84弾 後継問題スルーしよう
道場は、石造りでできており、床が板張り。
「早速、手合わせしてもらおうか。このワシと。」
「ええと実力確認みたいなものですか?。」
「おお、剣術の力を見てみたい。このワシの道場内の木剣ならどれでもいいぞ。我が息子にも見せてくれ。」
「ふーん、あなたの道場ですか。じゃあ、武器なしでやらせてください。」
少し迷ったが、とりあえず長剣はまだ使ったことがないし、少し実戦的にやってみたほうがいいかなと思い、武器なしでの腕試しをお願いする。
「よかろう、しかし我がハリケーン流は手加減できんぞ。覚悟はよいな。」
ドゥジョン・サーテインさんはそう言って、太く長い両刃に似せた木剣を正眼に構える。息子は道場の隅でメムと一緒に、俺と父親の戦いを見学をするようだ。
しかし、ハリケーン流ってなんか仰々しい流儀だな。そう思いながらも
「集中」
と呟き、前に間合いを詰める。
木剣とはいえ、鍔迫り合いするくらいの間合いまで詰めると、有効斬撃はかなり落ちる。相手もそれに気付いたか、左右に動きながらするりと後退し間合いを開ける。と、その瞬間上段に振りかぶり一気に打ち込んでくる。俺がスローに見える相手をバックステップでかわすと、さらに木剣を左右に振り回し、右胴、左胴を狙い続けざまに攻撃してくる。
まあ、威力も迫力もあるのだが、いかんせん右胴を狙って振り、左胴を狙って振る動きがワンパターンになってしまっている。
よし、これなら、右から左に振って左胴を空振りし、木剣を左から右に振ろうとする持ち手を狙って、右足で蹴りを入れる。カウンター気味に入って相手の動きが止まる。そこをタックル気味に捕まえて両足を刈る。ドサッと相手がひっくり返るところで、木剣を持つ右手を踏み押さえる。
「ま、参った。」
息子の前でこれはひどいかな。相手もものすごく悔しそうに顔を歪ませている。
その時、道場の隅から拍手の音が聞こえた。
「いや、お見事です。」
そう言って、息子のドゥジョン・シエルソが拍手をしていた。
うーん、なんでこんなことになってるのだろうか?。普通親父のやられるのをみたら、息子は悔しそうなリアクションしないかい?、俺は少し混乱してしまった。
「このバカ息子がぁ、なんの拍手だ!。」
そりゃ、親父はキレるか。
「うるせえ。もう親父、道場はたたむべきだ。ニシキさんの実力が圧倒的だし、親父じゃ無理だろう。」
息子も冷静に反撃する。
「道場を継ぐのがお前の役割だ。それがわからんか。」
親父は立ち上がり息子に詰め寄る。
「時代の流れがある、継ぐ気にはならないし、僕は剣の才能はないよ。」
まあ、俺は親子喧嘩のとばっちりも嫌なので、間に入り仲裁する。
「両方とも落ち着いてくださいよ。そもそも、臨時パーティメンバーとして俺の力をみると言ったのはサーテインさんですから。」
「ニシキさん、あんたもあんただ。もう少し手加減とか忖度とかしてくれないのか。あんなあっさり、しかも武器なしで倒しやがって。」
おい、偉そうに言っといてそれはあんまりだろう。俺もムッとして、
「てっめえ、じゃなんのためにパーティメンバーに俺を指名したのだ!。」
「もういい、ニシキさんの実力は分かった。もういい!。」
今度は親父逆ギレか。
「親父、いい加減にしろ。ニシキさんに失礼だ。」
息子が親父と揉み合いそうになるので、もう俺もほっとこうと思い、
(メム様、帰りましょう。引っ越し後の初依頼がこれじゃ、やってらんないですから。)
そう念話術で告げたその時、道場の扉が開いて、
「ちょっと、やめてください。何しているのですか。」
甲高い女性の声が響き渡った。
