264弾 精神修行をやってみよう
結局は、昼食後から各自で訓練をすることになったので、昼食後3姉妹は組合本部の鍛錬室へ向かい、俺は留守番をしながら魔術研究ということで、ヘビースネークとの戦闘とかで使用した魔弾の補填のためにコツコツと製作をする。
結局何やかんやで48発は使ってしまったからな。
あとは自部屋内で自己負荷トレーニング、簡単に言えば腕立て伏せとシットアップを50回ずつやり、筋肉の乗り具合を全身を見れる姿見で確認する。
「10代の体だと筋肉もきっちりつくでしょ。」
メムがそう言いながら俺の足元によってくる。
「まあ、ええ仕上がり具合になるとよろしいのですが。」
自部屋内をふわふわ飛びながらバンナが俺の体をあちこち見て言う。
「まあ筋肉だけで戦って勝てたら楽なのかもしれませんが、そんなこともないですからね。」
あのファイティングエイプのゴルドやチャンプを思い出しながら、体を拭く。フィジカル面のパワーだけで圧倒できればいいがいろいろ課題はあるし。元の世界に戻るにもまだわからないことだらけ、そんな間に冒険者ランク10級のランクアップ試験を受ける。
「メム様。一つもう一度確認したいのですが、地球では死んだ後、あの転生装置に入れられて赤ん坊に生まれ変わる、前の記憶はリセットされる、ということで間違いないのですよね。」
「ええ、そうよ。何故にまたそんなことを確認するのかしら。」
そう答えながら、メムは俺がいきなりそんな確認をしてきたことに怪訝な表情をする。
「いや、本当にちょっとした確認ですから。」
やっぱり地球での記憶が残っているのがいいのか悪いのかは何とも言えないが、元の世界に戻って転生装置によって地球にて生まれ変わりたいな、と思う。でもその部分は言いにくいので、当たり障りのない答え方になる。
「やっぱりダンは元の世界に戻りたいのよね。」
「ええ、そうですよ。メム様もでしょう。」
「まあ、そうなのだけど……。」
何かメムの答えが妙に冴えないのは気のせいか。
「ウチはその世界に連れてってもらえるんやろか。」
バンナがそう呟くのを俺は耳にして、
「バンナ様のお仲間がいない世界かもしれないですよ。」
俺がすかさずそう言うと、
「うーん。それは、……そうか。」
「まあこればっかりわね。私とダンはこの世界にイレギュラーで来たようなものだから。」
メムがそう言って少し落ち込んだようなバンナを慰める。珍しいことだ。
「でも警備隊総隊長や組合本部長から推薦される相手ってどんな者たちかしらね。」
メムが誰ともなしに聞いてくるが、それは流石に分からない。
「まあ、強そうな奴が推薦されるのだろうと思いますが。」
「そんなん、ニシキはんなら一発KOや。」
励ますつもりかバンナがそう言ってくる。まあ一発KOは多分無理があるが。
「ダンはどうするの。相手によるとは思うけど。」
「危なければ全力で……逃げるのも手かと。イテッ。」
「何ためてからしょうもないことを言ってるのよ。ここでボケはいらない。」
本音を言ったつもりだったが、メムに軽く猫パンチのツッコミを受ける。
「まあまあ、メムはんもニシキはんも。でも次の戦いまではあと10日は切ってますが、何ぞ鍛錬を続けることになるんでっか。」
バンナの指摘はもっともだ。ただ鍛錬というよりは、メムと組み手、バンナとも組み手をやってみて感覚を研ぎ澄ましておくか……。バンナを通常モード体型にして組み手をすれば、食費はかかるだろうが、今後のためにもいいかもしれないな。
そう考えていると、
「じゃあ、私もダンの鍛錬に協力するわ。バンナにも協力してもらうけどいいかしら。」
「そりゃ結構でっけどウチは何をするんで?。」
「まあ、明日教えるわよ。こういうのはもったい付けるのがいいのだから。」
一体メムは何か思いついたのか。どんな鍛錬をするのだろう。メムとバンナの会話だけからではまだ分からない。もしかして俺がさっき考えていたような組み手をするのかな。
「じゃあ明日、お土産をマーハ商店に届けてから、そのメム様の協力する鍛錬とやらをやってみますか。」
俺がそう言うとメムがニヤリとする。ここまで来たらメムの協力する鍛錬を信じるしかないか。
