269弾 これが勝負の厳しさだろう
間合いを遠目にとって互いににらみ合う。そのままにらみ合ったままさらに数分が過ぎてから、ようやくジワリジワリと互いに反時計回りで試合場に円を描くような動きをしながら、間合いをゆっくりゆっくり詰めていく。
今のところはお互いに力量とかを推し量っているのだろうか。そして隙を見つけて一気にやり合うつもりなのか。
試合場をお互い2周ほどして最初の開始位置に近づいたところで両者が一気に動く。ヘルバティアの飛び膝蹴りが空を切り、ランポーはスライディングタックルが空振りに終わる。どうやら、ヘルバティアはカウンター気味にランポーの顔面に飛び膝蹴りを打ち込むつもりでいたようだ。一方ランポーはヘルバティアの足を狙ってのスライディングタックルか、足関節技を掛けに行ったようだ。しかし、2人ともすぐに相対して間合いを詰め、今度はパンチの応酬に変わる。
ジャブの差し合いから優位なポジションを取るべく、互いに足を使ってヒットアンドアウェイの戦法に切り替えたようだ。
俺なりにヘルバティアにアドバイスしたことが生きているだろうか。
3日前、組合本部の鍛錬場で稽古の後にヘルバティアがアドバイスを求めてきたのだ。
「ねえ、やっぱり私は魔法少女として戦うしかないのかしらね。今までの組み手の稽古でも結局ニシキさんに打たれてやられちゃうからね。」
「まあ、その体格じゃ真っ向勝負で打ち合うのは厳しいでしょう。ヘルバティアさんより大概体格は良い方ばかりですからね。」
「ムー、この体が憎いわ。この少女体型が嫌になっちゃうけど、ニシキさんはどう思うかしら。私の戦い方について。」
そう言われても、これは本人が自覚して考えてくれればいいのだけどな。
そう思ってしばし俺は無言になる。
「まあ、ダンなら面倒見がいいからね。私の必殺技の開発の時みたいに協力してくれるのじゃないかしら。」
考え込む俺の横合いからメムがヒョイと口を出してくる。
「メム様、そんなことを口出しされても。あの、そこでいきなり無言で土下座はやめてください。ヘルバティアさん。そんなプレッシャーのかけ方おかしいですよ。」
メムの一言でヘルバティアがアドバイスくれと無言でアピールしてくる。土下座という形で。
全くなんでも土下座すればいいってものじゃないけど……。とはいえ、
「もうもう、土下座はいいですから。はい、立ってください。」
ヘルバティアが立ち上がって期待を込めた目で俺を見つめる。
「実戦的な事を言えば、男性相手なら金的攻撃が一番でしょうけど……。イテッ。」
メムに猫パンチで突っ込まれる。
「そうかもしれないけど、もっといいアドバイスないの。」
「まあ、確かにそうですけど、金的攻撃は男性も予想はしているのじゃ……。」
ヘルバティアもイマイチなアドバイスという反応である。
「ほら見なさい、そんなアドバイスは役に立たないのよ。」
メムが予想通りという表情で俺に言ってくる。
「打撃戦が厳しいのなら極め技ではないですか。今更言っても、アドバイスにならないかもしれないですが。関節を極めて可動域外の別方向に力をかけて関節を壊すか、首を絞めて失神させる、絞殺するような感じになりますが、まあ害獣相手には無理はあります。」
「じゃあ具体的にやって見せてあげたら。」
メムが俺のアドバイスに口を挟んでくるので、この際とばかりにメムに思いっきり腕ひしぎ逆十字をかける。
「ギャニャー、ちょ、ちょっと。いきなり何すんのよ。」
「まあ、こんな感じですが、イテッ、イテテテ。」
メムに関節技をかけると、怒りのメムが牙を立てて足を噛みつきにくるので慌てて解く。
「ふーん、奇襲的な使い方なのね、極め技って。」
ヘルバティアが俺とメムの極め技の模範披露を見て、少し納得する。
「俺の解釈ですが、極め技は戦いの流れで奇襲的に使うのもありですが、戦略的に使うのもありかと思いますので。例えば打撃戦の流れと思わせておいて、実は極め技で相手を倒すとか。ただし極め技は安易に解かれると、後々警戒されてしまって使いにくくなりますし、極める以上はしっかり極め切ることが重要だと思います。」
