254弾 船便には気をつけよう?
「まず書類について説明をします。これがまず、試験任務実行中の書類、試験従事証明書になります。以前に説明したと思いますが、この書類を見せれば、他国で犯罪に巻き込まれて正当防衛のために手を出した場合や襲ってきた山賊を討伐した場合等で、犯罪者じゃないことを証明されるものです。ただまず、デー・イッカホ国の王都へ行ってもらって、そこの王都警備隊の確認印をもらっておいてください。それで試験任務実行中でデー・イッカホ国に入っているという証明になります。この書類は大連合機関の証明もありますので大切に扱ってください。これは各人分ですので、各自で所持してください。」
メムはセイクさんが書類等の説明をするのを聞きながらしれっと眠りに入ったようである。
そんな状況でヘルバティアがその書類を確認する。
「了解です。この書類ですね。」
「では次にこちらは、乗物記録書となります。デー・イッカホ国内でのドラキャの使用時、および船便と気球便の利用時には乗務員に示して記載してもらってください。それと宿の手配はこちらでしておきましたが、宿利用記録もこちらに。臨時で手配外の宿に泊まったりする場合は、こちらを使ってください。」
「はい、わかりました。」
「では、受験に際して。今回は、まず3ヶ月以内に、強獣15体以上もしくは狂獣2体以上を退治すること、イダーゴンの葉を1人あたりで3カロガラム集めることの二点をクリアしてもらうことになります。もう前から聞き及んでいると思いますが、イダーゴンの葉を採集することと、そこに生息するヘビースネークを退治することが最速のクリア方法になるでしょう。」
「ええ、そうですね。」
答えるヘルバティアの声に緊張の色が混ざる。
「今こちらで得ている情報では、イダーゴンの葉については作柄は良好、ただし、ヘビースネークは相変わらず凶暴とのことです。そして現在のイダーゴンの生育地ですが、デー・イッカホ国のロトトロ山地、ラムノシティの街が最寄りの街になります。ここからだと、クーノショートの街まではこの組合本部のドラキャで高速で送り届けますので、そこの港から船便でデー・イッカホ国のイロノシティまでが早いでしょう。イロノシティから王都までドラキャを仕立てて王都に行き、試験従事証明書を警備隊で見せて確認印をもらって下さい。その後、ドラキャでラムノシティの街へ行って、そこを拠点にしてこの試験のクリアにかかって下さい。」
「では移動のスケジュールとしては。」
「はい、最速で移動するなら、クーノショートの港から出る船便の際に一泊、デー・イッカホ国王都で一泊、あとはラムノシティで宿泊になるでしょう。なお、ここまでの行程での宿と必要なドラキャはもう予約を済ませていますので、この宿名をリストにしています。」
すごいな、ここまで試験で至れり尽くせりとは、……何か裏があるのだろうか。
「わかりました。ではまず、出発してデー・イッカホ国のラムノシティへ向かいます。」
「ええ、無事の帰還を。無理はしないでください。試験放棄してもペナルティはありませんので、緊張しすぎないでください。それと、あと、組合本部長から伝言も。」
そういえば、最近は組合本部長兼大師匠に会ってはいないが。
「伝言ですか。」
「はい、では、伝言です。まあ、お前らならなんとかなるだろう。無事に戻って次の試験だ。……ということです。」
「は、はい。」
「すごい伝言ですね。」
「うーん。」
ヘルバティア、ミアン、ミヤンが次々に伝言に反応する。
「ずいぶん高すぎる評価だが……。」
俺が小声で呟く。何というか、もうこの試験をクリアすることを前提にしてないか。逆にこの伝言で彼女たちにプレッシャーかからないといいけど。あとそれに、この伝言は組合本部長というより師匠としての伝言な気もする。
「では、華束舞踏、行くわよ。フライングしかけた者たちもいたけどね。」
声を張り上げヘルバティアがそう言って席を立つ。
「ニシキはん、ニシキはん。これ、どうしまっか。よう寝てしまってま。」
ふわりと飛びながらバンナが俺にささやく。
「あらら、おーい。メム様、メム様。」
こんな中でしっかり爆睡をこくメムであった。
「何もあんなに強く殴るとこはないじゃない……。」
タンコブをこしらえたメムがドラキャ内で俺を恨めしそうに睨みながらそうボヤく。
「メム様はずいぶん余裕ですね、なんて緊張感のない……。」
