265弾 この精神修行はダメだろう?
メムに言われるままなのは少々腹立たしいし、俺もなんの抵抗もなく突き飛ばされるままでいるのは嫌なのでささやかに抵抗はしてみようと思う。
メムが突き飛ばす気配を察知して身をかわすか、カウンターで一撃浴びせるかだな。まあ、俺がそう考えている時点で、もはや修行の目的が変わってしまっている気がする……。
とそこに、早速気配を感じたので
「集中。」
と呟き、振り返ると、メムが頭突きをかますべく突進するところが目に入り、振り返った勢いのまま素早く身をかわすと、頭突きが空振りして、
「クソーーーーー。」
と言いながら落ちていった。
バンナが慌ててメムを追跡して拾い上げたようだ。
「ふふん。」
俺がそう鼻で笑っているとバンナの背に乗ってメムが舞い戻って来る。
「ダン、残念だけど私は落ちてもこのグランドキャットの体、バランス感覚は超一流なのよ。この程度の高さなら体を捻りながら見事に着地可能だからね。」
そう言って闘志を燃やし出す。
ということで、再度俺は座禅を組みメムが俺を突き飛ばすべく、ウロウロし出す。
しばらくしてから、気配を感じ
「集中。」
呟いて、振り返ると背後からメムが突進してきた、しかし、一瞬で視界から消える。フェイントか。俺の左手側から頭突きを喰らわそうとしてくる。
ええい、カウンターだ。左拳を素早く伸ばしてメムの顔面を狙い打つ。
ドス、左拳がメムの顔面に命中してしまう。しかしイマイチの打撃だからかダメージは与えられなかったようだ。
「むう、やるわね。」
俺は中央部分に移動すべくゆっくりステップを踏みながら、じわりじわりと動くが、メムもそれはお見通しとばかりに足元目掛けて爪斬撃で攻撃を仕掛ける。こっちも軽くジャンプするが、メムの攻撃はフェイントだった。俺の胸に狙いをつけて頭突きを放つ。
「しまった。」
俺は思わず呟く。
今度は俺が落とされる番か、くそー。そう思いながら意地になってメムの尻尾を掴んでしまう。
「ギャニャーーー。」
悲鳴をあげたメムと俺は抱き合って一緒に落ちる。
そこへ、バンナが俺を前足で掴み、ゆっくり地上に降ろしてくれる。
「ニシキはん、メムはん。これ完全に趣旨変わっとりますで。こんなことをしとったら、ウチはもうこれ以上、体力が持つ気がしまへん。終わりまひょ。帰りまひょ。」
バンナに呆れ果てたように言われて、俺とメムはこの修行は失敗したことを悟った。
修行を中止して、バンナに乗せられてイチノシティの街の付近に戻って、バンナに昼食も兼ねて20食分の携帯食糧を与えて元の節約モード体型に戻す。
俺とメムは裏門を通って組合本部に向かい、そこで昼食にする。
バンナの冷たい視線を浴びながら、
「やっぱり難しいわね。ダンの修行は……。」
「このやり方は何か違ったということですね……。」
と温かな昼定食を食べつつ互いにボヤくのであった。
「いや、メムはんがニシキはんを突き飛ばすなんてことしなけりゃええだけじゃ……。」
とバンナが呟くのを傍に置いて。
ゆっくりと帰ってくるが中途半端な時間になり、下宿先に戻ると、こっそり俺とメムは自部屋に戻ろうとする。しかし、3姉妹にあっさり見つかる。
「あら、随分早いようですが。」
とヘルバティアが聞いてくる。
「修行の成果はどうでしたか。」
ミアンがそう尋ね、
「もしかして、何か問題でも。」
とミヤンがニヤリとしながら言う。
「いえいえ、ちょっと思うところがありまして、修行を中断しました。」
俺がそう言って言い逃れをする。正直バツが悪い。
自部屋に戻って、開口一番、バンナが
「今度また、本当にあないなことやるんやったら、ウチにも限度がおますさかいに。」
と苦情を出す。
「まあ、もう少し考えないとダメでしょうね。」
と俺が呟くと、
「何よ、私が悪いというの。ダンがあんなことしなければ良いのよ。」
メムが逆に怒り出す。
「いやいや、そもそも真面目な顔で修行の協力はいいのですが、何も突き飛ばして落としてみるなんて。大怪我したらどうするつもりだったのですか。」
俺が怒れるメムにそう問い詰めると、
「まあ、バンナがいるし、ダンが落ちたらバンナなら何とか落ちても安全装置になるかと、思ったのよ。」
