76弾 思わぬ結果に驚こう!?
「いや、ソロで、これを倒されるとは。いや、すごいです。」
「あのう、退避の方は?」
「ええ、なんとか退避して、助っ人を呼びに行ったのですが。まさか、倒してしまうとは全く思っていなかったのです。」
そういえば、ドラキャは一台か。
「ニシキ様を回収しようと思って、賊たちを退避させ、一度戻ってきたのですが。」
試験官はそう言いながら、俺を見て、
「装備は損傷を受けたようですね。」
そう言いながら、俺たちをドラキャに乗せて、しばらく待つと、慌てたように3台のドラキャがやって来た。
試験官が、一旦ドラキャを降り、その3台のドラキャに向けて指示を出し、わらわらと降りてきた人たちと、何か話をしている。
そして、俺たちは、前日に泊まった村へ向かって出発した。目隠しは無しで。
ただ、俺たちはドラキャ内で、うつらうつらしていたのは行きと変わらなかった。
結局、試験の話はないまま、村で過ごして、俺たちが倒したヤベアクゥアは、死体を運んで、村で解体することになった。どうやら聞くところによると、内臓の一部は薬の材料になるそうだ。
試験官たちは、頭を抱えながら何か話し合っていたようだった。そのまま、村で一晩過ごしてから、早朝に出立し、イチノシティの組合本部へ戻ることになった。
ドラキャは順調に走り、イチノシティに夕刻到着した。ドラキャ内で、俺もメムもうつらうつらしながらだったが。
「試験は、終了です。明日、結果について説明しますので、受付に朝の依頼分配が終わった後に来て下さい。」
試験官にそう言われた。彼らは、最後まで覆面を外すことはなかった。
翌日、言われたとおりの頃合いで、組合本部の受付に顔をだすと、セイクさんが硬い表情で、
「こちらに来ていただけますか。」
そう言って、今度は、冒険者ギルド長の部屋の前に連れてこられた。
セイクさんがドアをノックし、
「受験者を連れて来ました。」
と言うと、
「どうぞ。入って下さい。」
そう言われて俺たちは、冒険者ギルド長の部屋に入った。
「さあ、どうぞ、」
獣団強襲の際に前に出て説明した人だな。
部屋の構造的には、前に入ったことのある商業ギルド長の部屋と同じ感じであった。
「さあ、こちらに座ってくれたまえ。」
案内された先には、ソファーとテーブルのセットがあり、試験官たちがここでも覆面のまま座っていた。俺の左手側に冒険者ギルド長、相対する形で、試験官3人が座っている。
冒険者ギルド長は、中肉長身、金髪白肌の口髭を伸ばしたダンディそうな男。筋肉質で、タフそうなイメージだ。アメフトのクオーターバックが似合いそうだな、と思いながら席に着く。
「ニシキ・ダンです。呼び出しに応じ、こちらまで来ました。」
「うん、挨拶は初めてだったね。姓はロジャー、名はヤングだ。ご存知の通り、冒険者ギルド長をしている。今回来てもらったのは他でもない。ランクアップ試験の件でね。」
「そうですか。あれは試験中止になったようなのですが。」
「ああ、試験官たちから話は聞いている。だが、ある意味試験については合格だという意見もあってね。それで君と話をしてから判断しようと思って来てもらった。」
「口頭試験と解釈すればいいのですか?。」
「いや、そんな大仰なものではないよ。こちらが色々聞きたくてね。質問に答えてくれればいい。」
「わかりました。」
そう言って、メムに目をやると、部屋の隅で安らかな寝息を立てていた。
「さて、まず最初の質問だが、あの強獣、ヤベアクゥアが出た時、君は先に試験官たちと、賊たちを先に撤退させたが、その理由はあるかね。」
「うーん、本当は時間稼ぎというか、遅滞戦闘というか、俺とメムまで一緒に撤退したら、あのヤベアクゥアに追われる可能性が大きいと判断したからです。」
