267弾 直前調整、きっちりしとこう
翌日から、まず3姉妹を一人ずつ相手に俺が稽古台として素手格闘での稽古を組合本部の稽古場を借り切って行う。その翌日は3姉妹を一人ずつ相手にメムが稽古台となって素手格闘での稽古を昨日同様に行う。3日目は俺とヘルバティア、ミアンとミヤンで2対2で要はダッグマッチみたいな戦い方をして稽古をする。4日目は俺とミアン、ヘルバティアとミヤンの組み合わせで、5日目は俺とミヤン、ヘルバティアとミアンの組み合わせで3日目と同様の稽古を行う。
「ふぅ、いい稽古になりましたね。」
組合本部の稽古場でアザが多少残りながらもヘルバティアが満足気かつ充実感に溢れた様子で言うと、ミアンもミヤンもうなずいて長姉と同じように満足感と充実感を放散している。
「しかしまあ、回復ポーションを使うにしても、荒々しい稽古でんなあ。」
バンナはそう呟く。まあ、この5日間は激しく殴り合ったようなものだからな。
そこへ稽古場の扉がノックされて、
「入っていいでしょうか。セイクです。」
「どうぞ、入っていいですよ。」
ヘルバティアが入室を許可すると、扉が開き、セイクさんが顔をみせる。
「かなり稽古されていたのですね。……ああ、少し予定より遅れるかもしれませんが、被推薦者が揃いましたので、明日を含めて3日後に、ランクアップ試験の組合本部長及び警備隊総隊長の推薦する者と戦闘を行います。取り急ぎそれをお知らせいたします。」
「誰と何処で戦うとかは?。」
すぐ俺が質問するが、
「それは当日まで秘密ですので。悪しからず。」
そうセイクさんに返される。
「そうなんです。当日まで不明ですから。これで、このランクアップ試験の難易度が高いことがわかるでしょう。」
ミアンがそう言って俺に教えてくれる。
「あとは運だからね。」
ヘルバティアがそう言ってくるので、
「運?、ですか。」
「ええ、対戦相手との組み合わせとかは当日にくじを引いて決まるのです。」
俺が少し驚きながら言うとミヤンがくじ引きで決まるということを教えてくれる。
なるほど、こりゃしっかりしてる。勝てそうな相手だとしても組み合わせに恵まれないと勝てないし、しかし、運の要素も難易度が高いのか……。
「前にも説明しましたが、パーティメンバーが4人と言うことになりますので、3試合を戦って先に2試合を勝つとクリアになります。今言えるのはこの条件だけです。」
セイクさんがそう言ってくれる。
「3試合ということは、1試合は2対2のコンビ戦、あと2試合は1対1でということですね。」
俺が再確認すると、
「ええ、そうなります。ではこれにて失礼します。」
セイクさんはそう言って稽古場から去っていく。
「じゃあ、コンディションを整えなくちゃね。」
ヘルバティアがそう言って皆に帰宅を促す。3姉妹の間に張り詰めた空気が流れ出す。
俺もヘルバティアたちと一緒に帰宅の途につく。
帰宅してから夕食を終えて、入浴を終えて自部屋で寝る準備をしていると、
「何か緊張しすぎていないかしら。皆口数が減ったわよね。」
メムがそう言い出す。
「まあ、そうでしょう。コンディションを整えて明々後日の試験に備えているのでしょう。」
俺がそう言うと、
「ミヤンはんもミアンさんもウチ一緒に入浴してたけど、えらく物静かというか……。」
バンナも口数が減ったことを気にしているようである。
「ここは何かリラックスさせた方がいいのかしらね。」
メムが気を使ってかそう言うが、
「ニシキはん。もしかしてここまで来たら、リラックスも難しいとか思ってはるのでっか?。」
バンナがそう言って俺を見る。
「まあ、なるようになるでしょう。バンナ様の言う通りです。今から緊張しないように3姉妹の気持ちを一時ほぐしたところで、あとは本人次第ですから。」
「何か冷たい気もするけど……。」
