272弾 なんとか勝ってしまっただろう
俺の本能がそうさせたのか、それとも別の何かか。これは夢か現か。意識はあるのだが体を違う誰かが動かしているようなそんな感覚。目の前にディマックが迫っている。
俺は死んだんだたっけか。この異世界トゥーアールにアイツのせいで転生する羽目になったのだったけか。なんで俺がこんな目に遭ってるんだ。やたら図体のデカい、妙に間抜けな猫と一緒にこの異世界を流れることになり、元に戻れないものか色々やってみて、3姉妹とパーティを組むことになり、おまけにその3姉妹の師匠に大師匠とか呼ぶことになり、挙げ句の果てがその大師匠とやらと戦闘するとはな。
一体どいつのせいなんだ。この理不尽さで無性に腹が立つ。
くそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっくそっ
くそったれーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!。
テメェかーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!。
妙に余裕ぶったディマックの顔を思い出す。
目の前に迫ったそのディマックの面に1発ぶっ叩いてやる。
喰らいやがれぇーーーーー!!!!!。
そうは思っても俺の思うようには体が動かない。
でも体が誰かの指示で俺の思念、想念に応えるような感じだ。
右拳を握りしめてヒョイっと右腕を下から斜め上に向けて動かしてくれる。
あ、アッパーカットだ。俺がそう思った瞬間、右拳がディマックの顎にヒットして……ディマックが吹っ飛んでいった。
ディマックが何か言っているようだ、何か言いながら起き上がってくる。そして決死の表情で左足でミドルキックを繰り出す。俺の思念を超えたように体が勝手に動き、ディマックの前に詰め寄り、蹴り出そうとする打点をずらすように前で左足を掴んでくれる。そのまま掴んだ左足を、今度は柔道の一本背負いのように担いで地面めがけて投げ捨て飛ばしてくれる。
あれ、これは夢か?。ディマックが飛びかかりジャンプしながら、これはスーパーマンパンチの体勢か。体が勝手にふらりとそれを躱して右足でディマックの着地を狙うようにミドルキックを打ち込んでくれる。壁際に寄ると後ろから大きな声が聞こえる………。
ハッとして目が覚めたような感じになる。
気がついてみると、ディマックが苦痛の表情で左の片膝を地面につけて俺を睨んでいる。
「ニシキさーーん!!。」
「こんな動きができるなんて。すごい!、すごい!。」
あっ、俺は今ランクアップ試験を受験していたのだったっけ。でも、あれ、ミアンとヘルバティアの声がするが、一体俺はどうしたのだろう。
それにいつの間にかディマックが片膝ついたままなのだけど。
動きを止めて状況を確認する。
ディマックが頭を左右に振って立ち上がる。
おお、俺はディマックを倒さなければならないのだった。もしかして、意識が飛んでいたのか。妙に生々しい夢を見てた気もするが……。
ディマックが蹴りを繰り出そうとする。横蹴りだ。……あれ、なんかこの感覚おかしいというか、何か変だ。でもその横蹴りをさっと躱す。ディマックを注視していると、次に何をしようとするか見えてしまう?。
???。
これってもしかして、どんな動きをするか、見えてしまっているのか。まさか先読み、いや、予言視みたいなことか?。
……まあいいや、これでやってみるか。
ディマックの表情が険しくなってくる。そして攻撃が次々と繰り出されるが、ああ、右ストレート、左アッパー、右ミドルキック、……ステップして左右に動き一旦間合いを取って、……ああ息を整えるのか……。
「おい、なんだ。孫弟子。何か変な魔道具でも使っているのか。」
「さあ………、よくわかりません。」
戸惑った感じでディマックが聞いてくるが、俺も本当によく分からない。
「まあボディチェックはしてるしな……。」