「ふむ。なるほど。試験は中止と言われたが、中止の考えはなかったのかね。」
「中止にしても何にしても、あの状況で考えられるのは、いかに全員無事に撤退するかだと。ただ、俺たちが時間を稼げば、ダメージを喰らって動けない賊たちはまあ、なんとか避難、撤退はできたでしょう。そこから状況に応じて俺たちが、うまく撤退できるか、倒し切るか、どうするかでしたので。」
「なぜ、試験官たちに賊たちを連れて行かせたのかね。」
「もちろん、俺たちは地理不案内だからです。俺たちは、目隠しされて、知らない場所に連れて行かれたわけですから。」
「どうかね、試験官諸君。この話を聞いている限り、不合格はないだろう。」
冒険者ギルド長が、試験官たちの方を向いて言う。
「そうですね、実力も確かですし、問題ないかと。」
「ええ、状況判断もなかなかいいと思います。」
「………うん、いいと思います。」
「じゃあ、全員賛成だな。」
冒険者ギルド長がそう言って俺の方を向く。
「ニシキ・ダン殿、合格だ。4級にランクアップだ。」
は、は、はあ。え、え、えええっ。
「えっと、4級ですか。3級じゃなくて。」
「ああ、そうだよ。」
あっさりと、冒険者ギルド長がうなずく。
「いいのですか。」
俺もあまりの展開に頭の中が整理できなくなってくる。
「あのレベルの強獣を倒した力、とっさの判断、機転。十分4級ランクだ。」
俺から見て一番左側の試験官も、
「まさかの強獣討伐ですから。しかもソロで。」
そう言って、後押しする。
「わかりました。しかし、そうなると、寮は出ることになりますが、即時ですか。」
俺が、懸念を伝えると、
「大丈夫、下宿先が見つかるまでは寮にいてもいい。ああ、あとこれを渡しておこう。」
そういうと、懐から、何か小袋に包んだものを出し、その中身を机に置く。
「これは、球体、いや歪な球体の綺麗な石ですね。何でしょう。」
俺が何かわからずに、その黒光りする石を見ながら聞いてみると、
「強獣以上を倒すと出てくる石、魔石だよ。これは君が倒したから君が持っておくといい。」
冒険者ギルド長は、そう言って、俺にその魔石を渡した。
俺はその石をカバンにしまい、疑問をひとつ尋ねてみる。
「試験会場で、あんなヤベアクゥアが出現することは、想定していなかったのでしょうか。」
左の試験官が答える。
「口外しないで欲しいが、要は、試験内容が予定していたもの以上になってしまったのだ。あの地域に強獣が出るとは思っていなかった。」
真ん中の試験官は、
「試験は、賊の捕縛のところまでは予定通りだった。あの強獣は予定外だった。ああ、試験内容の漏えいを防ぐため、これは口外しないで欲しい。」
と補足してくれた。
「まあ。全員無事でよかったです。一安心しました。」
俺がそう言うと、
「試験は、色々予定外になったが、合格、おめでとう。」
冒険者ギルド長がそう言ってこの話は終わりになった。
部屋を出て受付へ戻ると、セイクさんが
「合格おめでとうございます。まずは、下宿先などの住まいの捜索にあたって下さい。こちらでも紹介できるところを探してみますが………。」
と言われてしまった。続けて、
「冒険者ランク4級にランクアップしたのです。そろそろパーティメンバーも考えてくれればいいかと思います。」
とも言われてしまった。
「うーん、こう一気に上がってしまうと、実感はないのだが、いわゆるミドルランカーになったわけですね。」
俺がそう言うと、
「ええ、ミドルランカーです。あと、契約内容が変わりますので、住まいが決まれば、契約変更のことも出てきます。」
「ふー、何か大変だなあ。じゃあ、当分は住まい探しか。」
そう言って、一旦寮の部屋に戻ることにする。




