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マニトバの事情



 「何それ……【チート持ち】を……狩り倒す……って?」


眼を丸めるハジメと反対に、食事を中断することのないクァイナ。


口に入れたアスパラ肉巻きロールは、塩茹でアスパラのギュッ、とした小気味良い歯応えを噛み締めるとその甘味を含んだ清廉な風味が迸り、野菜の旨さを十分に堪能でき、更に巻かれたショウガの香る肉から溢れる脂の旨さと相まって、クァイナは思わず眼を瞑って惜しいとまで思いながらも、渋々飲み下すしかなかった。それほどまでに空腹に染み渡る美味しさを秘めていたのだ。


そのまま最後まで肉巻きを食べ続けても問題など有りはしないのだが、物事全て起承転結の流れを汲んだ方が結果的に良いことになるのだ。

食事にしても物語にしても、男女の睦み事にしても……。

……妙な結論に行き着いたな、と独り心中で照れ笑いしつつ、添え物の鶏唐揚げを噛み締めて滋味深い味わいを堪能しつつ、話を続けようとするクァイナだったが、


「んー、ハジメは強くなりたかったら、どうする?」


「な、何だよいきなり……今この状態でもかなり強いと思うけど……」


自らが得体の知れない宇宙戦艦の一部にされているハジメにしてみれば、今の状態は自分史上最強だろうと思い戸惑うと、


「違うわよ……そうね、中学生のハジメ君は強くなりたかったら……どうしようと思う?」


「うわぁ……中学生かよ……そうだなぁ、空手とかボクシング習いたい!って思って……結局習わないわな、確実に!」


そう言いながら胸を張るハジメ、そして彼の様子を見ながら合間にポテサラを口に運びモクモクと食べ終えたクァイナは一言、


「……そうよねたぶん……でもいきなり自衛隊に入るってことは絶対しないでしょ?」


「無理無理!!ぜぇ~ったい!!必ず!はッ・いッ・らッ・なッ・いッ!!」


どこの世界でも新人諸君は、そりゃあもう完璧にしごかれる。そうして徹底的なブラッシュアップを受けて、新人は一つの境地に達する。「あぁ、こんな辛い目にあっても先輩はへいきだったんだ……凄いなぁ」と、思うのだ。

ちなみに先輩諸氏はそんな後輩の姿を見ながら「あぁ、あの頃は楽だったなぁ……羨ましいなぁ」と、懐かしく思うのだが。

ま、それは関係ないが。


「でしょ~?だから、にも関わらず……この人はいきなりそこを飛び越して特殊部隊に入りたい!って思ってるのよ?普通じゃ有り得ないでしょ?……だから、そーゆーことを言うってことは、相手は普通じゃないの。判る?」


フォークをプチトマトに突き刺したクァイナは、ハジメの返答を待ちながら酸味の強いプチトマトを口の中で弾けさせつつ、


「で、【チート持ち】を狩り倒すってのは……」


「……そりゃ、言葉通りよ?怨みだか復讐だか知らないけど、マニトバさんは事情が有って、人間以上神様未満の【チート持ち】に挑戦したがってるのよ。ま、普通に戦ったら……相手にならないでしょうけど。それに、マニトバさんを亡霊にするなんて、どう考えても人間技じゃないわ」


クァイナはそう言うと、最後の肉巻きを噛み締めながら、現地人にしては珍しいけどね?と、締め括った。



「……俺、知らないから聞くんだけど……現地人とか帝国領とか、()()()()()()()()()


ハジメは知らないからこそ、と思い、クァイナに尋ねてみる。


「違い?別に何も無いわよ?ただ、世俗風習に封権制度の名残が存在している位かしらね……」


ハジメよりは、この《星降る地》に詳しいクァイナ曰く、



……ドルモール帝国領、ってのは、ここ数年間で帝国から離脱した辺境諸国の一つで、元は帝国の地方領土だったのよ。


帝国が分解した理由は色々と有るから省くけど、今は分散統治で落ち着いているけど帝国って名乗っていたからにはかなり尖ってた国だったから、分散離脱の頃はそりゃー血生臭いやり取りも多かったって話よね……噂じゃ、帝国領から独立自治を標榜して一番に独立戦争を始めた国は……【転移者】と当地の亜人が混成部隊を結成して派手にやり合ったらしいわね。


