86弾 後継問題落ち着きそう?
「収容しました。ニシキ様もそのグランドキャットも撤退しましょう!。」
そう言って俺の元にドラキャが滑らかに走り寄る。
「メム!!。」
俺はそう叫びながら、ドラキャのドアを開けてメムが飛び乗ってくるのを確認すると、半身になりながらドラキャに飛び乗る。
ドラキャはスルスルと加速する。しかし、ヤベアース2頭が追いつこうとする。
「集中」
俺は呟き、ドラキャに近いヤベアースに狙いをつけて、一気に風球の魔弾を6連続でぶっ放して魔法を発動させる。
一頭のヤベアースは命中して腕、足、頭、胴体がバラバラに切断される。それに構わずにもう一頭がしつこく追跡してくる。
ドラキャが左右にドリフト走行しながらヤベアースの追跡をかわし走る。しかし、こんなドリフトしながらも中に乗っている人間には何の負担もかかっていないのだ。
「すげえ、何と言う操縦技術だ。」
俺は思わずそう呟く。魔弾の再装填も落ち着いてやれそうだ。もう一度、さっきぶっ放した風球の魔弾を装填し、狙いをつける。
引き金を引き、もう一頭もバラバラにする。
「ふぅ、なんとかなったか。」
ドラキャは速度を落とし、Uターンすると、ヤベアースのところへ。
「ニシキさん、多分そいつ魔石を持ってるはずですので。」
エティボさんにそう言われ、バラバラになったヤベアースの胴体から歪な球形の魔石を見つけ回収する。先に倒したヤベアースからも魔石を回収し、ドラキャはひとまず村へ向かった。
「しかし、なるほど。ドラキャの操縦がすごく上手い。」
俺は感心していた。
一旦村に行き、強獣の話をし、親父さんの様子を見ると、回復ローションのおかげでか、意識は回復したものの、骨折しているようなので、街へ大急ぎで戻ることになった。ドラキャの速度を上げて一気に加速し、安定した走りをしている。
「ニシキ様もわかりますか。ドゥジョン・シエルソの、この操縦技術。ある意味天才です。」
エティボさんが力説する。
とりあえずかなり速度を上げていたようで、街に着いたのは、その日の夕食時であった。
「え、もう着いたのか。行きの倍以上の速さかな。」
驚いて、思わず脳内が混乱した状態で呟いてしまった。
取り急ぎ、親父さんを街の治療所へ運んでいき、翌日に依頼完了の手続きをすることになった。
俺は急ぎ、組合本部にイナチャ盆地でのヤベアース2頭との遭遇、退治を一報して、組合本部の食堂で夕食と浴場での入浴を済ませ下宿先に帰宅した。
部屋の前には、ヘルバティアさんが一昨日に引き続き、土下座で俺たちを待っていた。
「なにとぞ、なにとぞ、メムちゃんとの入浴許可を………。」
えらい執念だなあ、と俺がそう思ったが、
「本日のところは、ご容赦を。」
土下座には、土下座で返すのが基本だからな。
そこへ、ミアンとミヤンが現れて、
「姉さん………。」
「ニシキさん………。」
互いの土下座合戦に開いた口が塞がらないようだ。
「姉さん、迷惑かけちゃダメですよ。」
そうミアンが言って、ミヤンと一緒になって長姉を回収して部屋の前から去っていった。
「もう、女の子に頭下げさせまくるなんて、罪な男ね。ダン。」
部屋に入って開口一番、メムが冷やかしてくる。
「やめてください。まだ、依頼完了の手続きも終わっていないのですから。あまり疲れさせることは言わないでください。」
俺はゲンナリした気分でメムに返す。全くなんて日だ。そのついでに
「ところでメム様、契約主と一緒に風呂に入る件、いかがなさいますか。」
と聞いてみる。
「う、うーん。風呂だけにしてくれるなら、ってところかしら。それ以上はあまり付きまとわないようにしてくれるようにする、とかの条件をつけたいわ。」
「わかりました。あの3姉妹を巻き込んで交渉すれば、なんとかなるかもしれません。」
「そうね、期待してるから。おやすみー。」
そう言ってメムは眠りにつく。俺も眠りについた。
翌日、依頼完了手続きの書類をもらいにタンフーン流道場へ行くと、ドゥジョン一家とエティボさんが顔を揃えていた。
親父さんは、包帯で身体中をぐるぐる巻きにされ、首から下はミイラ男のようだ。
ドゥジョン・エリスさんが口を開く。
「ニシキさん、臨時パーティメンバーご苦労様。サーテインをよく家に戻してくれたね。ありがとう。」
そうお礼を言ってくれる。
「いえ、そんな大仰な。やれることをやったまでです。しかし、シエルソさんのドラキャの操縦がなければどうなっていたか。」