そう独り言を言う。あ、……この後フェイントをかけて一旦後退する気だ。じゃあフェイント直後に前に詰めてみるか。
ディマックが半歩前に出て左のハイキックを打つように見せかけて、バックステップで後退しようとするところを、それに付け込む要領で前に詰めると、ディマックの表情が焦りに変わる。
「おい、マジか。あたいは悪夢を見てるのか……。」
そう呟くディマック。
なんか楽しくなってきた。
相手は今度何をする気だろう。
ああ……、パンチのラッシュをかける気か、右ストレート、左フック、左ストレート、……ああ、その通りだ。次は右ミドルキック、その勢いで反時計回りに回転して、その隙を誘って左で裏拳か。……うん、これもその通りだ。
ディマックの表情が、先ほどよりもっと焦って恐怖感の混ざった表情に変わる。どの攻撃も俺に当たらなくなっているからな。
ふむ、今度は短杖を出すのか、じゃあこっちは1発、魔弾【豪岩弾】を抜き打ちできそうだな。杖を抜いた手の位置はそこか。じゃあ、こっちも。
スッと拳銃を出して、ああやっぱり、その手を目掛けて魔弾【豪岩弾】を1発だけぶっ放す。
ドシュ
バギャッ
鋭い岩の塊がディマックの短杖とそれを握った右手を吹っ飛ばす。
「降参だ、降参!。あたいの負けだ!!。」
右手を痛そうに左手で掴みながらディマックがそう言うと、
「それまで!!。」
立会人が第3戦の終了を告げた。
「第3戦、勝者、ニシキ・ダン。」
ディマックの大師匠が立会人のその宣言を聞いてその場に大の字で横になる。
俺もそれを見ながら一気に喰らったダメージとか何やかんやが出てきてしまい、腰が抜けたように崩れ落ちて、その場に、床に、大の字になってしまう。
「終わった…………。」
そう呟く。もう俺は動けない。それに腕とか体のあちこちが痛くなってきたしな……。
「ああ、大丈夫ですか。」
昇格試験場の管理役である警備隊の隊員が俺に駆け寄ってきて回復ポーションを飲ませてくれると、大分体調はマシになる。
ふとディマック、いや戦い終わったので大師匠だな、に目をやると大師匠も管理役である組合本部の職員に回復ポーションを渡されて飲んでいるが、担架で退場になるようだ。大師匠少し嫌そうだけどな。
「ニシキ殿も後で担架に乗って退場しますので。」
「はい、わかりました。」
管理役である警備隊の隊員にそう言われたので、俺も素直にうなずき返事をする。
第1戦、第2戦の戦いの終わった被推薦者の3人は昇格試験場からもう去っている。一方で、まだ残っている3姉妹とメムとバンナを見ると……、みんなが嬉しさのあまりおかしくなったようなのか、奇妙な踊りを踊っている。
立会人のリガダードさんは、大師匠と俺を一瞥してから試合場から引き上げた。
そして大師匠も担架に乗せられて試合場から退場した。
最後に俺が試合場から退場する。
メムたちと3姉妹のいる場所に担架に乗って一旦戻ると、
「んーーーーーー!!!。」
「ャーーーーーーーーー!!。」
「やたぁーーーーーーーーー!!。」
「おーーーーーーーーーーー!!。」
「飯ーーーーーーーーーーー!!。」
声にならない声で感情を表現しているみんなにパシパシ体を叩かれる。痛い、痛いって……。というか、飯って発言で喜びを表現してる奴は誰だろう……。
「おめでとうございます。これで冒険者10級ランクアップ試験に合格です。華束舞踏の皆さん。10級です。」
セイクさんがそう言って祝福してくれた。
「えっと、これで試験は終わりですよね……。」
俺がセイクさんに確認する。
「はい、そうです。では受付の方に戻りますので。ああ、ニシキさん、ヘルバティアさんは担架のままで。我々組合本部の手の者で運びますから。」
それを聞きながら、俺はそのまま寝落ちすることにした。
運ばれているのを感じながら、しばらく担架の上でうつらうつらしていると、
「さあ、起きてください。大丈夫ですか、立てますか。」
セイクさんの声がする。