「ああ、そう言われると。」
「ただ実際の戦闘で極め技を使えるかどうかとなると、魔術を使える状況ならそれが一番かと。あとは自分で考えることが重要でしょう。」
「ふーん、じゃあ、メムちゃーん。ちょっと私に協力してね。」
「ねえ、ダン。この流れはおかしいのじゃない。」
メムがヘルバティアに迫られて、悲鳴をあげる。
「まあまあ、何事も経験です。やってみるのが一番ですから。女神様が民の願いに応えるのは当然のことでしょうし。」
「ダン、普通は、こういうのは止めるんじゃないの。ギャニャー。」
ヘルバティアがあっさりとメムに俺がやってみせた腕ひしぎ逆十字をかける。
「こんな感じですか。メムちゃん、ごめんねぇ。」
「も、もういいでしょ。ヘルバティア……。ウ…ウウウウ。」
メムがヘルバティアに必死でタップする。
「奇襲的に使うにしても計算して戦略的に使うにしても、極め技の練習をして体で覚えるしかないですね。」
「今度はニシキさん、お願いします。」
付け焼き刃的かもしれないが、あのあと必死で極め技の練習をして、それにメムも結構巻き込まれたのだよなあ、と思い出しながらメムをチラリと見て、ヘルバティアの戦いを見守る。
パンチの撃ち合いからヘルバティアが蹴り技も少しずつ見せて主導権を渡さないようにしている。しかし、やはり体格差があるためにヘルバティアの方が間合いをうまく掴めなくなってきて、その上、打撃戦では相手のランポーに分があるためにヘルバティアが押され気味になってくる。
「スピードだとヘルバティアに分があるんだけどな……。」
俺が独り言を呟く。
(ねえ、回復ポーションは2回使えるのだったらどこかで使えないのかしら。)
念話術でメムが俺に問いかける。
(相手は体格差を活かして打撃戦で一気に倒してしまおうと考えていますからね。単純にヘルバティアにパンチ、キックで打撃を繰り出して回復の暇も与えないようにしていますからね。)
(そんな攻撃しまくっていたら、スタミナ面で相手が不利なのじゃないのかしら。)
(まあ相手もヘルバティアも分かっているのじゃないですか。その上で多分ヘルバティアが罠を仕掛けたとは思いますが。)
(え、でも罠って。いつ、どこでかしら?。)
(最初のお互い空振りになった時にヘルバティアが放った飛び膝蹴りです。)
念話術での会話だったが、驚いたのかメムが俺を見る。
(え、あれが……。)
(まあ、見てましょう。)
メムがもう一度試合に目をやった。
だんだんと打撃戦は相手が有利になってきたようで、ランポーがヘルバティアを壁際へじわじわと追い詰めにかかっている。
「ティア姉さん……。」
「これって不利になってきているのじゃ……。」
ミアンとミヤンが呟く。
「これはヘルバティアがもうあかんのとちゃいまっか……。」
バンナも不利と見ているようだ。
「いや、もしかして逆転の一手を狙っているか……。」
俺がそう呟いた瞬間、ヘルバティアがランポーの腕を掴み捕らえて飛びついて、見事な飛び三角絞めに入る。
「おおっ。」
「「ティア姉さん、すごい。」」
バンナがうなり、ミアンとミヤンが呟く。
「あとは一気に締め切れるかか……。」
俺の見立てはここからである。相手のランポーにこの状況でも力技に持っていかれれば、逆転の一手はついえることになる。
ランポーは強引に攻撃をする。締められた状態の腕ごとヘルバティアを壁に叩きつける。1回、2回、3回、4回。壁に鈍い音が響く。
「そこまでっ!!。」
立会人のリガダードさんがそう宣告して試合を止めた。
ヘルバティアの体がその宣告と同時にズルリと崩れ三角絞めがとけて床に転がる。
「ああっ、ティア姉さん。」
「そんな……。」
ミアンとミヤンが立ち上がりながらそう呟く。ヘルバティアは伸びてしまっていた。




