79弾 もう一度住まい探しをやり直そう
夕闇が辺りを包む頃、一人の男が庭に侵入して、庭の木をするすると登って木の枝伝いに、件の住まいの屋根にひらりと移り、二階の窓を開けて入っていく。
(さっさとは捕まえないのね。)
(複数いる可能性が大きいですから。全員が戻る頃合いがベストです。)
そうやって、張り込んでいるうちに一人、また一人、と木を登り枝を伝って件の住まいへと吸い込まれていく。
そうやって、合計8人が入っていくのを確認する。
(ねえ、まだなの。私お腹が空いちゃったわよ。)
(もう少ししたら、警備隊の隊員たちが突入準備をして、全員引っ括ってくれるまでの辛抱ですから。)
(ねえ、私もう空腹で、お腹がクークー鳴り出しそうよ。)
(そろそろですよ。ほら、動きがありました。)
警備隊の隊員たちが、正面への突入体制をとり、俺たちは、庭の木の下に待機する。ちなみに、庭にも警備隊の隊員たちが数名見張に立っている。
メムのお腹が、グーキュールーと音がする。それはきっかけかどうかは不明だが、同時に警備隊の隊員たちが件の住まいへ玄関から侵入し突入する。
中がけたたましくなり、罵声が飛び、ドタバタと大立ち回りが起きているようだ。
しかし、建物の様子が何か変だな。そう思っているところに、木を伝って逃げてくる奴が現れて、庭にいた警備隊員たちが捕まえにかかる。そちらに俺たちが加勢しようとした瞬間、
ドガバギィ、グシャ、メキッ
凄まじい音が響き、近所の住人が何事とばかりにこの住まいの前に集まってくる。
その音がした後、7人を引っ括って警備隊員たちが中から現れる。庭の警備隊員たちも1人捕らえる。
中に入っていた者たちは、皆捕まった奴も捕まえた警備隊員たちも何かしら軽く傷を負ったようだ。
「ダメだ、あの住まいは、使えなくなった。」
警備隊員の一人がそう言った。
件の住まいは、現場検証のために警備隊が管理することになった。俺たちは近くの警備詰所へ行って、ほぼ一晩、事情聴取を受けることになり、夕食抜きの夜を過ごした。メムはブーイングをたれていたが、当然、翌朝の朝食をたらふく平らげた。
当該の住まいは、庭の木の枝が伸びてしまったことで、木を伝って入れることを知ったコソ泥たちの巣窟になってしまい、おまけにこの住まいを、コソ泥たちは勝手に改造して、隠し扉だ、仕掛けの紐を引くと段差のなくなる特殊な階段にしたりしていた。
「まさか、泥棒の巣窟になるとは思いもしなかったです。ニシキ様に調査していただいて良かったのですが………。」
イサドさんがそう呟き、セイクさんと受付で難しい顔をする。
依頼の報告はあらかじめ前日に行い、イサドさんと話をして、警備隊に相談して警備隊員たちに張り込んでもらって、泥棒たちを捕縛できた。しかし、泥棒たちは、構造を考えずに改造をしたので、警備隊員たちが踏み込んだ時に床や壁や階段が崩壊してしまい、もはや住めなくなってしまったのだ。
「持ち主への補償をどう負担するかなのだが………。」
イサドさんの説明によると、王都にいる持ち主には、使いの者がもう出張っており説明の真っ最中だろうということだ。
「俺たちの住まい探しも、一からやり直しですね。」
俺も少しため息をつく。代金の5万クレジットは受け取ったが。
「でも、どうしてあの住まいに泥棒がいるとわかったのですか?。」
重い空気を変えるかのように、セイクさんが俺に聞いてくる。
「いや、携帯食糧の包装紙が落ちていたので確信しました。外側も木が大きくなって、登ってみたら枝をつたって窓から入れそうだったこともありましたし。」
「ふうん。でも普通は、包装紙一枚落ちていただけで、複数いるとは考えないですが。」
「いや、あやかしだ、変な人物がという目撃談が相次いだから、もしかして複数じゃないか、分担して包装紙とか処分しているのじゃないかと考えたのです。」
「ああ、なるほど。」
「一応依頼は、完了ですよね。」
「ええ、ただ。ニシキ様。」
「2人共気にしないでください。まあ、こっちで住まいについては何とか探してみます。」
俺はそう言って、一度寮に戻ることにした。
「ねえ、あのお家はどうなるのかしら。」
寮の部屋に戻ったメムが早速疑問をしめす。
「多分、持ち主に補償することにはなりますが、持ち主が修理するのか、壊して建て替えるのかによって変わってくるでしょうね。」
「まあ、そうなるか。でも私たちの住まいを探さないと、とはいえ振り出しに戻ってしまったわね。もうこうなったら、思い切って家を買うしかないのでは?。」
「あまり目立つ家は買いたくないですし、この街で今売りに出ている住まいがあればいいのですが。」
「やっぱり、街中を歩いて探しまわるしかないのじゃない。」
「まあ、しょうがないでしょう。ただ、買い食いは無しですよ。メム様。」
「えー、住まい探しの楽しみがー。」
釘を刺すと、メムが不満を表明する。
「まあ、探してみますか。」
そう言って、このイチノシティ内を方向別にエリアに分けて、数日住まい探しはしたものの、なかなか思うようなものは見つからなかった。
「どれも、なんていうか、帯に短し、たすきに長し、なのよね。」
「まあ柔らかく言えばそうですが、まあ高い住まいか、何かしら欠陥のある住まいですよね。」
俺たちが見てみた住まいは、高級な住まいでお値段も高級でお高いものか、それなりの値段でも玄関まで迷路のようになっていたり、本当に掘っ立て小屋レベルのものだったり。
「お金があっても、買えない住まいじゃねえ。ダンの貯金や配当金じゃまだ買えないのよね。」
「ええ、そんな高級な屋敷を買ったら目立ちますし、貯金が薄くなるから、メム様の食費を激減させなくてはいけなくなりますし。おまけに、この異世界には住宅ローンみたいなものはないですし。」
「え、別に私の食費を目の敵にしなくても……、で、ダン。それは何を作るの。」
「ええ、弾入れというか、魔弾入れを作ってみようかと。威力と属性別に魔弾をしまっておいて、いざという時に使い分けられるようにしようかと。」
「………住まい探しから逃避してるのね。」
「ええ、その通りです。まあ、ジタバタしても急に良物件は出てこないでしょうし。」
そう言いながら俺は、住まい探しの途中で購入した獣皮を、切り取り袋状にしていく。6発づつの魔弾を入れられるようにして、大きさ的には小さめの小袋を12袋作り、計72発分をベルトにつけるようにする。
「住まい探しもありますが、魔術の研究についても進めないと。大事なことですよ、メム様。」
「言ってることはまともだけど、この状況では………。」
メムは半ば呆れていたが、
「まあ、急にニョキニョキと住まいを売りますみたいな話が湧いてくる訳ではないし……。」
そう言って寝床に横になったが、急に起き上がって
「そうね、そうよ、まだこの街全体に行ってないのだから、まだ可能性はある!。」
「どっちにしても、気長に探し出すしかないでしょう。」
俺は作業をしながら、そう答えた。