扉を開いて現れた女性が二人。一人は、大声で俺たちの乱闘寸前になっているのを止めた16、7歳ぐらいの若い、肩までの翠髪をツインテールにした女性。もう一人は、あれ、どこかで見た、ああ、警備隊総隊長によく似た女性だった。
「あんた、何してんだい。」
警備隊総隊長に似たその女性は、サーテインを睨みつけてそう言った。
俺はなおの混乱を抑えるつもりで、
「えっと、臨時パーティメンバーとして来ました。姓はニシキ、名はダンと申します。お二方はこのパーティの関係者でしょうか?。」
と聞いてみる。
「ふむ、あんたはこのサーテインに連れてこられた冒険者かい。私は、ドゥジョン・エリス、こいつの女房さ。」
と警備隊総隊長に似たその女性のエリスさん。
「えっと、失礼しました。いきなりの大声で。私は、姓はエティボ、名はルナと言います。クリクルムチームのマネージャー見習いです。」
と、翠髪をツインテールにした女性のエティボ・ルナさん。
「えっと、お二人はなぜここに来られたのですか?」
「あのー、実は、父と子で揉めていまして。父はこの道場を継がせたい、息子は嫌だ、という対立が起きてまして。さっき、道場で音がしていたので見に来たのですが………。」
と、エティボさんが答えて、その息子が大きく頷く。
「えっと、もう一つ質問が、いいですかエティボさん。くりくるむちーむというのはなんでしょうか。あまり世間のことに詳しくないもので。」
と、俺が初耳の用語について質問する。
「クリクルムチームというのは、ドラキャの走行競争をするためのチームです。このドゥジョン・シエルソに、私たちのクリクルムチームの乗り手として加入してほしいと思っていまして。」
ふーん、この話を聞いた程度だと、カーレーサーか競馬の騎手みたいなものか。
「ワシは認めんぞ。ちょっと乗り手のセンスがあるからといって、後継なのは変えんぞ。お前みたいな小娘にワシの跡継ぎを譲るわけない。」
「いや、道場の跡継ぎは形の上だけでもいいですので、本当に乗り手として将来有望です。」
「ふん、いい加減にしろ。小娘。ダメなものはダメだ。」
親父は頑固であった。
「ちょっと、あんた。いい加減におし。何度も来てくれるこのルナさんに、小娘とはどういうことだい。」
女房の声色がどす黒くなってきた。
「い、いや。言葉のあやだ。言葉のあやだ。」
親父殿はビビり出した。
俺は、この後予測されるものを見る気はないので、
「じゃあ、俺はこれで失礼します。」
そう言って、メムと一緒にさっさと退散したのだった。
結局、依頼の方はどうなるのか。依頼主からキャンセルされるのか、俺がキャンセルするかをはっきりしないまま、昼食をとり街中をゆっくり歩きながら、下宿先の茶店に戻ってくる。後しばらくしたら夕刻だな。まもなく日は傾き出す頃か。
意外と早く帰って来たので、茶店の裏口、要は家用の出入り口は静かであった。鍵はもらっているので、それで鍵を開けて俺たちの部屋に入る。
「メム様、ずっと音無しの構えでしたね。」
「だって、どうしょうもないでしょ。あんなに揉めていたら。」
「まあ、それもそうですね。」
「ねえ、…もう来たわよ。」
「さすが熱烈なファンですね。」
メムは接近する人を探知する。静かに帰って来たのに………。
「メームーちゃーん、おかえりーなさーい。」
少年の格好をしたヘルバティアさんがドアをノックする。本当この人は………。
メムを見ると、ものすごい勢いで左右に首を振る。じゃあ断るか。とそこへ、
「姉さん、いい加減にしてください。」
「いやー、離してー、いーやー。」
どうやら、回収班が長姉を部屋のドア前から回収してくれたようだ。ヘルバティアの声がだんだん遠ざかっていった。




