274弾 意外な見舞い客来るだろう
「大師匠、状態はいいのですか。」
「まあ、お前と違って早めに降参したからな。」
皮肉込みで言われている気もするが。
「そうですか、でもその割には顔に青タンとか残ったままですが。」
俺がそう言って返すと、
「ったく、口の減らない孫弟子だ。」
そう言って俺にヘッドロックを軽くかけてくる。でも妙に負けん気が強いままな気もするが。だからあんな皮肉が出たのかな。
「しかし、まさか10級ランクアップ試験に合格になるとはな………。」
ベットの横の椅子に腰掛けて、いきなりそんなことを言い出す。
「大師匠、いきなり孫弟子に愚痴ですか。それとも何か別の話でも。」
「ああ、言い方が悪かったか。正直言って直弟子たちとお前が合格するとは全く思っていなかったのでな。一回は失敗するかもしれないが精進させるために受験もさせればと考えていたのだが、ここまでやるとはな。」
そうか、セイクさんが『知り合いの師匠が弟子の成長を見込んで勧めるのだとも言っておられました。』とは言っていたがまさにそうだったのだな。少し納得する。
「確かに、ヘルバティアも、今回はあくまで記念受験と言ってましたし……。」
リーダーも組合本部長も同じ考えだったようである。
「で、だ。孫弟子よ、何か魔薬をやっているという事はないな。」
「まやく、ですか。……どんな物ですか。まさか、俺のいた世界と同じような言葉を聞きますが、それは持つだけで犯罪になるものですか。そんな物がこの異世界にも流通しているのでしょうか。だったらそいつは売る奴、作る奴、買う奴、全てを壊滅しちゃわないといけないですね。」
少し早口で確認してしまう。麻薬とか覚醒剤みたいな物だとしたら、それは危険すぎる物だ。医療用に厳しく管理してごく少数の生産にとどめておかなくてはならない。安易に入手なんてできるようになればいろいろ終わってしまう。
「……全く、少し落ち着け。まあそうだな、魔薬というのは、一時的にかつ大幅にヒューマーの能力を向上させることが可能な薬だ。服用すれば、3倍いや4倍くらいの能力を増幅するような薬だが、その後はその反動が凄まじく、まさに死んだように眠ることになる。そしてその能力増幅の記憶が忘れられなくなり、また服用する。そしてそれを繰り返し、体に帰って負荷がかかってしまって死に至る。」
うわー、この異世界トゥーアールでもそんな魔薬があるのか。響きも嫌だし。
「うーん、ふぅ、俺のいた世界にも覚醒剤とか麻薬とかアヘンとか言うような危険な薬がありまして。鎮痛剤とかの医療用に管理して少量使うのならいいのですが、依存性や異常な精神撹乱の作用などを持ち、生理的に問題のある生理作用を発生させるもので、闇市場で流通して、民がその闇市場で買い服用して、常習性にはまり異常行動をするようになり、下手をすれば見境なく人を殺したりしてしまう。恐ろしい代物です。そんな薬物には絶対手を出しちゃダメですから。なのでそんな反応をしてしまいました。」
俺は、違法薬物乱用の恐ろしさは理解していたつもりだったが、うまく説明できないのがもどかしい。
「……まあ、そんな話をするところからすると、魔薬については全く知らなそうだな。……いや、あの戦いの最中、急に変化があった感じだったのでな。」
大師匠は納得と理解をしてくれたようだ。
「その大師匠が言う、魔薬というのは一体どこで作られているのですか?。」
「多分、行くことになるだろう、ロストエリアだ。そこの何処かで生産されている。まあ冒険者ランク10級になったからな。研修で話はあるだろう。」
「もしかして冒険者ランク10級になれば、そのロストエリアについての話が。」
俺の中で一つの線が繋がったような感覚になる。
「まあ、そういうことだ。で、話がズレたな。要はお前とあの戦いの話をして確認したかったのさ。なぜお前が俺を倒せるようになったか。」
大師匠がそう言ってずいッと俺に顔を近づける。
