253弾 入れ込みすぎに注意しよう
「なんで、あの状況を切っちゃうのかなあ、私は納得できないから。わかってるの、ダン。」
俺が立候補表明した3姉妹を、ざっくりとぶった斬ったことにメムは不満な様子だ。
「あのー、今はランクアップ試験の前ですから。大事な時ですから。姉妹喧嘩になんぞかまってられませんから。」
「KARAの3連発でどこぞのラッパーみたいな返し、ありがとう。」
「へえ、そんなやり取り、ウチのオトンとオカンの会話みたいでんなあ。」
バンナの一言で、俺とメムは一旦沈黙して、今の会話が不完全燃焼な線香花火のように消える。
「………まあ、この庭から一旦自部屋に戻りましょう。メム様もバンナ様も。で、ヘルバティアさん。明日は俺の装備を買いに行って来ますから。」
「いいけど、装備とは、何を。」
「俺の鎧を見繕ってきます。軽量でかつ強度のある物を探します。いいのがあれば買っておこうかと。それとメムとバンナにも何か装備できる物とかがあれば。」
「そんな、ニシキはん。カラーネイル兼補強剤を買うてもらって、その上、そんな気使わんでも。」
「いや、バンナ様用にちょっとカバンを。あとメム様にも何か装備してもいいのかな、と。」
ミアンとミヤンが一緒に首を傾げる。それと同時にメムもバンナも首を傾げる。
「バンナに装備するカバンって小さな物じゃないとダメなんじゃ?。いや、もしかして通常モード体型を見込んで用意するとか?。」
ヘルバティアが双子妹の疑問を代表して俺に聞いてくる。
「いやいや、今後の激闘を考えますと、戦闘中はこのバンナにはカバンに隠れてもらおうかと考えていまして。」
「ああ、なるほどです。その大きさなら、いざという時はカバンに隠れておけばいいわけですね。下手に私たちの周辺を飛行しているのも危険かもしれませんから。」
そう言いながらミアンがポンと手を打って俺の意図に気付く。
「いや、いざとなったら通常モード体型になって、ウチもやったりますが。」
バンナが気を使わないで欲しいとばかりに意気込みを示すが、
「もし、バンナ様が通常モード体型で戦うと、後、回復のためにどのくらいの食事量が必要になりそうですか。携帯食糧だとどのくらいになりますか?。」
「ざっとした計算になるけど、多分節約モード体型だと普通に1食分の携帯食糧が、……戦闘で動くとして、20食分以上は食うてまうかもな。」
「……やっぱり、ですね。」
「ちょ、ちょっと。ダン、この子はやっぱ大喰らいすぎるわ。20食以上って、通常モード体型だとそんなに食べちゃうの!。通常モード体型ってなんか食費的にも効率的にも問題ありまくりじゃないの。」
「……いえ、メム様がそうまくし立てて言える立場じゃないと思いますが。」
「そんなことはないわよ。私の大食いというのは、基本このグランドキャットとしての美しさの維持と女神としての知性と教養と品格の維持にまわされているから。」
本当にどの口がそういうのか。もしくは本気でバンナを貶めにかかっているとか。
「……ハァ、おい、テメェ大概にしろよな!。美しさの維持、まあ100歩譲ってそれは認めてやるとしても、知性と教養と品格の維持だぁ。どこに、どこに、どこに、知性と教養と品格があるんですか!?。」
「そんな物はバカには見えないのよ!。そう、私だけがわかっているもの、それが知性と教養と品格なのよ!。」
あまりにも大胆すぎかつ斬新なメムの開き直りにキレた俺は何も言えなくなる。
「ニシキはん、ほんまに苦労しまんな……。」
「ティア姉さん、ミヤン。明日はニシキさんの買い物に一緒に着いて行きましょう……。」
バンナの呟きのすぐ後を追って、ミアンがそう提案する。
「そうね、いいわね。メムちゃん。ニシキさん。」
ヘルバティアもそう言って俺とメムのヒートアップを鎮めにかかる。