「いや、メムはん。用心のためウチはニシキはんが落ちた時は怪我せんように掴んでくれ、としか聞いてまへんけど。メムはんがニシキはんを突き飛ばすなんてこと、これっぽっちも知りまへんでしたけどな。」
メムはきっちり説明をしてなかったようだ。
「……いや、それは、あまり説明し過ぎると、……ダンの修行にならないと考えたのよ。」
形勢があっという間に変わり、怒れるメムは完全に劣勢となる。
「じゃあ、こんな事になるとは予想してなかったということかいな。そんな事あらへんやろ。あんないきなり突き飛ばすなんて修行にしたら、後々こうなるんは十分わかってたはずや。」
「あーもー。うるさいわね。じゃあちょっとはダンの修行になるようなことを、あんたも考えてみなさいよ。批判だけするのは誰でもできるのよ。」
空気がだんだんギスギスしてくる。
「ああん、批判されるようなもん考えるしか能のないクソグランドキャットが何吐かしてけつかる!。ニシキはんが何も言わんからってつけあがっとるんとちゃうんかい。」
「何偉そうに新参者が。ダンの相棒として長い付き合いのこの女神に対して、新参者が偉そうに言ってんじゃないわよ。」
「何が女神じゃ。前から言おうと思ってたのやけど、女神という割にはやってることも言ってることも無茶苦茶やないかい。」
「ムキー!!、言っちゃいけないこと言ったわね。ダン、やっぱりこの子、どっかに捨ててしまいましょう。足に思いっきり重しをくくり付けて、ドブ川に投げ込んじゃえ。」
さすがにもうこれは止めた方がいいだろう。ボルテージも上がってきてしまって声も大きくなる。
「はいはい、両者抑えてください。」
俺がメムとバンナの口論となりつつある状況を止めに入る。
「メム様もバンナ様も。メム様は俺のためにこういう修行を考えてくれたのですよね。考えてくれてありがとうございます。でも問題点も出たわけですので、改良の余地はあるのじゃないですか。バンナ様もしっかり意見や疑問点を示してくれてありがとうございます。メム様もバンナ様も俺にとっては大事な相棒ですから。そんな争わないでくださいよ。お願いしますから。」
俺はそう言ってメムとバンナに頭を深々と下げる。
ふぅ、これで収まってくれれば御の字だな。そう思っているところへ、自部屋のドアが開き、
「話は聞いたわ。聞いた限りメムちゃんは悪くないわよ。」
ヘルバティアがそう言いながら自部屋に乱入してくる。
続いてミヤンも
「ティア姉さんは一方的すぎよ。バンナちゃんは悪くないわよ。」
と言いながら自部屋に乱入する。
おいー、話をややこしくするなー。せっかくなんとか納めにかかっている俺の立場は……。
「そうでしょう、そうでしょう。ヘルバティアはいいこと言うわ。」
メムがヘルバティアの発言にのっかる。
「ふん、誰かの助けがないと何もできひんのか。ミヤンはんの言う通りやろ。」
バンナがミヤンの発言にのっかる。
「ちょっと、2人とも。もうやめなさい。何してるのよ。」
ミアンが止めに入ってくれるが、もう遅い。
「どうせコンビ戦もやるかもしれないから、メムちゃんと一緒にミヤンとバンナを相手するわよ。稽古台としてまあ最適でしょうからね。」
「何、ティア姉さんやるの。本気のバンナと私が組んだら無様に稽古台となるのはそっちでしょ。思い知らせてやるわ。」
益獣と姉妹のタッグマッチに発展となる。
「というか、3人とも部屋の外で聞き耳立ててたとか……?。」
「すみません、すみません。ティア姉さんもミヤンも声が聞こえてきたので『ただならぬ様子よね。』と言いながら部屋の外で聞き耳を立て出しまして。止めたのですが……。」
ミアンがそう言って俺に深々と頭を下げる。
「じゃあ、私はメムちゃんとダッグ組むから、ミヤン覚悟なさい。」
「ふん、長姉だからって偉そうに、バンナとのコンビでぶちのめしてやるから。」
完全にタッグマッチが成立する勢い、どこぞのプロレス団体の興行のようだ。
「まあ、タッグ組む相手のいないミアン姉さんがレフリーでもやってればいいから。」
ミヤンの一言でミアンもムッとする。そして、
「いいわよ、私は、このニシキさんとタッグ組むから、2人とも覚悟なさい。」
えー、いや、おいー、俺を巻き込むなー。