俺がそう言うと、
「いえ、こちらこそ、臨時パーティメンバーとして僕と父を助けてくれてありがとうございました。」
とシエルソさんもお礼を言う。
「ところで、サーテインさんの具合はいかがですか。」
俺が問いかける。
「まあ、傷だらけだが、しばらく家で療養さ。なんとか回復はしそうだってさ。安静にしなきゃいけないけどね。」
とエリスさん。
そこに、
「うーん、わしのハリケーン流はもはや途絶するのか………。」
とサーテインさんが呻きながらこう言い出してきた。
「いいんじゃない。無理に息子に継がす必要はないからね。途絶したからってそんなに問題はないからね。」
エリスさんが非情のコメントをする。
「わしのハリケーン流は一子相伝、途絶したら価値がなくなる………。」
「何カッコつけて言ってるの。そもそもハリケーン流と言うけど、この臨時パーティメンバーにあっさりやられるような流派、あってもなくても変わらないよ。秘奥義を口伝と実演で伝承するにしても、その口伝でちゃんと秘奥義を伝えられないのじゃ、流派の意味なぞないよ。」
さらなるエリスさんの追撃。
サーテインさんは完全に沈黙した。
「まあ、僕には剣の才能はないしね。」
とシエルソさん。
「シエルソさんにはまた別の才能がありますから。ドラキャの操縦能力という才能が。」
とエティボさん。
「正直、才能の一端は俺も味わいました。そのクリクルムチームでやってみるのもありなんじゃないかと。」
と俺もエティボさんの見る目に感心しながら言う。
「わしの………プライドが……、わしのプライドが………。」
悔しそうに呟く親父さん。
「何言ってるのさ。退け時を間違って、無謀にも強獣に立ち向って怪我をして、それでプライドとは片腹痛いよ。いい加減行く道変えなきゃダメよ。シエルソにも別の才能が発揮できる機会も与えることも親の勤めだよ。」
エリスさん、親として見事です、立派です。
「だが、乗り手としてあっという間に稼げるほど甘くはないだろう。実入りのない間はどうするのだ。才能だけでは無理じゃろうに。」
親父は別の突破口を探している。
「それは、私どものチームでなんとかします。才能だけで言えばとんでもないですから。」
エティボさんが言い返す。
「じゃが、小娘のチームじゃそんなに稼げないだろうが。現実はそうじゃろ。」
親父の反撃。
「あのー、一つお尋ねしても。」
俺がおずおずと手を挙げながら聞いてみる。
「なんだ。ニシキさん。」
「そのクリクルムチームの乗り手だけで稼げなければ、何か別の仕事というか兼業というのはできないとかはないのですか?」
「そんなことはないですわ。乗り手としてチームに所属しながら、稼げるようになるまで別の仕事をするのは何人かいましたわ。」
とエティボさんが答えてくれる。
「そうですか、それでしたら、ドラキャの操縦手として雇ってくれるところがないか、こちらで問い合わせてみてもいいですか。」
「どちらに、問い合わせるのだい。」
とエリーさん。
「えっと、マーハ商店とか宰相府の知り合いに問い合わせてみようと思いますが。シエルソさん、エティボさん、いかがですか。」
「………僕の才能がそれで生きると言うのなら、それはありがたい話だよ。エティボさん、僕はあなたの話に乗ってみたい。」
息子の意思が表明された。
「わかりました。ありがとうございます。後日チームトップと面談できるようにいたします。」
エティボさんがニッコリして一礼する。
「よく言ったよ。思う存分やってみるといい。」
とエリスさん。
「………勝手にしろ。………だが無茶はするなよ。」
とサーテインさん。
少し空気が変わったかな。なかなかいいシーンだな。で俺も感動はしたが………何か、忘れかけている。
「あっ、あのう………依頼完了の書類に記入をお願いしたいのですが。」
俺は肝心なことを思い出したのだった。
「ああ、そうだったわね。」
エリスさんが依頼完了の書類に記載してくれた。ふぅ、これで一安心か。依頼も完了したし。
ふと気付くと、サーテインさんが俺の顔をじっと眺めている。そして、
「よし、ニシキさんや、我がハリケーン流の後継者として………。」
「バカ言ってんじゃないよ。」
そう言って、エリスさんがサーテインさんの頭を思いっきりはたき、
「全力でお断りいたします。」
そう言って俺とメムは早々にこの場を立ち去ったのだった。