「まあ、それでも構いませんが。」
俺がそう言いメムを見ると、メムが
「じゃあヘルバティアと一緒だ。」
と言ってヘルバティアの足元に。
「メムちゃん、飼い主に失礼な言い方よ。確かにバンナちゃんが通常体型モードのままだと食糧の問題は大きいわよ。携帯食糧でも持っていくのには限度があるのだからね。それでニシキさんはバンナちゃんが節約モード体型のままでなるべくいられるようにカバンを買うことを考えたのよ。メムちゃんもそれをわかってあげないと。」
意外にもヘルバティアがメムを見下ろしながら説教らしいことを言ってきたのだった。
「ふぅ、リーダーに俺の考えをだいたい言われましたが、メム様。維持費も考えないと。いくら白粉石の鉱山からの配当があるにしても、お金はやたらめったら使う物でもないですから。節約は大事じゃないですか。それにバンナ様が通常モード体型になったままだったら、メム様の食費を抑えることにもなりかねないですから。そのためにも、お分かりですね。」
「まあ、ちょっと今の一連の発言は私も気品に欠けていたわね。まあ、ダンがカバンを買う理由はわかったわよ。」
状況は少し落ち着いてきた。しかし、
「じゃあ、私が戦闘の時はそのバンナの入ったカバンを持っておくから。」
「ミヤン、バカ言わないでちょうだい。」
「いいじゃない、ティア姉さんはすぐ私をバカにする。」
ああ、ミヤンの発言で、また空気が……。
「まあ、まず、明日カバンを買ってみてから、ミヤンさんが持つかどうかは後で決めましょう。」
今度は俺が状況を落ち着かすことになった。
その後はなんやかんやと試験受験の準備に取りかかり、翌日は総出で俺の軽鎧とかバンナ用のカバンとかメムの防具を買い出しすることになる。
しかしメムは、
「うーん、こんな感じじゃないのよ。」
とか
「何か違うのよね。」
とか
「動きにくくなるわよ。」
とか
「私をおちょくってるの。」
とか言って、結局メムの防具は何も買わなかった。
「いいのですか、メム様。そのままで。」
俺が確認するが、
「他の街や国に行ったときにもっといいのがあるかもしれないじゃない。今は何もつけなくてもいいと思うの。」
と言って、本当に何も防具をつけずに試験に挑むことになった。
バンナのカバンはバンナ自身に確認してもらい、
「ああ、これがちょうどええ。」
「ええ、何この色。」
メムはオリーブ色のそのカバンに不満タラタラであるが、
「色やない、ウチにとっての使い心地がええかどうかや。」
とその不満を一蹴して気に入ったようであった。
「この生地で他の色はないのでしょうか。」
と俺も店に聞いてみたが、この色しかないということであった。
ということで、綾織の厚手の綿のような生地でできたカバンを購入したのだった。
最後に俺の軽鎧も店売りの新品のムニチータム製の軽鎧を奮発した。
いろいろ準備に忙殺されたが、ついにこの日が来た。
朝から組合本部に行くと、受付でセイクさんが待っており、
「書類の準備は完了しました。ではランクアップ試験を開始します。」
と宣言する。
「よーし、行くか!。」
「さあ、行くわよ!。」
「よっしゃ、ほな行くでー!。」
俺とメムとバンナは各々気合満々で、受付に背を向けここを出ようとするが、
「あのー、試験についての説明がまだ何も終わっていませんが……。」
セイクさんがそう言い、3姉妹は少々白い目で俺とメムとバンナを見ていた。
「気合いはいいのですけどね……。」
とミアン。
「バンナちゃんまで……。」
とミヤン。
「メムちゃんもニシキさんもバンナちゃんも少し入れ込みすぎじゃない。落ち着いて。」
とヘルバティア。
「まあまあ。では皆さんに説明を開始しますから。」
セイクさんがそう言って俺とメムが席につき、バンナが俺の左肩に止まるのを見ながら説明を聞くことになる。




