表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/38

初報酬



 「……歩くなぁ……と、言うか馬車とか乗り物で来れたんじゃない?」


モルフィスの店《くえばわかる亭》を後にして、町の外れに有る【職業斡旋所】に到着した二人だったが、


「確かにそうだけど……ちなみに神様のおわす【塔】には定期的に馬車とかも出てるみたいだから、楽に行ける筈だけど……そのうち行ってみる?観光名所になってるみたいだし」


「……塔限定ペナントとか有りそうだな……ちなみに【職業斡旋所】って普通のひとも入って仕事受けられるの?」


「出来れば……ね。だって《村に出没する野盗団を潰滅させて欲しい》とか《鉱山の周辺警護》みたいな仕事を村のお百姓さんが農閑期に出来る訳ないじゃない……」


至極真っ当な理由で論破されるハジメだったが、「人数居れば何とかなるでしょ?」の問いに「相手が私達みたいだったら相手が何人いても変わり無いわよ?」と再論破されました、はいその通りです。



ク・ヴォルティス討伐の報酬が出ているかもしれないし、あわよくばあの地鰻の報酬も、いやそれはそれとして、仕事があるかもと確認する為に【職業斡旋所】へと赴いた二人だったが……見た目は何処と無く在り来たりで拍子抜けした。


目の前の【職業斡旋所】はお堅い風情の名の通り、白漆喰で固められた堅牢そうな建物で二階建て構造の横長の造りになっていて、見るものにいかにも御役所的な印象を持たせる見た目だった。


「さ、行きましょ、ん、……あ、失礼しまーす……っ!?」


そう言いながら先に足を踏み入れるクァイナに、一瞬建物内の視線が集まり、即座にまた視線は外されたのだが、


次の瞬間、(おい見ろよ!……【激甚級(グラビテ・クラス)】のクァイナだぜ!?)(嘘だろ……一匹狼だって聞いてたぞ?パーティ探しに来たのか?)(噂には聞いてたが……本物初めて見たぞ?)と、口々にヒソヒソと話し出す傍観者に一瞬慌てはしたが、気を取り直して……?


「……って、私の渾名……【グラビテ・クラス】になってるんだけど!?」


一度建物から出た後、ハジメの腕を掴み……おたおたと狼狽えるクァイナ。


「確かにそうみたいだけど……でも、いいんじゃない?だって……俺は、穏やかに暮らしたいから……さ?」


「え?……だって、アンタがク・ヴォルティスをぶっ殺してやっつけたのよ!?それがいつの間にか私の手柄になってるじゃん!!いいの!?そんな損な役回り……」


最初は楯役として活用するつもりでパーティに誘ったクァイナだったが、圧倒的過ぎるハジメのスキルに遭遇し、(自分は道案内に徹した方がいいに決まってる)と考え始めた矢先の状況とハジメの吐露に、我を忘れてしまう。


「そんなの当たり前だろ?……だって、俺は自分のスキル一つ思い通りに使いこなせない不器用な、ただ死ににくいだけが取り柄の奴で、クァイナは俺の知らないことを知っていて、この前みたいに相手に面と向かってハッキリと物が言える強い女性だろ?……でも、戦うなら、俺の方がたぶん……死ににくいから、役回りはそれでいーと思うよ。……一応リーダーだからそう判断するし、その役割分担の方がこれから先も上手く行きそうじゃないか?」


「…………判ったわよ……仕方ないわね……」


そう言うと、それじゃパーティ名は【クァイナと愉快な仲間達】にする?と言いながら微笑むクァイナに、ちょっとだけ萌えてちょっとだけ(センスの無い名前だなぁ……)と、修正案の提示をするつもりのハジメだった。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「改めまして失礼しまーすッ!!……って、おわぁ!?」


再び建物へと足を踏み入れたクァイナだったが、そこはさっきまでの様相とは一変していて、


「はじめましてクァイナさん!」

「先程は挨拶出来なくて申し訳ありません!」

「お先にどうぞクァイナさん!!」


居並ぶ同業者とおぼしき男達が挨拶や詫びを口にし、中にはわざわざ先に進むように並んでいた列の先を譲ろうとする者まで現れていて、流石のクァイナも恐縮してしまっていたが、


