90弾 助けたお礼を受けてみよう
「ああ、そういえば。自己紹介がまだでしたね。俺は、姓はニシキ、名はダンと申します。こちらのグランドキャットはメムと言います。」
「ああ、こちらこそ名乗りが遅れました。私は、姓はシストラニ、名をゴジーロンと申します。行き倒れのところを助けていただいて、誠にありがとうございます。おまけに食事までありがとうございます。」
「いえいえ、気になさらずに。ところで、流れの魔道具職人と言っていましたが、何か受けた仕事の最中だったのですか。製作に夢中になっていたとも言っていたので。」
「ああ、そうでした。魔道具製作組合の仕事を受けていました。部品製作でしたが出来上がったので届けにいくところでしたが、途中で倒れてしまったようです。」
「じゃあ、一緒に届けに行きましょう。」
俺がそう言うと、シストラニさんも
「ああ、そうですね。届けに行きますか。」
そう言って、懐にある袋を確認した。
そうと決まれば早速、魔道具製作組合に行くことになった。
食事の代金は急いでいることもあって俺が全部払い、そのまま一気に魔道具製作組合に向かった。着いた頃が夕食どきであったが、 俺が、ドアをノックして、
「夜分に申し訳ない。届け物があって急ぎそちらに来た次第です。ドアを開けていただけますか。」
と言うと、ドアが開き、魔道具製作組合の人らしき者が顔を出してくれた。
「おや、シストラニさん。それに赤字の飼主、ニシキ・ダンさんですね。」
と、初めて異名付きで氏名を呼ばれたのだった。
「いや、夜分にすまないです。こちらのシストラニさんが部品製作の仕事を受けて、製作して完成品をそちらへ届けようとしたところ、ろくに食も取ってなくて行き倒れになっていて、それを俺が見つけたのです。取り急ぎ飯を食わせてから、こちらに届けるために一緒にそちらに伺ったのだが、よろしいでしょうか。」
俺がそう言って事情を説明する。
「本当に、夜分に申し訳ない。行き倒れていなければもっと早く届けに行けたはずなんですが。」
そう言って、シストラニさんが魔道具製作組合の人に頭を下げた。
「わかりました。大丈夫ですよ。じゃあ、中に入って下さい。さあ、どうぞ。」
「ありがとう、アルさん。」
そう言ってシストラニさんが中に入る。俺たちが入るのを躊躇していると、シストラニさんが
「さあ、ニシキさんもどうぞ。」
そう言って俺たちを中に招き入れたのだった。
魔道具製作組合の中で、製作した部品の確認をしているのを、俺たちは離れたところで見守る。
「いい出来です。ありがとうございます。しかし、行き倒れは勘弁して下さい。」
とアルさんが言って、製作した部品を引き取った。
「いやあ、納品にまでつき合わせてしまって、本当にありがとうございます。食事までご馳走になった上に、ここまでしていただくとは。もうここまでで十分です。あとは、宿に帰るだけですので。」
そう言って、頭を何度も俺たちに上げ下げして宿に戻ろうとするが、急に足を止めて、
「ここまでしてもらって、何のお礼もできないのもいけませんから。お礼をさせて下さい。」
と言ってくる。
「ただ行き倒れを助けただけですから。お礼なんて結構ですよ。まずは体を休めたほうが。」
俺はそう言うが、
「いや、ここまで気を使わせてお礼なしは、こっちの、私の、いや当方の気がすまねえです。ぜひお礼を。」
結構な気迫を出して押し迫ってくる。
「お礼をしたいと言われても……、夜も遅くなるといけないので、明日の話にしますか。」
「わかりました。じゃあ、明日の昼にこの街の組合本部で待ち合わせて、話しましょう。」
そう言ってシストラニさんが宿の方へ帰って行った。
俺たちも下宿先へと歩を進める。
下宿先に戻ったのは、昨日より遅くなってしまった頃だった。
「ただいま戻りました。」
茶店奥の厨房に声をかけて、自部屋に戻る。
部屋に戻るや否や、ダッシュした足音がして、ドアをノックする。
「入浴どうぞ。」
と言うミアンの声と、
「待ちくたびれたわよ。何していたの。遅いじゃない。ニシキさん、もっと早くメムちゃんを連れ帰りなさい。」
と無茶を言うヘルバティアの声がしたのだった。
メムも諦めた感じになり、俺がドアを開けると、さっさとヘルバティアの元へ。
楽しい入浴時間となった、はずだ。
「はぁー、お風呂ってくつろぐための時間のはずなのだけど………。」
入浴を終えて戻ってきたメムがぼやいている。
俺は、さっさと灌水浴室で体を洗い終えて、部屋でメムの入浴終わりを待ちながらくつろいでいたところだった。
「そんなに大変なのですか。ボディランゲージで示してあげれば通じるのじゃないですか。」
「まあ、入浴はいいのだけど……、風呂から上がった後に私の体を乾かしてから、やたらにヘルバティアが頬をすりすりするのよ。私の体のあちこちに。『ああ、このモフモフがたまらねー。』とか言って。」
まあ、満喫されていますね、ヘルバティアは。メムは話を続ける。
「時間になれば、あの妹たちが引き離してくれるのだけど、一悶着起きるのよ。『もうちょっと』とか『もう少し』とか言ってなかなかヘルバティアが離れないものだから、妹たちが『いい加減にして下さい。』、『一日1時間ですから』とか言って最後は力づくで引き離すの。今回は、蹴るのじゃなくて、こっちから身をかわしてするりと抜ける方がいいと分かったわ。」
「ああ、お疲れ様でした。メム様。」
俺がそう言うと、メムがふと思い出したのか、
「ところで、『おやつはあまりあげちゃダメです。』、『ええー。』と言う会話もあったけど、ダン、あなた何かしたの?。」
「いやあ、何のことでしょうか。ただ俺は、彼女たちの財政状況は気になりますが、財政的に、あまりメム様に入れ込まないようにしているのじゃないですか。あの茶店経営だと程々に経営している感じなのですよね。俺から見てると。」
「大赤字にならないことにだけ専念した経営をしている、ということかしら?。」
「茶店を経営しながら、裏ギルドの仕事をしているか、むしろ逆かもしれない。というところですね。」
「ふーん、じゃあ、経営参画してみたら。配当とかパテント料によって貯金はあるのだし。」
おやつが前に比べると減ったことについて、少し納得はしたようだったものの、思わぬことをこの元女神猫は言い出してきた。
「学校の文化祭じゃあるまいし、というところですかね。」
俺が婉曲的に否定を入れる。そして続けて
「今俺たちと彼女たちとは、互いに稼業に干渉しないことになっていますから。」
そう言うと、
「まあ、そうね。」
あっさりとメムは納得した。
「ところでメム様、前にも言いましたがここはある意味、敵地ですから。まさかと思いますが、食い物やおやつやスイーツなんかで、あの3姉妹に買収されてはいませんよね。」
「いや、………いや、そんなわけないじゃん。これは………、そう、私を愛でてくれている者に対して愛想を振りまいた代価よ、いわば、マスコット料金ね。」
顔をプイッと左にそらしながら言う。
「………今、ものすごい言い逃れをしましたね。」
俺がそう言うと、
「さあ、夜も遅いからもう寝ましょう。」
メムはそう言って強引に話題を打ち切り、逃げるように寝床へ入ったのだった。
それを見ながら俺は、明日のことについて考える。シストラニさんがお礼をしたいと言ってたが、どうしよう。うーん………。




