255弾 試験会場までいろいろあろう
結局メムは一晩中船酔いに苦しむことになり、俺もその看病で一晩まんじりともせずに過ごす。
「ああ、……キツかった。」
「全く、メム様のために……。」
「ごめんなさい……、今後は食事量も考えないと……、まさか、こんなことになるなんて。」
幸いもどすことはなかったが、かなり苦しそうにしていたのだった。
「ああ、リーダー。メムは大丈夫です。船を降りると元に戻るでしょう。」
「メムちゃん、苦しそうだったけど本当に大丈夫?。」
しかしメムの不調はともかく、船は無事に予定通りにイロノシティの街に入港して航海は終わる。船内での入国手続きを試験従事証明書を見せることでさらりと終えて、みんなの後に地上に降りたメムは、
「ああ、疲れたわ。」
と一言。
「ええ、俺も疲れました……。」
俺もメムに一言。
「ニシキはん、お疲れ様です。」
とバンナが一言。
「「メムちゃんの看病、お疲れ様です。」」
とミアンとミヤンが俺を労ってくれる。
「はいはい、ニシキさん、さっさと歩く。ああ、メムちゃん、大丈夫?。」
なぜか扱いが違う気もするのだが、ヘルバティアにそう言われながら港から歩いてイロノシティの街の組合本部に向かう。組合本部で手続きを済ませて、王都へ行くドラキャを確認すると、出発時間前に先に組合本部に併設された朝食を終える。
「うーん、さすが海に面した街ね。変わった海産物が食べられるなんてね。」
メムは船上の時とは打って変わり、あっさりと回復して朝定食を5人前平らげたのだった。
イロノシティの街の組合本部前を出発して王都に向かうドラキャに乗り込み、デー・イッカホ国の王都へ出発する。
結局そのドラキャ内で俺とメムとバンナはよく眠ってしまい、昼休憩で3姉妹に起こされて、昼食後もウツラウツラしつつ目的のデー・イッカホ国王都に予定より少し早く到着したのだった。
まあ予定より早い目に着いたところで、すぐにデー・イッカホ国王都の警備隊本部に行き、試験従事証明書に確認印をもらう。これで書類上の手続きは問題なく終えて、巻き込まれても不安なことはなさそうである。
「ああ、そうそう。ヘビースネークについてですが……。」
書類を受け付けた警備隊員が確認印を押しながら話しかけてくれる。
「今目撃されているのは、ヘビースネークの中でもかなり大型の部類に入るそうです。かなりタフな戦いになるかもしれませんのでそう心得て下さい。」
「わかりました。ありがとうございます。」
ヘルバティアが愛想良く話を聞きながら確認の押された書類を受け取る。
「そんなに大型ですか?。」
ヘルバティアの背後からミアンがその警備隊員にそう聞いてくる。
「ええ、あなた方もロトトロ山地に行かれるのですよね。8日ほど前にも試験従事証明書を持ったパーティがそこに行きましたが、情報以上にヘビースネークが大型で頑健なもので、倒しきれずに半数が重傷を負って退散したそうですから。まあ詳細はラムノシティの街へ行けばいいかと思います。」
「わかりました。重ねてありがとうございます。」
ヘルバティアがそうお礼を言って、宿に向かうためにここを離れる。俺たちもリーダーについて行く形で警備隊本部を離れて、イチノシティの街の組合本部が紹介する宿へ向かっていった。
紹介された宿は古びた感じはあったが、中はしっかりした造りであり、部屋は2部屋で予約されて風呂と便所は男女客別で共同使用というものであった。
「部屋ごとについているわけじゃないのね。」
部屋に入ったメムがそう言って部屋周りをくるっと見渡す。
「就寝箱がなくてよかった。」
そう呟き安堵する俺。
「やっぱり節約モード体型でおってよかった……。」
一息つくバンナ。
「ああ、益獣用にトイレはありますがどうしますか。」
「うーん、共同用って益獣用は考えていないのね。」
部屋の隅に砂を盛った大きめの益獣用のおまるみたいなものがあるを見つけて俺とメムが会話する。
「前世じゃ猫用のトイレとしてもう少し小さい感じもしましたが。」
