261弾 空路便には気をつけよう?
「まずは試験条件の2つクリアね。」
「一気にクリアできるとは思ってもいませんでした。」
「ここまできたら、記念受験にしなくてもいいのじゃないですか、ティア姉さん、ミアン姉さん。」
宿に戻っての夕食である。やはり3姉妹は意気軒昂となっている。先に戦いでの汚れを、特にメムの汚れを落としてから夕食という形にする。
「ニシキさんどうしたのですか。浮かない顔ですけど。」
ミアンが目ざとく冴えない表情の俺に聞いてくる。
「いえ、お土産のラキーテは実験依頼をこなしたと認めてくれて、無料でもらうことになったのはいいのですが、今後の試験のことを考えると……。」
「それはそうだけど、今はそのことは忘れて少しは気楽になりましょう。」
ヘルバティアがそう言って嬉しそうに笑う。
組合本部でランクアップ試験の条件、狂獣2体以上を退治とイダーゴンの葉を1人あたりで3カロガラム集めることのクリアを確認した後、俺はメムや3姉妹と一緒にスカバツ屋イヨイ商店の主人のハイシュさんにヘビースネークの退治が終わったことと、開いた口の中にラキーテを一気に注ぎ込むと奴が口を開けたままで、のたうち回り出したことを話すると、
「おお、そんな効果があったのですか。でそのあとは。」
「魔法で焼き払って倒しました。」
「なるほど、効果はあったのは本当なのかもしれませんな。伝説は多少歪められて伝えられるものですが、よく実験依頼をやってくれました。これをどうぞ。こんな早々とやってくれるとはありがたいのでもう一本どうぞ。」
ということで、土産用のラキーテを二本もらってしまったのだった。
「まあ土産ももらえたことだしね。」
「皆さんに呑ませる気はないですから。」
ミヤンがそう言って俺のカバンに目をやるが、俺はラキーテを皆で呑ませる気がないことをはっきりと告げる。
「でもそのカバンについては、部屋で話を聞きたいわね。」
ヘルバティアがそう言いながら夕食のスープを口に入れる。
「しかし、かなり入るわね。そのカバンは。」
「これが伝説ともいわれる別空間収納カバンか……。」
「でも、ニシキさんしか使えないのよね。」
ヘルバティア、ミアン、ミヤンが口々に感想を述べる。
宿の部屋でヘビースネークとの戦闘後に折れたヘビースネークの牙を収納しているところをミアンに見られて、宿に戻った後、皆の揃った状態でミアンに質問されたのだ。
自分自身でしか使えないのは、いろいろ3姉妹が触ってみて初めて分かったのだが、
「まあ、普通に使っているのを私たち誰も気付かなかったのですけど。」
とミアンがため息まじりに言い、
「まあ、普通に堂々と使っていると気づかないでしょう。でも便利そう。」
ミヤンが羨ましげな表情で呟く。
「もしかして、これもこの世界に来た時に手に入れたのかしら?。」
とヘルバティアが聞くので
「ええ、私が来た時にはそのカバンが近くにあったのよ。」
メムが答える。
「ふぅーん。じゃあこのカバンも異世界から来たようなものかしら。」
メムの答えを聞きながらヘルバティアが首を傾げる。
「俺にもよくわかりません。」
「ウチにもよくわかりませんので、先に休ませてもらっても……。」
バンナが疲労の色濃くそう申し出ると、
「いいわよ、私と一緒に寝ましょう。この寝床で先に休んでていいわよ。」
そう言いながらミヤンがこれ幸いとばかりに自分の寝床を空ける。
「じゃあ今夜はメムちゃんも私と一緒に寝ましょう。」
ヘルバティアがついでとばかりにそう言い出す。
「じ、じゃ、じゃあ、ニシキさん、私と一緒に寝ましょう。」
ミアンが悪ノリなのかそう言い出し、
「ちょっと、ミアン。」
「ミアン姉さん。」
ヘルバティアとミヤンはミアンに棘を目一杯含んだ目でにらみ付ける。
「じゃあ、明日は移動ですし朝早いので先に休みます。まあ、どうぞメムとバンナと一緒に寝ててもいいですよ。」
そう言いながら、自分の部屋に戻りさっさと寝ることにする。
その夜、隣の3姉妹のいる部屋から何か会話が漏れ聞こえていたが、何の会話かわからないまま俺は眠ってしまった。
