268弾 第1戦が始まるだろう
その場所は、中央に一辺15マータルほどの正方形の一枚岩で床が作られ、1マータルほどの高さのある壁で囲われた、これが試合場であろう。その試合場を囲う壁には各1箇所ずつ扉が取り付けられている。ここから誰かしら出入りするのだろう。さらにその周りに急な階段状になった形で観覧用の席があるが、大人数を入れられるような大きさではなかった。
(ダンの言った通りだわ。本当、地下格技場。これからこの戦いに、大きな賭け金が動きそうな感じよね。)
(メム様も賭けますか。)
(もちろん、私たちの勝ちに100万クレジット賭けてもいいわね。)
(ずいぶん余裕ですね。)
俺とメムが念話術でそんな会話をしていると、その向かいの観覧席に4人の白いフード付き外套を着て覆面をした者たちが現れる。
(やっば、やっぱり向こうの勝ちに100万クレジット賭ける方にするわ。)
(えらくあっさりな掌返しですね。)
メムが向かいの観覧席にいる4人にただならぬ雰囲気みたいなものを感じたのか、そんなことを念話術で言い出す。まあ確かに、俺もそれは感じるのでメムの掌返しにブーイングする気にもなれない。
3姉妹もそれなりに感じるものがあるのか、いい意味で緊張感を高めている。
「では、皆さん、くじ引きをお願いします。まずは戦う相手を決めます。」
いつの間にかセイクさんが白色のコインを4枚用意して盆の上に置いていた。
「このコインを各自1枚ずつ取ってください。」
そうセイクさんに言われて俺たちはコインを1枚ずつ取ると、
「あ、私の取ったコインには◎のマークね。」
とミアン。
「ミアン姉さんと同じ、◎のマークよ。」
とミヤン。
「私のは◯のマークがついているわね。」
とヘルバティア。
「俺のは、ああ、何のマークもないですね。」
俺が自分の取ったコインを見る。ただ白いだけのコインであった。
「はい。では、チャティーア・ミアン様、チャティーア・ミヤン様の2人がコンビ戦として戦ってもらいます。チャティーア・ヘルバティア様とニシキ・ダン様には個人戦として1対1で戦ってもらいます。」
セイクさんがそう宣言する。続けて、
「では次に、もう一度2人で、ヘルバティア様、ニシキ様が引いてください。戦う順番を決めます。」
1回目にくじ引きした際の敷布をとるとまた2枚の灰色のコインが出てくる。
「私が1、ニシキさんは?。」
「俺が3か。」
そう言いながらセイクさんにコインを見せる。
「はい、分かりました。では、最初はヘルバティア様、次にミアン様とミヤン様、最後はニシキ様の順で戦うことになります。取ったコインは持ったままでいて下さい。あとで立会人に渡しますので。」
俺たちはうなずく。
ふと気がつくと、組合本部の職員と警備隊の隊員が1人ずつ忙しくこの会場内を走り回っていた。セイクさんがその組合本部の職員の男に小声で何かささやき、それを受けて対戦相手の方へ向かって走っていく。
「セイクさん、今のあの方達は?。」
「この昇格試験場の管理役ですね。立会人のもとで進行と運営の手伝いとして参加します。」
なるほど、この会場は昇格試験場と言うのか。
そんな会話をしていると、背後から、
「少し失礼する。」
と声がして、俺たちも出入りした出入り口から長身で耳の大きめな橙色の髪の女性が現れる。ん、ん、何処かで見たことがある気もするが……、誰だったけ?。確か華燭の典の時に見かけたのだが、
「どうぞ、こちらです。ジューノシティ警備隊総隊長殿。試験立会人役よろしくお願いします。」
セイクさんがそう言って案内するのを聞いて思い出す。姓がリガダード、名はスカレット、ジューノシティ警備隊総隊長だ。
リガダードさんがセイクさんの案内を受けて試合場の中央に立つ。