疑問の眼差しで俺を見るメム。
「まあいつも通り、ですよ。緊張しないようにするため、といって無理やり緊張をほぐそうとしてもかえって逆効果でしょう。メム様の気持ちは十分わかりますが、どうせ試験になれば緊張しますから。」
俺がそう言うと、
「へえ、じゃあダンもそうなるのかしら。」
「ええ、そうなるかも知れません。」
メムが疑問の眼差しのまま俺に尋ねてくるので即返答する。
「……まあ、いいわよ。じゃあ気にせずにいつも通りね。」
「ウチもそうさせてもらいまっさ。」
俺の返答で納得し切ったわけではなさそうだが、メムもバンナも俺の考えに従ってみる気にはなったようである。
俺も稽古で受けたダメージからの回復とか回復ポーションの準備とか軽鎧の整備と修理とか拳銃の手入れとかをしながら淡々とその日が来るまで過ごすことにする。どうやら、3姉妹も俺と同様の境地に至ったのか、いつも通りの日々を過ごすようにしている。そうして3日がたちその日がやってくる。
組合本部に向かうと、かなり緊張した面持ちのセイクさんが玄関に待ち構えていて、俺たちを受付の窓口まで誘導する。
「どうですか。準備等はバッチリでしゅか?。」
セイクさん、声が緊張でかなり上ずっているし噛んじゃったし。
「いやいや、セイクさん。あなたがこのランクアップ試験受けるわけじゃないので、落ち着かれた方がいいかと思いますが……。」
「いや、こんな事は滅多にないものでしゅから。ええ、久々に10級ランクアップ試験に合格する瞬間に立ち会えるかも知れにゃいと思うと……。」
俺のツッコミでもセイクさんは緊張の色を抑えられないようである。しかもよく噛むし。まあおかげで、華束舞踏の面々は緊張せずに済んでいるようだ。何処かで聞いたが、緊張しまくっている人間を見ると、かえって緊張がほぐれる場合があるという。そんな話が今の状況にぴったりなのかも知れない。
「ふぅ、いつでもいいです。行きましょう。組合本部長及び警備隊総隊長の推薦する者と戦闘、お願いします。」
ヘルバティアが気負わず淡々とセイクさんにそう言って立ち上がる。
「でぇわ、こちらにどうぞ。」
セイクさんは緊張したままのようで、また少し噛んで言っている。そして俺たちはセイクさんの誘導で、階段を降りることになった。
「ここって、全く知らないところですね。」
ミアンがキョロキョロしながら階段を下っていく。
「本当にこんな場所が隠されていたのか。最初は鍛錬場の近くにあるのかと思っていたが。」
ミヤンもミアンと同様にしながら階段を下っていく。
最初は鍛錬場の方角に連れて行かれたのだが、鍛錬場の奥の倉庫らしきところに階段の入り口が布で覆われていたのをくぐって、階段を降り出したのだからミヤンがそう言うのも無理はない。
降りているる階段は明るい目の手灯がくり抜かれた壁に嵌め込んであり、階段の上り下りには不便は感じないようにできている。
(ダン、私たち、これから何処にいくのかしら。)
(もしかすると地下格技場みたいなアングラなところだったりするかもしれません。)
(ずいぶん余裕ね……。)
メムと念話術で会話しながら、かなり階段を下って行っている。踊り場を5つほど通過したか。
と思ったところで階段を下っているとそこは行き止まりになっていた。と俺がそう思ったのも束の間、セイクさんが鍵をその壁に空いた小さな穴に差し込む。行き止まりのように見えて隠し扉が仕込んであるようだった。カチリと音がして隠し扉が上に引き上げられる。そのまま少し進むと、ドアが見えそこを開く。中に入ると本当に何かの格技場ぽいものがそこに現れた。
「さあ、到着しました。ここで、冒険者ランク10級への昇格試験、警備隊総隊長と組合本部長の推薦する者と戦ってもらう場所になります。」
セイクさんの声が響くその場所は静粛であった。空気はヒンヤリとしている。




