85弾 秘奥義伝授に立ち合おう?
「しかし、親子喧嘩って面倒ね。」
「あの熱烈なメム様のファンはどうですか?。」
「まああれも面倒だわ。もう少し距離感というものをわきまえてくれないと。」
「そうですか。しかし、どうなるのやら。あの親子。」
俺は、あの息子、ドゥジョン・シエルソさんが少し気の毒に思えてきた。
「あの親子の問題でしょうから、そこは割り切りましょう。で、どうするの。この臨時パーティメンバーの依頼はキャンセルするの?。」
「親父が偏屈過ぎますから。やってられないでしょう。明日組合本部に行ってキャンセルしてきますよ。別依頼を探しましょう。」
「じゃあ、これからの夕食はどうするの。」
「ご近所の地理把握のためうろうろした後、どこか食堂でも探してそこで食べましょう。」
「じゃあ思い切って、高級な料理を。」
「ダメです。引っ越した直後はお金を慎重に使いたいですから。後で何か出費がかさむかもしれませんから。」
「何かケチくさい気もするけど、魔弾の材料とかで買うものも出てくるでしょうしね。」
「まあ、落ち着いたら俺が料理してみますので。」
「ふーん………。まあいいわ。じゃあ出て行ってご近所周辺を散策がてら偵察ね。」
そう言って、メムはドアの前に立つ。
「じゃあ、行きますか。」
俺はそう言って、メムと一緒に散策と食事に出かけた。
近所の庶民的な食堂を見つけたので、そこで夕食を取る。
夕食をとり帰ってくると、風呂か。近所に公衆浴場があるのでそっちに行くか。この家にも風呂はあるのだが………。
「こういう時はラッキースケベ的なイベントが起こったりして。」
とメムが呟くのを聞いて、
「じゃあ、公衆浴場に行きますか。」
そんなイベントはフラグ自体から潰すか。
ということで、ご近所の公衆浴場へ行きました。何もなく、入浴は終わり、下宿先の部屋に戻ってくると、
「ねえ、いくらなんでも私を避けすぎじゃない。」
「姉さん、わがままは大概にして下さい。」
部屋の前に、ヘルバティアとミアンがいたのだった。
「お願いです、ニシキさん。いや、ニシキ様。もう付きまといませんから、せめて、せめて、メムちゃんと一緒にお風呂に入らせて下さい。」
「だから姉さん、わがまま過ぎますから。」
そう言ってヘルバティアが土下座し、ミアンが抑えるのを俺たちは口をあんぐりして見て、
「えっと、その話は契約にないので、後日話を詰めさせて下さい。」
と俺は言い、ヘルバティアはミアンに引きずられながら、部屋の前から去っていった。
「メム様、ラッキースケベ的イベントじゃなく土下座イベントが発生しましたが………。」
「うーん、熱烈なファンには困ったわね………。」
「まず、じゃあ依頼の件を片付けましょう。」
「そうね、おやすみなさい。」
俺たちは眠りについた。
翌日、朝食、身支度を終えて、組合本部へ向かう。依頼のキャンセルをしに受付に向かうところで、
「昨日は申し訳ないです。ドゥジョン一家の問題に巻き込んでしまって。」
そう言って俺たちの目の前にエティボ・ルナが現れて、頭を深々と下げてきた。
「えっと、昨日の、クリクルムチームのマネージャー見習い、でしたっけ?。エティボさん?。」
「はい、チーム名、ソハヤのマネージャー見習いをしています。実は、ニシキさんにお願いがあってここで待っていました。」
「えー、お願いって、なんでしょうか?。」
「多分、依頼をキャンセルしようとしているのじゃないですか。それを待ってほしいのです。」
そう言って、エティボさんは再び頭を深々と下げる。
しかし、いい読みなのか、勘が鋭いのか。とはいえ、無下にはできないかな。
「もしこのまま、依頼をキャンセルしない、と俺が言ったらどうするのかな。」
「一緒に私について来てくださいませんか。臨時パーティメンバーの依頼はこのままになりますから。」
そう言って、三度俺たちに頭を下げる。
なんか昨夜からあれこれと頭を下げられ続けてる気もするが………。
「まあ、わかりましたから。そんなに頭下げなくてもいいですから。」
また土下座されちゃ困ってしまうしな。
ということで、昨日行った道場の前にエティボさんと一緒に行く。
道場の前に一台のドラキャが現れて、
「何だ、昨日帰ったニシキさんじゃないか。」
親父のドゥジョン・サーテインさんが顔を出した。