俺はそう言いながら3姉妹が緊張しまくっているのを見る。
このドラキャは組合本部が仕立てた高速便ということでクーノショートへ一気に加速して向かっている。本日の夕刻までには到着できるということであるが、組合本部長からの伝言が彼女たち3姉妹には悪影響を及ぼしたようで、完全にガチガチになってしまっている。口も開かずに強張った表情のままで席に座ってはいるが、肩に力が入りすぎてもいる。
「ねえ、どうするのよ。あの3姉妹何か完全に呑まれちゃってるわよ。」
「メムはんの言う通りでんな。もうガッチガチで、ウチはなんか見てられへんのですけど。」
メムとバンナが俺に小声でそんな話をしてくる。このドラキャの操縦者には聞こえないくらいの声である。
「うーん、とりあえずは……、メム様はヘルバティアのところに、バンナ様はミヤンのところに寄り添ってあげてみて下さい。少しは気がまぎれるかと思いますので。」
「ああ、なるほど。」
「まあ、よろしゅうおま。」
俺の提案にメムもバンナも納得するが、
「でもそないすると、ミアンはんが……。」
バンナがそう指摘する。
「じゃあ、ミアンにはダンが寄り添って、じゃれついてあげれば、イテッ。」
「言い方が悪かったです。メム様とバンナ様で緊張したあの3人をリラックスさせて下さい。」
メムに一発ゲンコツを入れて、メムとバンナへそう指示を出すことにした。
俺も本当に自分の間抜けな言い方で、意外にも緊張していて心の平静が保てていないことに気付き反省をする。ただ、今から緊張してもしょうがない。そう思っていると、少し眠気が……。
「……ちょっと、ちょっと、起きなさいよ。昼休憩よ。」
「ニシキはん、起きて下さい。」
どうやらよく寝ていたようだ。目を覚ますと、メムとバンナが俺の顔を覗き込むように接近している。
「ああ、昼休憩か……、あれ、3姉妹は?。」
「先に行ったわよ。食事をしに。ここでは食堂があるって。」
俺が聞くとメムが舌なめずりをしながら答えてくれる。
後を追うように、メムとバンナを連れて食堂へ向かう。メムは久しぶりに大食いを見せ、20人前の定食を平らげたのであった。
その後は順調な移動であった。予定通りにクーノショートに着くと船着場を探すことになる。
「えーっと、船でアクイの方向へ向かうのですね。」
ドラキャから降りて、地図を見ながらメムと話をする。
「アクイの方向ということは南ね。船か。どんな船なのかしら。」
デー・イッカホ国へ向かうには南下しながらレジラブトス海を渡って、デー・イッカホ国の玄関口ともいわれるイロノシティに向かうことになる。旅客用の船便が出ており、朝便として朝にクーノショートを出発して夕刻過ぎにイロノシティに着く便と、夜便として夜に出発して翌朝に着く便とがある。もちろん貨物便は結構出ており、交易も盛んなようである。ちなみにドラキャに乗ったままデー・イッカホ国に行く場合は、ドラキャを貨物便に乗せ、操縦者は別で旅客便に乗ることになり手間がかかるそうである。
「はい、はい。ニシキさん。見惚れていないで、行きますよ。」
ヘルバティアがそう言って港湾設備や船を見渡している俺を呼ぶ。3姉妹はメムとバンナのおかげでか緊張はほぐれたようである。
「いやー、しかし、帆船かあ……。でもデカいな。」
しかし見事な帆船である。まるで海王丸や日本丸を見てるみたいな気分になる。メムも俺のかたわらで好奇心丸出しにあちこちキョロキョロ見渡している。
バンナが留まっていたミヤンの左肩からふわりと飛んで、俺の目の前に来て、
「さあさあ、急ぎ手続きしまひょ。あまりそんなキョロキョロしてると、田舎者でっせ。」
そう言って俺とメムを急き立てた。
乗物記録書を示して乗船の手続きを終えると、皆で夕食をとりその後乗船して、予定通り船は出航する。俺とメムとバンナは、3姉妹とは別々の隣り合った部屋になる。航海は順調であったが、一つ問題が発生する。
「ううー、気分が……。こんなことなら……。食事量を……控えるべきだったわね……。」
メムが船酔いに苦しむ羽目になってしまったのである。
「まさか、メム様にこんな弱点があったとは……はい、水を飲んでください。」
「ううー。なんでこんな目にー……。」
メムの言葉にも力がない。
「自称女神が、案外だらしなさすぎでんな。」
バンナがそう言って煽るが、
「ううー。ううー。くそー……。」
メムには反論する気力も無くなっていた。