「まぁまぁ、皆さん別に捕って喰ったりしないから普通にしてなさいよ?……ねぇ?新人のクァイナさん?」


そう言う窓口担当の一柱の神様が、チョイチョイと手招きして自分のところに来るよう促しているのを見てとり、ちょっと気が引けたので仕方なく【ハンドブレード(手刀)】を上下に振りながら足早に進み、


「あ、すみません……わざわざ呼んでもらって……で、何で私……こっちの窓口に招かれたんですか?」


その窓口には【個別相談】と堅苦しく書かれた札が掲げられ、どう見ても一見に近いクァイナとハジメがいきなり伺うような場所には見えなかったのだけど、


「……実はね……あ。私、窓口担当の《礼節》を司ってるアドニス。ま、気軽にアドちゃんで良いわよ?よろしくね!」


長く艶やかな銀髪を束ねたその神様は、あっさりと自己紹介した後、こっちに座ってお話を聞いてもらうけど構わないわよね?と言いながら窓口脇のパーティションで区切られた席を二人に促した。


「あ、構いませんけれど……あの、一応リーダーはコッチのハジメなんですが……」


「知ってるわよ?でもね、う~ん、そう、まぁハッキリ言っちゃうけれど、ハジメ君の能力は、他人にあんまり知られない方がいい類いの物だって、二人とも理解してるかな?」


優しく、そして平素な言葉でそう語るアドニスに、二人は一瞬怪訝な顔をしてしまう。……だって、チートだらけでそんな力なんて当たり前過ぎるんじゃない?と思ったのだが、アドニスの反応は二人の予想を裏切っていた。


「……はぁ、やっぱりか……あのね?確かに出所は適当、内容は馬鹿馬鹿しくて、おまけに発動条件も何もかも不明瞭……ま、力のバランスから言えば……そんな物かと笑って終わるかもしれない能力なんだけど……その戦艦、【神も殺せる能力】が有るって、理解してる?」


「「……はぁ?」」


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



やれやれ……これだから【色欲】の担当期間はブレが大きいから困るのよ……ま、それはおいといて、いいこと?あなたの【超時空戦艦】の能力は、そのランダム要素の中に【全ての可能性を実現する力】を有してるのよ。


つまり、出たサイコロの目に依ってはいきなり最終兵器作動!全宇宙瞬間崩壊!!みたいな結果も有り得るってこと。え……?なんでそんな重大なことが起きるのか、って?


あんたねぇ……自分で作ったゲームなんでしょ?その位知ってるんじゃない!?

……あ、担当してた部門も違うし、完成した後すぐに死んだから詳細に詳しくない?あ、そうね……。


理由は簡単。あなたのゲーム、期間限定コラボとかで《超獣バスターレディース何とか》ってゲームとタイアップしてたでしょ?そうそうそれ。そこが問題。そのゲームって、バグだらけで直ぐにパッチだらけになって止めちゃったでしょ?でも、そのバグだらけの状態の仕様を……あの担当してた【色欲】のおっちょこちょいが……そのまま取り込んであなたに与えちゃったのよ……信じられないでしょ?


詳細は言わないし、出来るなら対策もコッチでするつもりだから心配しなくていいけれど、今私が言えることは、【自分の能力がとーっても危ない物】だって、心の片隅にいつでも持って居て欲しい、っとことね。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


「……少しは理解したつもりだけど……しかし、そんなゲームと……全知全能の神様と……その、釣り合いが取れないとか思ったんですけど……」


ややしどろもどろのハジメだったが、そんな姿をそれもそうよね……、と笑って受け止めながらアドニスは、


「確かにそれはおかしい!と思うかもしれないけど、《願望》って大抵はそんなものよ?……つまり、観測者が居て、初めて成り立つと言う点では全ての事象と変わらないということね」


「あ、あの……それはつまり……」「ん?いやいや観測者が変わればその事象は正しく認識されない、と言うことは観測者が同じ次元に居たとしても距離が違うだけでも観測結果に相違が生まれるということになるし、複数の観測者が居ればその時点で各々は全く違う結果を観測するに決まってるわよね?ほら見てやっぱりそうなのよ!神と謂えど観測すると言う行為に依り《願望》を評価した段階で元々の形から少しづつ離れていきその《願望》は最終的に異なる形式にすら変貌するのが当然よね?だから私が思うに【色欲】があなたに与えたゲーム由来の能力はその内包している要素の中に一つでもランダム要素を持っている限りいつかは偶然全宇宙を潰滅そして神すら葬るようなとんでもない結果を産み出すことも有り得る訳なの、判った?」



