92弾 この製作品に感嘆しよう
シストラニさんに注文したペンができるまでは、組合本部に掲示されていた依頼を探して、猛獣退治として3件、街道付近にアクアウォルフ、ロックウォルフ、ウィンディウォルフがそれぞれ屯するのを退治駆除して欲しいという依頼を受けて、偵察と退治をそれぞれの場所で実施し、6日間で依頼を完了させる。
拳銃に魔弾を込めで魔法を発動させると、あっという間とは言わないが、苦戦はしなくなってくる。でも、事前偵察をした上で、どんな属性の魔法を発動させるか、そのためにどの魔弾を使うかをしっかり決めておく必要はある。
とはいえ、受けた依頼を完了させ、証拠を見せて依頼完了代金を受け取り、アクアウォルフ、ロックウォルフ、ウィンディウォルフの毛皮の代金も合わせていただく。
依頼を受けた間も、いつも通りに食事を済ませ、下宿に戻り、メムがヘルバティアとお風呂に入る日々を過ごしていた。
そして、注文してから7日後、組合本部に向かうと掲示板の前にシストラニさんが待ち構えていた。
「おはようございます。ニシキさん。ご注文の品が完成しましたので、ご覧いただければ。」
と、シストラニさんが笑顔でそう言ってきたので、組合本部のロビーの空き席に一緒に向かう。
「無茶はされていませんか。」
俺がそう聞くと、
「いえ、そんな。1日ぶっ通しなんてことは、もうしてませんから。ご安心ください。」
そう言ったシストラニさんの顔色は確かに良かったので、少し安心する。
シストラニさんは続けて、
「こちらになります。どうぞご覧ください。」
そう言って、持っていたカバンから小さめの箱を3つ取り出して、俺たちの前に並べる。そして各々の箱の蓋を開けていく。
一つ目は、持ち手にクボクチを使い黒の塗装をした物、二つ目は持ち手に何か細紐を巻き赤黒の塗装をしたもの、三つ目は二つ目の物より全長が長く、持ち手に微妙なカーブがついていて何かの木で作られた上に赤黒の塗装をした物。ペン先は黒々とした魔石だったとは思えないくらい、白黒のマダラ模様が浮かび上がっている。ペン先を保護するキャップもついて、まるで、高級万年筆のようだ。
「………ほう、これは見事な出来です。」
見事な作品に俺も言葉を失いかける。
「一つ目のペンは、ニシキ様が言っておられたクボクチの木を使い丈夫にするために、スニシルの実の搾り汁を塗ったもの。二つ目のペンはさらに丈夫にするために、一つ目のペンのように作り、その上にラワの蔓つるを巻きスニシルの実のしぼり汁を塗ったもの。三つ目のペンは、エウホの木にして持ち手の部分を一部削り、持ちやすさを追求した物です。エウホの木は良い包丁に使われていまして。その端材なのです。いかがでしょう。あと申し訳ないのですが、私の方で一度試し書きをさせてもらっています。」
シストラニさんが一通り説明するのを、俺は息を飲みながら聞いた後、
「手に取ってみても構わないですか。」
と尋ねる。
「もちろんです。どうぞ。」
とシストラニさんが答えるので、一つずつ取って、筆記する状態で握ってみる。三つともどれも良い感じでいくらでも書けそうだ。 軽さとバランスがすごく良いのだ。手へのフィット感も最高だ。
「どれもすごく良いです。見事な作品と言っても過言ではないです。いやすごい。この素晴らしさを言葉にできないくらいです。」
俺が大いに感嘆する。
「いえいえ、むしろこちらは、材料までいただいて腕を思いっきり振るえたのですからありがたいことです。そんな褒めていただくとかえって恥ずかしい。」
シストラニさんが少し照れる。
「いや、こんな技術を惜しげもなく使って、これを作るのに一番苦労したところはどこになるのでしょう。シストラニさん。」
俺は、これらのペンを見てシストラニさんの技術に好奇心が湧いてきてしまう。