「なぜお前が俺を倒せるようになったかって、すごいストレート過ぎな質問ですし……話しにくいところもありますが、いいですか?。」
「いいよ。話せる範囲で。」
俺も確認しながらの話になるが……。
「感覚が鋭くなったというか、正直に言えば、あの戦いの途中で意識が飛んでいたような感じなのです。」
「何っ、そうだったのか。いや、あの時か、うーん、その時か、……で、どの時だ?。」
今、なんかノリで言ってたのではないだろうか。
「……やっぱり話しずらいですね。」
冷静にそう言ってツッコミを入れてみると、
「ま、ま、そう言うな。今さっきは確かにちょっとボケてみたが。……もしかして、あの時だろう。あたいのアッパーを顎に喰らって、吹き飛んで壁に頭を打った後ぐらいか。今にして思えばだけど、起き上がってから変だった気はするな。」
大師匠には思い当たるところがあったようだ。
「ええ、そうです。かなり大師匠の攻撃に対処しきれなくて、1発喰らった感じで。その後、意識はあるようなないような、夢でもみてるような感覚でした。でも体は俺の思考に応えて動いたような感じです。」
俺がそう言うと、大師匠がうめきながら、
「うぅぅーん。そうだったのか。孫弟子の言う意識が飛んでた時は、野生的な感じは受けたし予想外に攻撃的だったからな。動きも攻撃も妙に研ぎ澄まされたというか。別人格が出たのかとも思ってしまったな。」
ああ、何か奇妙な気分である。
「一つこっちからも聞いていいですか。大師匠。」
「何だい。」
「その、意識が飛んでた時の俺の動きとか攻撃はどんな感じだったのですか?。もう少し細かく聞いてもいいですか。」
俺も自分の意識が別の感覚になって他人が俺の体を動かしていた感じなのが、どさくさ紛れに大師匠をボコった感じでイマイチすっきりはしないのだが。
「……うまく言えないのだが、もう終わったかと思ったところで急に蘇った感じだな、しかも野生的に。スピード、攻撃に余計な物がなくスマートに、かつスピーディになったと言えばいいかな。」
「なるほど、そうですか……。」
大師匠の回答でも妙に釈然としない感じはある。あとでメムとかに聞いてみるか。
「次は、こっちの質問にも答えてくれ。最後まで意識は飛んでいたまま戦っていたのか。それと、終わりに近づくにつれて、動きが異常なほど、より鋭くなってきた感じがあるのだが。」
「ずっと意識が飛んでたのではありませんでした。確か、………大師匠が片膝をついていたあたりで、意識が戻った感じになりました。」
俺が、意識が戻ったタイミングはいつだったかを思い出しながら答える。
「ふーん、そうか……。じゃあ動きが鋭くなったのは、一体何があった?。」
「……その時の感覚は、説明しづらいと言うのかなと表現していいのか………。」
予知視という言葉なんてないしなあ、先読みの究極系、ともちょっと違うし。
「申し訳ないです。その時の感覚が俺もよく分からないので、自分でしっかり分析してからの方がいいのかと。よろしいでしょうか、大師匠。」
俺がそう言って頭を下げると、
「まあ、いいさ。言えないものを無理に言う事はないだろうさ。あたいも話せる範囲でいいと言ったからな。それに魔薬はやっていないことも分かったし。」
大師匠はそう言って立ち上がる。
「じゃあ話はここまでということですか。」
「邪魔したな、孫弟子よ。少しは分かったこともあったしな。あーーーーっ、でもな。」
俺が話が終わりであることを確認すると、妙に悔しげな語尾を吐く。
「……もしかして、悔しさもあったとかですか?。」
「じゃあ、帰るぞ。ああ、最後に言っておく。全然、全然っ、悔しくなんてないからな。ああ、悔しくなんてないからな。」
そう捨て台詞を吐いて、そそくさと帰っていった。
大師匠はまるで負けず嫌いのガキみたいだった。その帰り際、引き際は何と言うか、みっともなかった……。