翌日からサンイーカー国のイチノシティの街に戻ることになるが、
「空路便で帰りましょう。日程にも余裕ができちゃったし。」
と朝食の席でのヘルバティアの発言に俺がキョトンとしていると、
「昨夜の会話でそうなったのよね。」
「ウチも乗ってみたいんで、つい了解しちゃって……。」
メムとバンナも了解済みのようだ。
へえ、昨夜の漏れ聞こえた会話はそんな話だったのか。そう思いながら、
「空路便って、その、費用とかがかかるのじゃないですか……。」
ふと気になって聞いてみる。
「ええ、でも、乗物記録書があるので、それで利用できますよ。」
「じゃあ、もしかして、この試験の俺たちが負担する代金はほとんど不要……。」
ミアンの答えに俺が唖然として生唾を飲み込む。
「冒険者ランク10級へのランクアップ試験は、基本受験する冒険者に負担がかからないようになっています。それだけ価値があるランクだからです。」
「10級のランクアップ試験に合格したらまたいろいろと研修がありその中で詳細な説明があります。」
ミアンとミヤンの説明に、俺は呻きつつ、
「う、うーん。ま、まあ、まずは合格しないといかんですな。」
「ダン、喋りがおかしくなってるわよ。」
メムが冷静に指摘する。
「いやー、空路便なんて初めて聞くものですから。どんなものですか。」
「そうですね、まず。各国の王都を結ぶ便になります。一定方向に吹く上空の風を捕まえて飛ぶのです。経路は決まっていて、このデー・イッカホ国王都からコシチューク国王都、サンイーカー国王都、エイカットシン国王都、セナシュー・イキュン国王都、そしてデー・イッカホ国王都というように巡回します。」
「……逆方向にはいけないのかな?。」
「先にも言いましたが、上空の風向きがありますので。それにトゥーンカーン国を避けて飛ぶ必要もありますので。」
なるほどね。でも速さはどうなのかな。
「早く着くのかな。安全性とかは。」
「事故の話は一切起こったことがありません。王都間は一部の経路を除いて約1日あれば着きますので、早いと言えば早いでしょう。」
俺の疑問に対して、ミアンとミヤンが交互に説明してくれる。
「でも、サンイーカー国の王都でそんな発着場所を見たことはなかったしな。」
「空路便の発着場は離れた場所にあるのですから。発着場と王都中心街を結ぶドラキャ便がありますので。」
「じゃあ、説明も終わったようだし、これから行くわよ。まず王都にね。」
ということでドラキャに乗り込み、まずはデー・イッカホ国王都に向けて走りだす。王都へは何事もなく到着して宿で一泊して、翌朝に出発するその空路便に乗り込むことになる。
「ようやく着いたか……。」
俺はグッタリとしてしまった。なぜかこの空路便が俺には合わないということが分かっただけでも収穫があったというべきか。
空路便は見たところ、前世の地球でいうところの飛行船みたいなものであった。それで一定の高さに浮かび上がり、上空の風帯に入って飛んでいくというものである。なるほど、だから経路が一定方向しかないのだろう。ただ、何だろう。俺は妙に緊張と強張りを覚え、乗っている最中は妙に落ち着かなかったのである。その状態で計2日、無事にサンイーカー国の王都に戻りついた時は、半ば気を失ったかのようにグッタリとなってしまった。
3姉妹に肩を借り体を支えてもらいながら這々の体で戻ってきたようなものである。側から見たら、任務に失敗しまくって帰ってきたみたいに見えただろう。
「ダン、だらしないわね。」
「ニシキはん、大丈夫でっか。」
「バンナ、こんな状態なのよ。そんなこと言わないのがいいわよ。本当に情けないわね。無事に着いたじゃないのよ。何怯えちゃってるのよ。もしかして酔ったの?。それともビビりすぎたのかしら。本当だらしないわね。あのヘビースネーク相手の時のダンはどこに行ったのかしら。」
俺の体たらくを見てメムが散々に言ってのける。俺はそれに反抗する気力もなく、
「ううー。ううー。くそー……。」
と言うしかなかった。




