていたそれを大量に買い漁っていたハジメを内心でバカにして馬車の上の時間を過ごして暫く進み、
「……ねぇ、マニトバぁ~、何か違う食べ物無いのぉ~?干し肉とか乾燥芋以外のぉ~!!」
「えっ、あれだけあったの……全部食べちゃったんですか!?」
チュロスやプレッツェル、あんドーナツやさっくり軽いかりん糖等を【日持ちのしない軽食】と称して買い漁り、ハジメとマニトバに、ねぇコレとそれ、交換しよう!と言いつつ結局全て一人で平らげてしまい、
「う~ん、だってぇ……どうせ一日掛からずに到着するんでしょ?だったら心配することないも~ん!ほら、さっさと寄越しなさいッ!!」
と、言いながらハジメからロシアンケーキを強奪しようと手を伸ばそうとした瞬間、
「……おぉっと!止まりますから何かに掴まってくださいっ!!」
御者の声に驚いたものの、クァイナは転移者特有の身のこなしで身体を横に回転させて転倒を免れたが、その先にはハジメの顔が有ったので……、
「ば、バカッ!!何すんのよっ!?」
バフン、とお約束のアイマスクをかまして、(のぉ~ッ!?……こ、これはまさかの……)と、顔面の皮膚触感細胞をこれでもか!と奮起させようと思っていた矢先に、冷静に外の様子を確かめようとしたマニトバの、
「……おかしいです、御者が停めたにしても、そこまで急に馬車は勢いを落とすことは出来ない筈なのに……?」
と呟く声にハジメはとにかく外に出ようとして立ち上がり、クァイナの容赦ない無言の蹴りを尻に叩き込まれて勢いよく馬車の外へと放物線を描きつつ、
「おごっ!?……てててて……死なないのと痛くないのが両立しないとか……嫌なんだけど……おりょっ!!」
顔面から着地する斬新な受け身(失敗)をし、あたたたた……と呟きながら馬車の御者台を見ると……そこには腰から上が消失した御者の哀れな姿があるのみだった。
「あ~ぁ……俺、馬車なんて動かしたことないし……困ったなぁ……」
「……なら、私が代わりに操ってみせましょうか?【クァイナと愉快な仲間達】のリーダーさん?」
ハジメの背後から声が聞こえて思わず振り向くと、漆黒のローブに身を包んだ黒髪の女性がいつの間にか立っていたのだ。
(※①)乾パンや八ツ橋や青梅煎餅→堅い御菓子の御三家。贈れば苦笑い、貰って硬直、しかし慣れると悪くもない(まぁ、良くもない)のだが、だいたい菓子箱の隅っこで期限切れを迎える共通点がある。もちろん幼児におやつと称して与えると泣かれる。食する際に充分な飲み物を必要とする気難し屋だが、気を許すと意外な一面を垣間見せる幼馴染み的な存在。逆に水分が無い時は危険な食品である(精神的に)
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「ふおっ!?……あれ?乗ってたお客さん?いつの間にか降りてたんですか?」
「フフフ……♪面白いヒト……それじゃ、先ずは……」
舌なめずりをしながら近付くその女は、品定めするような目付きでハジメを眺めつつ、人差し指をすっ、と彼に向けて、
「……あなたのことを……教えて貰いましょうか……?」
……【ステータス閲覧・無制限】の力を即時開放した。




