91弾 これで製作してもらおう
翌日、朝起きて朝食をとり、軽くジョギングをする。組合本部の鍛錬室で障害物走をするのもありだが、閉鎖空間のため開放感がないのだが、街中を走るのは開放感があっていい心持ちになれる。
引っ越してきてこの付近に土地勘がまだないが、軽く走ってみる。組合本部を折り返し地点にして走ってみると、まあ組合本部の寮にいた時にジョギングした距離より少し短いかな。
下宿先に戻り、汗を流すためメムと一緒に灌水浴室へ向かうと、使用中の札がかかっている。浴室も使用中の札がかかっている。再度、灌水浴室へ行くと、扉が開き初老のコックが出てきた。
「おはようございます。灌水浴室使ってもいいですか。」
手ぶらで変装状態だとミアンかミヤンか分かりにくい。
「どうぞ、あ、じゃあティア姉さんには内緒にしとくね。一緒にメムがいることは。」
この発言からすると、ミヤンのほうか。
使用中の札をかけて、メムと共に汗、ほこりを洗い落とし部屋に戻る。
「ねえ、今日はどうするの。」
メムが部屋に戻ると聞いてくる。
「昼前まで魔術研究をしましょう。まあそう言っても、魔弾作りをします。」
と言うと、
「じゃあ、私はここにいるから。」
と言って寝床に行き伸びをする。
「特例として、ヘルバティアに愛想でも振りまきますか。」
と俺が言うと、
「あまり四六時中一緒にいたくはないわよ。」
と言ってメムは朝寝を堪能した。
昼前まで魔弾作りをしていると、部屋の前に誰かきたが、『魔術研究中』の札をドアノブにかけていたからか、静かであった。まあ、この異世界は他人の魔術を詮索しないようにできているからなあ。良いことでもあり悪いことでもあるが………。
魔術研究として魔弾の製作、運用方法について思考したことをメモ書きにして、メムの寝てる隙に研究結果に書き込む。ちなみにこの研究結果はメムにバレないように新たに作って、前に書き直しさせられたり修正させられた部分を残している。
「そろそろ昼頃か。」
俺はそう呟き、昼食前に組合本部に行くためメムを起こして、出かけることにする。メムには、
「もうすぐ飯だぞー。」
と囁くと、ガバッと跳ね起きるのでいつもこの手で起こしている。
「行ってきまーす。」
と茶店の厨房奥に声をかけて、組合本部へと向かう。組合本部に昼飯直前に着いたので、シストラニさんを探すと、依頼の掲示板の近くにいた。
「いや、来ていただきありがとうございます。」
と、俺たちに歩み寄ってシストラニさんが言う。
「まあ、昼食にしましょう。欠食になってまた行き倒れられると、俺も困るので。」
そう言って俺はシストラニさんを食事に誘う。
「わかりました。」
そう言って、苦笑いをしながらシストラニさんは俺たちと連れ立って食堂へ行く。
席につき昼定食を頼み皆で黙々と食べる。しばらく咀嚼の音と周辺の喧騒が俺たちとシストラニさんの周りを包んでいた。
「さて、お礼の件ですが。」
食事が終わりそうになり、シストラニさんが口を開く。
「大丈夫ですか、それだけの量で。」
俺がシストラニさんの食事量を見て尋ねる。
「ああ、大丈夫です。昨日は余りに没頭しすぎて、ほぼ一日食事を忘れてただけですから。」
やっぱり一人前を食べるのが食事量として普通なのだな、そう思いながら俺はメムを見つめる。相変わらず大食いで10人分を平らげていた。
「お礼の件は………。しかし、よく食うグランドキャットですね………。」
「大丈夫ですよ。ここじゃ落ち着かないので、別のところで話しましょう。」
食事を終え、俺が支払いをして、組合本部のロビーの一席に移動する。
「本当に、昼食までご馳走になり、何から何までありがとうございます。つきましては、当方としてもぜひお礼をいたしたく。」
そう言ってシストラニさんが頭を深々と下げてくる。
「そうですか、でしたらお礼として一件頼んでみてもいいですか。」
「当方でできることでしたら、なんだってしますよ。」
「いや、そんな、ちょっと作ってもらえたらなあ、と思っているものがあって。」
俺はそう言いながら、ポケットから前に強獣を倒した時に得た魔石を3個出して、
「これで、ペンを作ってもらえるでしょうか。」
そう言うと、
「ほう、魔石のペンですか。」
「この界隈では、ガラスペンという高価な筆記具があるけど、ペン先をガラスじゃなく、魔石にして、持ち手はクボクチみたいな節のある木があると聞いたので、それにしてもらえますか。費用がかかるなら払わせてもらうがどうでしょうか。」
「へえ、こいつはありがたい。お礼として、こんな注文してくれるとは感心でさあ。魔石の加工は腕の差が顕著に出てしまう。職人としての腕を見せられる仕事ですので。」
シストラニさん、ちょっと興奮したのだろう。口調が少し乱れる。
「急がなくてもいいので、行き倒れにならない程度に励んでくれたらありがたいです。」
「いやあ、いい修行になりそうです。心配はしないでください。行き倒れにはならないようにしますよ。おっと、そうだ。6日ほど時間をくれれば。きっちり仕上げてみましょう。」
「もし難しければ、また俺に連絡つかなければ、この組合本部に伝言なりしてくれれば大丈夫なのでよろしくお願いします。」
「わかりました。では早速やらせてもらいましょう。世話になってる工房に話をして、作業させてもらいましょう。」
そう言ってシストラニさんは、立ち上がり脱兎の如く駆け出していった。
(ふーん、なるほど。ダンがお礼に仕事を頼むなんてね。でも信頼はできそうで良い職人ね。没頭しやすいところが欠点かしら。)
念話術で、メムがシストラニさんの人物評を伝えてくる。
(さすがメム様、俺も同じことを思っていました。しかし、あの左腕輪についていたマークはオシャレというか、格好いいですね。)
(兜と剣と杖を組み合わせた感じの紋章だったわね。色合いも赤と青と黒と白、銀灰色の腕輪に意外とマッチするわね。ダンも目のつけどころが良いわね。)
(でも、あの兜のデザイン、どこかで見た感じもするのですが。)
まあ、そのうち何かの拍子で思い出すことがあるかもしれない。これからしばらく夕刻になるまで街の中央図書館へ行ってみて、ランクアップで見れるようになった資料を探すことにする。
(じゃあ図書館に行きますか。それとも、早めに下宿先に戻ってヘルバティアと遊びますか。)
(朝も言ったじゃない、あまり四六時中一緒にいたくはないって。)
(じゃあ、図書館に。)
そして、すぐ近くにある図書館へ行って資料を漁っていると、間も無く夕刻になったので、組合本部の食堂で夕食をとり、下宿に戻る。
いつものように茶店の厨房奥に声をかけて、部屋に戻ると、ダッシュする足音がして、ドアをノックする。
「入浴どうぞ。」
と言うミアンの声と、
「メムちゃんお帰りなさい。」
と言うヘルバティアの声がしたので、ドアを開けると、メムはさっさとヘルバティアの元へ。いつもの夜になった。