「ええ、依頼はまだ終わっていません。ニシキさんに、臨時パーティメンバーとして、一緒に剣術の修業について行ってもらいます。」
エティボさんがそう宣言する。
「ええっ、いいのですか。」
そう言って、息子のドゥジョン・シエルソさんが操縦席から顔を出す。
「あと、私もついていきますので。昨日の話通りに。」
エティボさんはさらに宣言する。
「えっ、おい、それは………。」
サーテインが渋い顔をするが、昨日の話で何かあったのか反対しないようだ。
「ということですので、ニシキさん。どうぞご一緒に。」
そう言ってエティボさんが、俺たちにドラキャに乗るように手振りで促す。
俺とメムは、エティボさんに促されるまま、ドラキャに乗り込んだ。
「2泊3日の予定ですので、悪しからず。」
エティボさんは俺とメムにそう告げると、シエルソさんの操縦でドラキャは走り出していった。
移動中のドラキャの中は最悪の空気だった。シエルソさんとエティボさんの会話は多少あるのだが、サーテインさんが誰とも会話しないのだから。
そしてその空気のまま、途中の村で一泊をして、翌朝、村をたった。
しばらく走ると、
「ここが目的地です。」
エティボさんは俺たちに告げて、ドラキャを降りる。
そこは、霧深い平原であった。
「ここはどこですか。」
見慣れぬ場所に俺は戸惑って、エティボさんに聞いてみる。
「ここは、イナチャ盆地になります。サーテインさんが言うにはハリケーン流の神聖な修行の場になるそうです。」
親父が張り切った感じで、息子がイヤイヤ付き合う感じで、両者、剣を持って相対する。俺とメムとエティボさんは、そんな二人を少し離れた5マータルくらいのところから見つめている。
「さあ、息子よ。我がハリケーン流の秘奥義を伝授しよう。」
親父さんはノリノリになっている。とその時、
(ねえ、ヤバい感じよ。凶暴な獣の気配が、前のランクアップ試験で遭遇したのと同じ気配を感じるわ。)
メムが念話術で危機を知らせてくる。
(わかりました。ありがとうございます。)
そう返して、
「一旦撤収しましょう。獣の気配があります。」
そう皆に告げる。
「わかりました。では撤収にかかりましょう。」
とエティボさんが言い、
「親父、後にしよう。撤収しよう。」
とシエルソさん。
「ふん、猛獣ごときで我が秘奥義の伝授が止められるか。息子よ、逃げるな。」
と言ってその場を動こうとしない。
(もう、せっかく教えているのに、これはやられる予定の奴が言うテンプレセリフね。)
メムが念話術で俺に言ってくるが、霧の中から目を光らせて
ガギャルウウウウー、と咆哮しながら、前に見たヤベアクゥアと毛色が違う焦茶色の毛皮をまとった獣が現れた。
「あれは。ヤベア種ですよね。」
エティボさんに問いかける。
「ええ、まさか強獣のヤベアースが出るとは。撤収しましょう!。急いで!!。」
エティボさんが叫ぶ。しかし、親父サーテインは、
「息子よ見ておくがいい。強獣相手に我が秘奥義を。」
そう言って構えをとる。日本剣道型にあった八双の構えか。
「親父、無茶だ。」
シエルソさんが叫ぶが親父は聞く耳を持たない。
ヤベアースは立ち上がり、4本の腕を大きく広げると、吠えながら、サーテインさんに岩弾を放ってきた。
「秘奥義、渦巻斬り。」
そう言ってサーテインさんは放たれた4発の岩弾を切り刻む。
秘奥義、意外とすごいな、しかしヤバくないか。俺がそう思った瞬間、ヤベアースは一気に間合いを詰めて、サーテインさんを殴りにかかる。
(まずい。メム様、囮役を。)
そう念話術で頼んだ瞬間、親父はヤベアースの攻撃を受けきれず、パンチを喰らって数マータル吹っ飛ばされた。
「俺がこの強獣を引きつけますので、親父さんを収容して下さい!。」
俺はそう言って、拳銃を抜き、狙いをつけて、引き金を引き、【火球】の魔弾を発動させる。
この魔弾の威力は最弱なので、あまり効いたとも思えなかった。
ヤベアースが俺とメムの方を見て、メムに攻撃を仕掛けるべくメムにのしのしと歩み寄ってくる。
その間にドラキャがスッと吹っ飛んだサーテインさんの元に近寄ると、シエルソさんとエティボさんが親父サーテインさんを、必死で収容にかかる。
弾倉に威力最大、毛髪0.5ガラム入りの【風球】の魔弾を装填したところに、まさかのもう1匹のヤベアースが現れた。