「……あ、はい」「よく理解できますた」


全く判らなかったけれど、ハジメもクァイナも頷いた。これが忖度である。


フフン♪やーっぱり私の推測は的確よねぇ♪と上機嫌のアドニスだったが、あ、忘れるとこだった!本題はコッチだった!!と思い返したように叫ぶと、


「あー、何と呼ぶんだったかなぁ、そう、ク・ヴォルティスを食べちゃった方のねたぬちょな地鰻ね……あれ、それなりに成長したやさぐれた、元は地の神様。……つまり、既にチョイ悪な脱走系のやや邪神っぽいの、サクッと殺しちゃってたのよ。だから、報酬はそっちに関してはゼロ……で、ク・ヴォルティスの方は消化されてたから……少し減額になってて、だから、ゴメンナサイって先に言っておかなきゃいけなかったのね?うん。だから、ゴメンナサイね!」


そう言いながら、しかし有無を言わせぬ強い眼力でハジメを射抜きつつ、【反論は受け付けないけど悪い?】と優しく微笑む【礼節】のアドニスに、二人は……、


「いや、まぁ……緊急事態だったから……仕方ないよね?うん」

「そ、そうよ!喰うか喰われるかの状況だったもん、仕方ないわね、そう」


と、キチンと納得した振りが出来ました。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「あーあ、結局……結果はク・ヴォルティスの残っていた未消化部分から精製した【地核の魔素】と【地霊の御霊】少々の分……って、それでも()()()()()……は、()()()()()一枚……う、うふ、うふふ……あははははははははははぁ!!!!」


クァイナの狂ったような笑い声に、少し心配になるハジメだったが、……白銀龍貨幣って、なんぞ?と思い、


「ねぇクァイナさん、白金龍貨幣って……」


「あははははははははははぁ!!!!っはぁ?……あ、ごめん、つい我を忘れてしもた、ごめん」


若干不信になる程度まで振り切れたクァイナは落ち着きを取り戻すと、ハジメに正面から向き合い、


「こほん、こ、この世界には五種類の硬貨が流通してるのよ……判りやすく言うけど、下から銅貨、銀貨、金貨、白銀貨……ここまではこの世界に君臨していた古代の超大国がばら蒔いてた通貨で、今でも各々の貴金属としての価値は普遍だったから流通してるって訳。でも……この白金竜硬貨ってのは……噂じゃ、超強力な力を持った【来訪者】が持ち込んだ……恐ろしい位に価値を付与させた通貨って噂なんだけど……」


そこまで言いながら、掌と同じ位の大きさの皮袋にスッポリ収まる程のボリュームの巨大なメダル然とした、その硬貨を肩に担いだポーチ……ではなく、周囲を見てから胸元へとギュギュッ、と納め、


「……これでよし。……とにかく、これ……《国家間での交渉や買収劇で使われる》って評判すらある、超高額なお金!!これ一枚で、普通に暮らせば一年は遊んで暮らせる位の爆裂価値ッ!!!」


ニヘラァ……と上を見ながら笑い呆けるクァイナを見つつ、まぁ、当たり前だよなぁ……と更に冷静さを深めるハジメ。


「……って、アンタなんでそんなに冷静なの?……驚かないの?」


「……え?だってこの世界に来てから一回見たから……それ」


「えっ!?嘘でしょ!!だってハジメそんな金持ちじゃ……じゃ?」


突然の告白に食いつくクァイナ、そして悟る……いや、悟ってしまった……。


「だって……価値なんて判らなかったから……神さんに貰って直ぐに両替商で両替して、チラシ刷って宿に泊まってご飯食べて……一週間位しか持たなかったけど……」



「いや、その両替商、たぶんもうこの町から居なくなってるわよ?確実に……いや、絶対に!」


その瞬間、パーティの会計係はクァイナに決まったのでした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