そこは山岳地帯の険しい山並みが続く、山猫種族の領土で、その部隊を率いて戦った男ってのが……またとんでもなく危ない人種らしくて、自分から戦地に飛び込んで巧妙な罠を仕掛けて、身を呈して誘き出した相手を一網打尽にして一人も生きて帰さなかったって噂よ……とにかく、一人で何百人も倒した怪物らしいわ。……え?チート持ちかって?それほどの力は無かったらしいわ……だから、怪物よ。


……チートだチートだって恐れられたり持ち上げられたりしても、結局は使う人間の器と精神の問題じゃない?私達の元居た世界にだって、少数だけど似たような人種は居たでしょ?歴史上の……そうそう、独裁者とか、各国の大統領や革命家とか……実はあーゆー人々が違う世界から来た転移者でも、今の私が聞いたら全然違和感ないけどね。


……話が脱線しちゃったけれど、帝国って呼ばれてた国は、歴代の帝王が独裁してたから一元首制、国土は《星降る地》の半分位を占めていたってとこね。


あ、ありがと!……ずび……(モルフィスが持ってきた飲み物を飲む)、ゴメンね?……それで、その頃の帝国は完全な一枚板じゃなくて、大体三種類あったそうよ。帝国中心部の帝都周辺は《亜人排斥・人間至上主義》……初代帝王が強烈な排斥主義者だったらしいわ。その流れでずーっとそうだったみたい。

で、同じ《星降る地》にある辺境諸国は《亜人規制・非融和主義》を掲げていたり《規制無し》を陰で認めて貿易特化した港湾都市があったり、必要性や地理性によってモザイク状に入り乱れてた、って訳。


で、一番亜人排斥に躍起だった帝王が病死してから、領土内の主義や方針、時には擁護主義者や亜人そのものが独立を後押ししたりで……バラバラに分解されちゃったそうよ。


ちなみに未だに排斥主義者ってのも根強く居て、元帝都の住人の中には歴代帝王の肖像画を掲げてるって話。古い商家や武家なんかはそーゆー頭の固い連中も居るみたい。


私達がそうした連中と関わり合いが有ったら……きっと血の雨が降るのは確実かもね?




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「いやぁ~ッ!!こんなの有り得ないぃ~ッ!!」


「……まぁ、そうよね?……私もそう思ってた頃があったのよね……」


マニトバの悲鳴に、クァイナの呟きが続く。


ガガガカガガガガガガガッ!と百近い毒蛇の連撃がハジメに降り注ぎ、周囲に毒液の飛沫が上がる。


「まあああああぁいいいいたたたたたくくくくくははははははななななななないいいいいかかかかかかからららららららぁっ、……平気だよ?」


ハジメはヒュージ・ヒュドラの人智を超えた噛み付きの嵐を、霧雨に手を翳して目に雨粒が入らないように気遣うような自然体のまま、と言うかほぼそんな感じで鬱陶しそうに払いつつ、


「あーめんどくさい……あ、よいしょ?」


その巨大な太い胴へと軽く両腕を廻し抱え込み、


「……ん~、どっせーいっ!!」


若干腰を落とした後、美しく爪先のみで体重を支えたまま後方へとヒュージ・ヒュドラを抱えたまま瞬速のブリッジを繰り出し、


「ふぅっ!!……あ、岩盤だったよね……即死コース?」


ごぢゃっ、と肉に包まれた骨が弾け砕ける音を響かせながら胴まで細く長い大量の鎌首をめり込ませたまま、尻尾の先を弱々しく震わせて絶命していた。



「……ね?あなたが思う以上にウチのリーダーは……チートよ?そりゃあ、もうバッカみたいにチートの塊なんだから……」


剣の先でツンツンとヒュドラの身体をつついていたマニトバは、スッ!と突然立ち上がり、


「確かに!!……これだけ強ければ……でも、あの転移者に……果たして打ち勝てるかどうか……」


勢いよく言い放ちながら、しかし次第に自信を失いゆっくりとしゃがみ込みながら、またヒュドラをツンツンへと移行してしまった。そのせいで討伐者がマニトバになったのはまた後のお話。



「……《スキル・ラーニングの魔女》を、私の領地から追い出せることは……出来るのでしょうか?」


「……《スキル・ラーニングの魔女》?……何だか英語が上手に話せるようになりそうな通り名だわね……」


マニトバのそんな言葉に最初に反応したのは、クァイナだった。



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