翌日、朝食を終えてヘルバティアたちには、メムの協力する鍛錬を行うことと、マーハ商店にお土産を届ける話をしてから、まずはマーハ商店へ向かう。アポなしで伺ったから、商店主のダホンさんには会えなかったが、後日手紙にてお礼をするとのことであった。土産は予定より多くなったが二本とも景気良く渡しておいた。
その後、メムに街の外へ出るように言われて、言われるがまま第1裏門を出て歩いていくと、
「じゃあここでいいかしらね。バンナ、通常モード体型に。」
昨夜あたりにバンナとヒソヒソ話はしていたようで、それで打ち合わせは済んでいるようだ。素直にバンナが通常モード体型になる。
ボワッ
白煙と共にホードラ並の大きさになるバンナ。
「はい、乗って乗って。」
メムに言われてバンナの背に乗る。メムが俺の後ろで器用にしがみつく。
「ほなら、行きまっせー。」
バンナがそう言ってバサリと羽ばたく。俺とメムが乗った状態だが軽々と浮き上がり、あっという間に飛行を開始して、ヒュワッと言う風切り音と共にどこかに着地する。
「ありがとう、バンナ。」
メムがそう言ってさっさと降りる。
「ああ、人の入れない断崖絶壁、みたいな感じですか。」
頂上部分が平たくなっているが、一辺5マータルほど広さで正方形のような形。端に近づくと切り立った崖の上であることがわかる。高さが7マータルほど、2階建ての家くらいの高さか。山の中にこんな地形があるとはな、まるでその断崖絶壁の部分が高さのある立方体を置いたかのようになっている。
「どうでっか。こういう場所でウチらは休憩したりして、敵やらめんどくさい奴らから身を守るようにしてまして。」
バンナが評価を求めてかそう聞いてくる。
「なるほど、ここで座禅を組んで精神修行するということですね。いい場所です。」
「どう、私が協力するという意味がわかったでしょ。」
俺が納得すると、メムもどうだと言わんばかりの表情でそう言ってくる。イチノシティの街からはまあまあ離れているからか静かでもある。しかもバンナの力でロッククライミングはやらなくてもいいわけか。
「よし、ここで座禅を組んでみて……。」
俺がそう言いながら座禅を組もうとすると、
「いやいや、そこでは組まないものよ。こっちよこっち。」
メムは別の場所に誘導する。
「へ、そこは端っこじゃないですか……。」
「こういうところで恐怖心と闘いながら座って精神修行すればいいのじゃない。より鍛えられるでしょ。」
「まあ、端っこで落ちないように景色を見ながら精神を鍛えるというのか、なるほど。メム様は考えていたのですか。」
メムの進めるままに断崖絶壁の端で少し恐怖感を味わいながら座禅を組む。いい修行になりそうだなあ。
そう思って座禅を組んだその時、メムがいきなり俺の背後から思いっ切り頭突きを喰らわせる。
「はあっ?、なんでぇぇぇぇぇぇぇ。」
あっという間に地面が接近する。
「集中。」
慌ててタイムマネジメントの能力を使うが、間に合わないか。と思ったら、落下が止まり、バンナが俺を前足で捕まえてくれる。そのまま羽ばたいて崖の上に戻してくれる。
「ちょっと、何するんですか!!。」
「こうやって突き飛ばされても、落ち着いて冷静さを保つ修行、如何かしら。ダンの求める修行になるでしょ。」
メムがそう言われて、俺は怒りが凍りついてしまう。メムがいたって真面目な様子でそう言っているのを見たら尚更反応に困ってしまう。
「まあダンの力なら、いきなり突き落とされても怪我しないように対処できるでしょうし、本当に危なければバンナがさっきのようにフォローするから。これぞ正に、獅子は我が子を千尋の谷に落とすという修行ね。」
メムが真面目にそう言ってくるが、
「いや、かなり危のうて危のうて。メムはん、これホンマにアカンやつじゃ。」
バンナがそうツッコミを入れるがそれをメムは無視する。
「さあ、私はいつダンを突き飛ばすか分からないからね。その間は座禅を組んでじっとそこにいればいいから。」
こんな危険極まりない、アホ丸出しな修行は聞いたことはない。他の人にこんなことしたらいろいろと大問題になりかねない気もするが。




