教会の亡霊
「いやだなー、こーゆー雰囲気、すごくいやだなー、こわいなー」
さもさも怖さを強調し、あわよくばそれが伝播して増幅しないかなぁ……なんて、甘いことを考えていた時期も確かにありました、はい。すぐさっきまで。
「……たまに、こんな場所で野宿とかしたことあるから、全然余裕だけど、……ハジメ、本当に怖いの?」
「……いや、そうでもないね、うん……」
鋼の美女、【激甚級】のクァイナさんには効果ありませんでした。ああ、無駄なことしてしまった……。
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「教会に出る亡霊を確認して、あわよくば掃討して欲しい?なーんか難しそうだなぁ……」
【個別相談】窓口担当のアドニスさんに勧められたクエストは、ハジメにとっては判断の難しい仕事だった。まず、そもそも霊感そのものが皆無な彼に《亡霊》を何とかすること自体がよく判らないし、そして霊媒師でも何でもない彼が退治した、と思えるような確証と成果を証明する手立てに見当も付かなかったからだ。
「それ、いつまでとか期日は決まってるの?」
ハジメとは違い、それなりに分析してから判断しようとしたクァイナは、アドニスに事の詳細を訊ねてみる。
「はい、こちらは今日から三日後までに結果を出して欲しい……と言う依頼です。三日後から改修工事が入り、教会に新しく迎えられる牧師を招いてミサがその日に行われる予定らしく、可及的且つ速やかに実行されれば……【秩序】を推し進める私としても、これ程喜ばしいことはございませんね!」
お、おぉ……そー言うことね……別に教会とか牧師とかに余り関係なくて、最後の辺りにアドニスさんの強い思い入れが込められているのかしら……、とクァイナは納得した。
「ねぇ、ハジメ。これやってみようよ?だって、只の力押し脳筋評価を覆すにはこんな感じのクエストがうってつけじゃない?それにパーティ初仕事が教会絡みなんてその……暗示的と言うか……何かおめでたいとか思わない?」
若干のはにかむ姿を見せながらハジメに薦めるクァイナ、それを聞いたハジメは(うッわ!!めっちゃ意識してる!何かそんなイメージをガンガン膨らませてクァイナ弾けそうなんですけど!!)と、悟ってはみたが、リーダーらしく重々しく頷きながら、
「……ま、クァイナさんがそう言うなら……アドニスさん、このクエスト……やってみます」
そうハジメが言った瞬間、よっしゃ、やってやるぞッ!!と力こぶを作りながら気合いを入れるクァイナの後ろ姿を見て、
(あ、あれぇ……何か違うような気がするぅ……)
と、期待と少し違う反応にボーッとし、そんな二人を見ながらほっこりと微笑むアドニスさんは、事務的に手元の書類に【承認済み・解決報告待ち】とサインをして書類入れに仕舞いましたとさ。
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……それから件の教会へと赴いた二人は昼日中と言うこともあり、雨漏りがしそうな屋根から射し込む陽の光りに照らされたベンチに並んで腰かけて、とりあえず亡霊とやらが出てくるかを確かめることにした。
「まぁ、昼間っから出てきてくれるような、空気の読めそうな相手なら最初から出てこない……可能性もあるよねぇ?」
ハジメはそう言いながら、改めてクァイナの方を見る。
射し込む陽の光りが丁度彼女の栗毛色の髪の毛に差し掛かり、明るく透けた光を反射して金色に近く見え、淡く朱の載った頬と薄桃色の唇が見事に白い肌との協調性を発揮し、その姿は改めて見ると……いや、やっぱり……そりゃ、元々が他人の眼に自らを晒すネットアイドルとやらでブイブイいわせてた時期も有ったヒトなんだし……それが転生補整でも受けてた日には……無敵なんじゃないの?
そこまでボーッとしながら眺めていると、不意にクァイナは自分の視線に気付き、
「何?ハジメ。何か言いたいことでもあるの?」
少しだけ首を傾けつつ、考え事を中断したのかどこか気になる様子でそう訊ねてきたので、
「いや、うん……髪の毛もキレイだなぁ……って思って……」
思わず口にしてから、髪の毛もって、他もキレイだと言ったようなもんじゃねーか!!何考えてるの俺!?と内心慌てつつドキドキしていると、
「そ?……ありがと。昔から変わらないのは髪の毛の色くらいだったけど……髪の色を褒めてくれたのはハジメが初めてかもね……うわ、かぶった……面倒な名前ね!もう……」
と訥々と言いながら最後に軽くネーミングセンスにダメ出しをするクァイナ。
「そ、そうかな……?漢字で書くと一・一で楽だし簡単に覚えられるかなって……思ってつけたんだけど……ダサいかな?」
「……いや、別にダサいとかってことはないけど……」
ベンチの縁から足をブラブラさせながら、クァイナは俯き足元を見つめつつ、
「……無いけど、ねぇ……ハジメも私も……いつか、この世界から元居た世界に戻れるとかなったら……ハジメは……帰りたい?」
呟くように、重みを確かめるように……足をブラブラさせながら、言葉を紡ぐ。
「……俺は……そうだな、もし帰れるとしたら……その時は……」【ぅるさい……】
「「ッ!?」」
誰も他に居る筈の無い教会の、それも自分達が入ってきて内部を確認して進んできた入り口の扉の辺りから、確かにその声は聞こえてきた。
「……は、ハジメ……!?」
「んん……俺にも聞こえた……うるさい……って……」
……バタンッ!!
その後、開けてきた筈の扉が激しく大きな音を立てて閉まり、内側から掛ける方式の掛け金が勝手にガジャッ、と音を鳴らしながら嵌まり、姿の見えない存在からの無言のアピールを表現していた。
「……俺、霊感ゼロだけど、今なら信じるよ……幽霊とか……」
「い、いやね……偶然かしら?……わ、私もそう言うのホント疎くて……」
二人は周囲の様子に鋭い視線を送りながら、少しでも更なる異常を感じたら、速やかに行動に移そうと身構えていたが、その一瞬を最期に異変は起きなかった。
「ク、クァイナさん……どうしようか……帰る?」
「ば、バカ言わないでよっ!?何も解決していないじゃん!?……それに、相手が例の亡霊だとまだ判らないし……」
今更ながら立とうかいやしかし座っていたほうが相手を刺激しないし逆に刺激しナウ!?俺今ナウなこと思い付かなかった!?
「クァイナさん!俺思い付いた!!やるっ!!やってやるッ!!」
「ななな何をやるのよッ!?……ま、まさか……こんな時にそんなこと……(ドキドキ……)こ、心の準備がまだ……」
「ふおおおおおっ!!!たぶん出来る筈!【超時空戦艦】カモンッ!!!」
(……えッ!?そんなダッサダサな召喚なのッ!?……あと期待した私がバカだったの……?)
二人が微妙にすれ違う中、周囲の景色が次第に細長く尾を引くように流れ始め、クァイナは二回目の迷惑な上映会場へと強制転移させられていった……。
(……もしかしたら、会場内で亡霊と鉢合わせとか……しないわよね?)