「ほう、そのような質問をなさるとは、面白い方です。……そうですね、一番苦労するのは、やはり魔石の加工でしょう。魔石をしっかり見て、石の目を見極めてノミを振るう。その後磨きをかけてペン先の溝を彫り込んでいく。そのための道具はいろいろありますが、魔石の加工は実に難しく奥が深いのです。」
「では時間もかかってしまったのではないですか。」
「いえいえ、こちらも6日と見積もっていますし、仕事の時間の見積もりと配分はしっかりしたつもりです。一番困るのは、急に仕事が飛び込みできて、すぐ仕上げてくれというやつですから。こっちもやりにくい、なんてもんじゃねえです。」
「うーん、良い話を聞かせてもらったし、このように見事に製作してもらって、ぜひ代金を支払わせてください。」
やはり、良い腕、良い仕事には代金を惜しむ物じゃないしな。そう思いながら俺が申し出ると、
「いえ、受け取れませんね。今回は私を助けてくれたお礼として、この仕事をさせていただいたのですから。」
「では材料費として支払いたいのですが……。」
「大丈夫ですよ、魔石はニシキ様からいただいた物だし、持ち手の材料もちょうど良いタイミングで端材が残っていたのを活用したものですから。こっちは、思いっきり腕が振るえたので代金なんて受け取っちゃならないです。」
この人本当に職人だな。無理に渡すわけにもいかないだろうな。
「そうですか、でしたら代金は………。」
「ニシキ様のお気持ちだけで十分ですよ。目利きの方に評価してもらえるのならそれは本望。ただ、一つお願いしても。」
「俺にできることでしたら。」
「その短杖のようなものを見てみたいのですが………。」
シストラニさんがそう言って、俺の右腰にある拳銃に視線を送る。
「良いですよ、見るだけにして下さい。」
俺はそう言いながら、装填された魔弾を抜き出して小袋に入れておく。
シストラニさんがそれを見つめていたが、俺が机に拳銃を置くと、手にとってあちこちを眺めて
「この品質は、もしかしてリルンコムか。いやしかし、そんなに出回っていないし………、この機構は何だ。うーん、すごい物だが、私には無理だろうな。」
と呟きながら俺の拳銃を眺める。
「りるんこむ?、それは何でしょうか。」
あまり聞きなれない言葉が出てきたので聞いてみる。
「リルンコムとは、この世界で武具に使われる金属の中でも最高の金属と言われる物です。」
拳銃を机に置いてシストラニさんが説明してくれる。
「ほう、初めて聞くものです。あ、シストラニさん、これはこちらに返してもらっても。」
「ああ、どうぞ。見せていただきありがとうございました。そうそう、リルンコムというのは、かつて妖精が独占していたとも言われている金属です。加工も容易いのに、軽くて防御力に優れ、かつ魔力を任意で遮断したり通したりできる唯一の金属です。おまけに錆びたり劣化したりしない、金属の中で最高の中の最高なものです。しかし、この世界にはあまり出回っていないものなことと、加工するのに特殊な技術や道具がいると言われるのですが、その伝承された文献が発見されていないのです。私が知っている限りでは、各王国にそれぞれリルンコム製の鎧、兜、大籠手、鎖帷子、脚当て、靴、盾が伝わっていますが、それだけなのですから。」
「へえ、すごいです。でもこれはそんな大仰なものではないですよ。森でたまたま拾ったものです。しかし、今の話を聞いていると、伝承の文献が発見されていないと言われましたが、じゃあ文献はある、存在はしていたということですか。」
「いや、良い質問をされます。大昔にその文献を使ってリルンコムを製造した記録はあるのですが、戦争で散逸したようなのです。つまり存在はしているということかと。」
「戦争ですか、最近のですか。」
「いえ、喪失戦争でです。約500年前の。」
「そうですか………。あ、この際ですので、武具に使うような他の金属の種類について教えてもらえるでしょうか。」
俺は、話の流れを変えるつもりで、他の話題を振ってみる。