「へえ、ニシキはんの前世の世界か。見てみたいでんな。」
俺の感想にバンナが反応する。
「ねえ、これは衝立よね。」
メムが部屋の隅からまた別のものを見つけてくる。
「じゃあメム様がこれで用を足すときには、これで隠せばいいですね。」
俺はそう言っておまるの前にその衝立を持っていく。
「ふーん、用を足すときはダンがその衝立を動かしてね。」
ああ、そうなるのか……。多分これだと、メムの用足しの後は俺が後片付けか。まあゴミ袋みたいなものもあるからこれで処理するのかな。今夜一晩の宿だからなあ。こんなのもあるのか。
そう考えているうちに、ドアがノックされて3姉妹が夕食を告げて、一緒に食事となる。
「もしよろしければ、メムちゃんとバンナちゃんは私たちと一緒にお風呂に入ってみるのはいかがでしょうか。」
夕食中にミアンがそう提案をしてくる。珍しいといえば珍しい。いつもはヘルバティアがお願いしてくるのだが。そのミアンの提案を聞いたヘルバティアとミヤンが少し興奮気味に、
「ミアン。」
「ミアン姉さん、なんていい提案を。」
「俺は了解です。メム様、バンナ様は。」
「いいわよ。」
「ニシキはんがええと言わはるのなら。」
「静かな夜になったか。まあ一時的にだけど……。俺もサクッと体を洗うか。」
俺はそう独り言を言って、男性用共同浴室に向かう。一方で3姉妹がメムとバンナを連れて入浴に行っている。その途中で、驚いたことに天井から人が降ってきたのである。
「おお、イテテテ。あのー、兄ちゃん、手ェ貸してくれるかい。」
黒と白の髪色で短髪に刈り上げた若い男がそう言って俺に手を差し出す。そこへシュタッと黒い影が飛び込んできてその男の顔を踏みつける。それはメムであった。
(ああ、いい所にいたわね。コイツ、捕まえて。のぞきよ。のぞき。)
状況を把握しているようなメムが念話術で俺に指示してくる。
その瞬間、その男は隠し持っていた短剣を素早く出すが、
「ぎゃーっ……。」
メムに手首を噛みつかれて悲鳴を上げつつ短剣を手放す。そしてメムにボコボコにされた。
頭突きと引っ掻きと噛みつきで顔を思いっきり変えられてしまい戦意喪失したその男を、宿の従業員に引き渡し、警備隊の事情聴取となる。ただ試験従事証明書を提示すると、それを確認して事情聴取は数分で完了した。
「ニシキさん、お疲れ様です。」
「いえ、まだ風呂に入っていませんのでもう入浴しても……。」
うんざりした気分でヘルバティアと話をして入浴を終えて、部屋に戻る。明日のこともあるので、さっさと眠りにつこうとすると、ノックされてドアが開き、メムとバンナを連れたヘルバティアとミヤンが部屋に入ってくる。
「お疲れ様でした。」
「こちらはお返しします。」
そう言ってメムとバンナを引き渡す。
「はい。おやすみなさい。」
俺が疲れた様子でそう言うと、2人は何も言わずにサッと部屋から出ていった。
「ねえ、私の活躍どうだった?。ダン。」
「ええ、さすがです。メム様。」
もう疲れているせいか、あまり自慢話は聞きたくないのだが、
「ちょっとー、いいじゃない。話くらい聞いてよー。」
「お断りします。」
しつこく絡んできそうなのでハッキリと断る。
「もう夜も遅いので、明日ドラキャ内で聞きますから。というか、もうバンナは寝ていますし。」
「えー、ま、いいけど。」
ということで、翌日のドラキャ内ではメムの女湯覗き野郎の捕縛までの話を散々聞かされながら、うんざりした気持ちのままでラムノシティの街についたのだった。
「やっとこれからは採集と退治ね。」
ラムノシティの街の宿に入って、ヘルバティアが気合満々、体調も気力も充実した様子でそう言って皆を鼓舞する。3姉妹は出発時の緊張もほぐれたようである。メムもバンナも体力も気合も充実している。俺だけが、メムの自慢話に付き合う羽目になり気力に欠けまくることに。
こうなるのが分かっていたなら、俺もあの覗き野郎をしっかりしばき倒すべきだったな。




