78弾 この住居を調査しよう
寮の部屋に戻り、情報を整理して、準備をするが、
「どんな住居かしら。家がそんなに変化することなんてあるのかしら。」
メムが疑問を呈する。
「まあ、しばらく空き家にしていたのですから、何か不具合はあるものですが、あやかしや変な人物というのが何かは確認しなきゃいけないですね。今回は、メム様の力が大いに役立つでしょうから。」
「………急に何を言い出すのやら。まあ、いつも役立っているのに今回なんでそう言い出すのかしら。」
「………いつもより、ノリ悪いですね。何か変なものでも食べましたっけ。」
「食べてないわよ!。失礼ね、女神を何だと思っているのかしら。」
「………もしかして、怖いのですか。お化け屋敷とかが。」
「そ、そんなわけないじゃん。ちょっと扱いが悪いのかな、って思って言ってるだけじゃん。」
何かいつもと言い回しが違うのだが、この元女神猫。
「…そうですか。まあ、油断せずに行きましょう。」
やっぱり、ちょっとビビっているな。元女神猫のメム様は。
翌日
「こちらが、依頼現場の家になります。」
イサドさんに案内してもらい、商人宅の門前に到着する。
なかなかしっかりした感じの家だな。2階建の赤い屋根に白い壁。コの字の形をしている造り。
「では、ここからはよろしくお願いします。」
そう言ってイサドさんは組合本部へ戻っていく。
「まずは、家の周りを一周して、庭とかも見ておくか。」
俺がそう呟く。
人はほとんどいない閑静な住宅街で、メムは何かに怯えているような感じだ。
「もしもし、メム様。どうかしましたか。」
「いや、何でもないわ。は、は、ははは。さあ行きましょう。」
「女神様でもビビることがあるのですね。」
俺がそう指摘すると、メムは、何度もジャンプしながら、
「なに言ってるの。何もビビってなんかないじゃん。さあ、外観から見ていくのね。」
やっぱり、言動が変だな。ここは、やっぱり、一言言っておくか。
「あのー、メム様。何も怯えることはないですよ。あなたには、多分、敵感知能力が備わっていますし、俺もそれなりに戦える。もしかして、家自体がモンスターみたいになっているのだったら、今頃こんな話は出ないですよ。怪我した方は、慣れない居宅内で何かにつまずいて転倒するとか、そういうので怪我したんゃないですか。それに、俺たち一応、色々戦いを経験してるでしょ。女神メムがビビるなんて他の女神に知られたら、思いっきり笑われるんじゃないですか。」
「まあ、ちょっと怯えすぎたかもね。もし、元の世界に戻った時は、お化け屋敷にビビったなんて、他の神たちに言わないでね。」
「………もしかして、この家をお化け屋敷と思ってビビっていたのですか。あと、お化け屋敷が苦手なんですか。」
「うるさいわね、ダン。もし、それ以上この話をしたら、いろいろやってやるから。」
いろいろやってやるって、何というアバウトな脅迫、でも調子を取り戻しつつあるようだ。
「じゃ一つ調査開始といきますか。」
俺はそう言って、この家に乗り込んだ。
外観は、異常なし。
「しかし、やっぱそれなりに荒れてますね。庭も、それなりに草茂っていますし。」
「そうね、あと何ヶ所か、出入り口の扉が傷んでるわね。それに、木がこんなに生い茂って、屋根近くまで伸びているわね。」
「ええ、この木にしがみついて、うまく枝をつたえば、屋根近くに侵入できそうですね。」
「ねえ、これは何かしら。」
メムが、半ば埋もれた物を見つけ出す。楕円形に獣の歯みたいなものがところどころ、顔を見せている。
「ああ、それは触らない方がいいですね。たぶん、足を思いっきり挟んで動けなくする罠です。」
俺はそう言って、ショートソードを抜き、楕円形の中心部分を叩く。そうすると、口を閉じるように、罠がガシャリと動く。
「こうやって足を挟むのです。前世だとこんなタイプの罠は、勝手に設置すると法律違反だったとことは覚えているのですが。」
「ふーん。でも誰かが設置した、ということは事実のようね。」
「少なくとも、持ち主じゃないでしょう。持ち主が設置したなら、この住まいを見に行く部下に、設置した話はしますから。」
「ふんふん、じゃこれもそうね。」
そう言って、庭の中央に残り5つの同様の罠の設置を見つけ出した。
これは、何かあるな。
「とりあえず、庭の罠は後でどうするか考えるとして、中に入ってみましょう。」
家の中に入って、ゆっくりと廊下を進みつつ、
「異常はないようね。」
メムの言を信じて、部屋を一つづつ開けては、各部屋の中を見ていく。まずは一階の玄関、台所、お手洗い、食堂、応接室、浴室、洗濯場、押入れ、娯楽室。
「すごいわね、お手洗いが二つもあるのね。娯楽室まで。家財道具は一切ないのね。」
「まあ、誰も住んでいないですから。しかし、一階だけに水回りの機能を集中させているのですかね。」
「あと、家が傷んでいるのかしら。床の音が、ところどころ違うのよね。」
「へえ、なるほど、そう言われてみると。」
階段を登り、二階へ向かう。
「階段も傷んでいるのでしょうか、何か上る時の感覚がフニャッとしているというか。」
「そうね、階段の構造がおかしくなっているのかしら。」
そう言いながら階段を上がり、二階の各部屋を見て回る。寝室、寝室、寝室、お手洗い、お手洗い、寝室、寝室、寝室、押し入れ、客用寝室。
「客用寝室には、お手洗いに浴室がついているのですね。」
「なるほど、立派なものね。」
メムもこの家の作りには関心を持っているようだ。
「でも、変ですよね。」
俺は、なぜか床に落ちている携帯食糧の包装紙を見つける。
「あやかしは携帯食糧なんて食べないでしょうし、怪我した方は、家を見るのに食糧なんて持って行かなかったという話ですから。」
「じゃあ、この住まいに誰かが侵入して、住み着いている、ってこと。でも鍵はかかっているし、家が傷んでいるとはいえセキュリティに穴があるなんて。」
「多分、見落としがあったか、意外なことが起こったか、ですね。」
俺はそう言って、メムを寝室に連れて行き、
「多分、この配置だと、ここの窓がそれに当たるのじゃないかと。」
そう言いながら窓を開ける。
空いた窓の前には、大きな木の枝が。
「考えられるのは、木を伝ってこの家に侵入したのではということです。」
「ああ、あの木を登って、枝を伝って、屋根に乗ってこの窓から入り込んだ。でも、何か生活感が足りないというか、何というか。」
「一旦調査を終えて、組合本部に戻りましょう。イサドさんとも話をして、警備隊に行くことになるでしょう。」
「でも、あの住まいはいい感じだけど、掃除は大変そうね。」
「あやかしじゃなくて、ちょっとがっかりされていませんか。メム様。」
「………そんなことはないわよ。イサドさんには話をするのでしょ。」
「まあ、話をして、昼食をとってから、イサドさんと警備隊に行くことになるでしょう。」
ということで、イサドさんとも話をして、昼食をとり、警備隊詰所に行き、再び件の住まいへ戻ってくる。そして、庭の茂みの深いところに紛れ込む。
(ねえ、夕刻だけど、もう直ぐ夜になるのよね。)
(ええ、念話術での対応、ありがとうございます。メム様。)
(ダンはここにいるのが、賊の類と思っているのね。ところで、夕食は。)
(この件を片付けた後ですよ。もうすぐ戻ってくるでしょう。)