「さて、今回の昇格試験にあたり自分が立会人を務めることになった。ジューノシティ警備隊総隊長リガダード・スカレットだ。受験者と非推薦者で互いに3戦を戦ってもらう。戦闘不能になるまで、もしくは立会人の自分の判断で戦闘不能と判断されるまでの戦いになる。殺害は禁止だ。回復ポーションは2つまで使用可とする。では方式をくじで決める。」
リガダードさんがそう言うのを聞いて俺は少し首を傾げる。方式をくじで決めるとは?。
「では1戦目、この方式だ。」
そう言いながら封筒を3つ懐から出して、そのうちの1つの封を切り紙を出す。
「1戦目、魔術禁止方式で行う。」
何だろう、それは。そう疑問に思う俺を気にもせずに、リガダードさんは、また1つの封を切り紙を出す。
「2戦目、魔術使用而已方式で行う。」
そう言って最後の封を切り紙を出す。
「3戦目、総合戦方式で行う。」
そう立会人は言うが、俺はくじで決めたその方式がよくわからない。
「1戦目は格闘だけで戦うということです。魔法は一切使っちゃダメなのです。」
疑問符が満載の表情をした俺に、ミアンが説明してくれる。
「じゃあ、2戦目は1戦目と逆に。」
「はい、魔法しか使えないということです。」
「3戦目はの総合戦とはもしかして……。」
「ええ、魔法と格闘全て使用して戦っていいということです。」
ミアンとの会話で俺は『方式』の意味をようやく理解する。
「では、第1戦。受験者、チャティーア・ヘルバティア、こちらへ。対戦者ランポー・アールイス、こちらへ。」
立会人がそう言うのを聞いて、セイクさんが驚きの表情を見せながら、
「え、そんな。まさか、いきなり『新人の番人役』の異名を持つあの人が来るなんて……。」
と呟くのを耳にする。
「そんなに大物ですか?。セイクさん。」
「ああ、失礼しました。ニシキ様は聞いたことはないようですね。」
「まあ強そうなのだなとは思いますが。」
そうセイクさんと話すると、
「噂でしか聞いたことはないけど、10級のトップランカーとして長期間君臨する凄腕冒険者なのは事実ね。」
とミヤンが会話に加わる。
「ティア姉さん、無茶はしないでね。」
ミアンがヘルバティアにそう言うと、
「まあ、やれることをやってくるわ。」
そう言って試合場へ向かう。
「ところで、ランポー・アールイス氏はどんなタイプの冒険者で、戦闘スタイルはどんな感じなのですか。」
「長剣と魔法を器用に操る魔法剣士として超一級の腕を誇る。でもそれに加えてこれといった弱点が無い。火属性、風属性の魔法と剣術を組み合わせて相手を倒していく。今回の方式が格闘だけの限定方式でも甘くは見れない。というところかしら。」
ミアンの説明を受けた俺は息を呑む。
「うーん、そりゃ、ごっつう強いということでんな。」
バンナがそう呟く。
相手が覆面を外し外套を脱ぐ。中肉中背で刈り上げた薄黄緑色の髪を真ん中で分け、口ひげとあごひげを蓄えたダンディーな金持ちな中年のおじさん、という風貌か。なるほど鍛えられていて無駄な贅肉はついていない。体格からいけば、圧倒的に相手が有利か、年齢と見た目の若さなら圧倒的にヘルバティアが有利だろうけど。
両者が試合場の真ん中に立つ。目を逸らし下を見つめるランポー。その表情を見つめるヘルバティア。
「第1戦、この戦いは魔術禁止方式で行う。では確認する。」
そう言って、立会人のリガダードさんはボディチェックを行う。ボディチェックを終えて異常がないことを確認後、
「よしっ、……初めっ!。」
開始の声をかけた。その瞬間両者は一気にジャンプして後に下がり、間合いを遠目にとって互いににらみ合う。そのままにらみ合ったまま数分が過ぎていく。
「え、動かないの?。それとも動けないの?。」
ミヤンがそう呟く。
「これは、互いに頭の中でどういう風に戦うかをイメージし合ってるのね。」
ミアンがミアンに自分の分析を示す。メムもバンナも黙って固唾を飲んでこの戦いを見つめている。




