246弾 この発見した珍獣をどうしよう
「あ、あれ……。」
「えっと………。」
睨み合っていた俺とメムはその生き物に視線を送る。やや甲高い声で、少女みたいな声でしかも聞こえてきた関西弁。でもこの異世界に関西弁はないし……、エセ関西弁か?。
「いやー、驚かしてしもうて、えらいすんません。ああ、少し落ち着いとくんなはれ。そんな強張った顔やと、話にもなりまへんやろ。」
「えっと、おたくさんは一体どこのどちらさんで?。」
俺が少し驚きながら話しかけてみる。
「いやー、あんさんもウチの訛りに動じはらへんなんて、大したものでんな。ああ、そやった。ウチはヒューマーが言うところのフォグコリンという種類の獣や。名をバンナと言いま。まあよろしゅうに。」
えらく馴れ馴れしいというか図太いというか……。
「ああ、……こちらこそ挨拶が遅れました。俺は姓をニシキ、名をダンと申します。こちらがグランドキャットのメムになります。こちらこそよろしくお願いします。」
俺もこの生き物のペースに呑まれた感じになり思わず挨拶を返してしまう。
「ヘエ、ニシキはんにメムはんか。じゃあ、これからお世話になりますさかいに、ほなら。」
そのフォグコリンという種のバンナと名乗った生き物は、そう言ってメムの背中にちょこんと飛び乗る。
「ちょっと、何、何様よ。いきなり私の背中に乗って。何するのよ。」
「何って、……ウチはこの人に飼われることになったさかいに、当然のことやろ。」
「何が当然よ、何でこんな扱いになるのよ。私は地球の女神よ、いきなりそんな背中に乗られても……。ねえダン、こいつになんか言ってやって。」
「メム様、さっき責任を持って飼うと言いませんでしたか。そんないきり立っても何か話が違うってことになるでしょう?。自分の言ったことにはそれなりに責任というものがありますから。」
「ああ、メムはん、あんたに飼われるのと違うで。ウチはこのニシキはんに飼われるのやさかいにな。そこは勘違いせんといてや。」
「はあぁ!、何言ってるのよ、この下等生物。私が飼ってやるって言ってるのに、何でこのダンに勝手に飼われるなんて言い出すのよ。ちょっと私を舐めてない?。」
「メムはん、今飼ってやると言わはったけど、食い物と水をくれたのはこのニシキはんやろ。あんたは口しか出してないやん。ほんまもんの飼い主ならそういうことをするのが当然やろ。あんたただウチを見つけただけやん。それに、さっきのあんたとニシキはんの話聞いてる限りやと、ニシキはんはごっつい視点を持ってはる気がする。あんた、ただウチを舎弟がわりにしたいだけちゃうの?。チキューの女神かなんか知らんがそんなちゃっちい器の、グランドキャットのなりした女神なんぞなあ。」
メムが言い負かされて泣きそうな表情になってしまう。
「ねえ、ダン。これ、もっと森の奥深くに捨ててしまいましょう。というか、こんな獣とは思わなかったわ。よーし、このままダッシュで森の奥へ。」
「ああ、これ、こんな間抜けな女神やとはな……。」
バンナはそう言ってフワリとメムの背中から飛び上がり俺の左肩に乗ってしまう。
「へん、捨てれるものならやってみなあ。」
思いっきりメムを煽る。
「ムキーーー!!、この下等生物、やろうっていうのね!!。」
「はいはい、メム様。落ち着いてください。こっちはこのバンナさんに聞いておきたい事もあるので、控えてください。」
メムは俺にそう言われて一旦矛を収める格好になる。
「ニシキはん、バンナさんなんてそんな他人行儀な言い方せんでいいで。バンナって呼んで構わへんから。」
「いやいや、まだこっちも飼うと決めた訳ではないので。その前に聞いておきたいことがあって。」
「何でっしゃろ。」
バンナがそう言いながら俺の肩からフワリと降りて地面に立つ。
「さっきは、もしかしてここで休んでいたとかですか?。メムが起こしてしまったとか。」
俺の質問にバンナは、
「いや、実は……オトンとオカンからはぐれまして……、何とか食い物と飲み物を食い繋ぎながらここまで来たんですが、ついに力尽きまして……ちょうどその時にあんさんらがここに来てくれて食い物と飲み物をくれて、そのおかげで助かったようなもんで。」
「じゃあ、そのオトンとオカンのところに戻ったほうが良いのじゃないですか。」
「いいえ、そんな必要はおまへん。どっちゃにしても時期が来たらオトンとオカンの下から離れなくちゃいけないんで、それが早よなっただけですから。」
「離れている間は単騎で修行みたいなことですか?。」
「生き残るために他の獣の群れに世話になったりします。ウチらの種の中では『托生』と言いますが。でもこれに生き残れるかどうかといえば、かなり厳しいもので。」
おい、これって托卵みたいなことか、そんな習性があるのか……。
「まあ、そういう事も含めてあんさんらにお世話になろうということで。」
バンナはそう言って殊勝にも俺に向けて深々と頭を下げてくる。
「うーん、困ったな…。今俺たちは特訓していて、これからここを離れてイチノシティという街に戻ることになります。それに、パーティを組んでいるから他の仲間にも話しないといけないし、その仲間の了解を取れれば良いのですが。」
俺がそう言うと、
「そんならそれで構いまへん。ウチもそのお仲間さんにしっかりお願いしますさかいに、ウチを飼ってください。あんさんの、ニシキはんの、いやニシキ様の言うことでしたら何でも聞きますんで。」
「そんな気合い入れて言われても……。じゃあ、仕方ない、とりあえずロッジに戻りますか。」
「えー、こんな生き物の言うこと聞いちゃダメだと思うわ。私は反対。反対ったら反対よ。」
メムが反対の意思を盛大に示すが、
「最初、俺にこの生き物を飼おうと言ったのはメム様ですよ。『私の直感がこの子を助けろと言っているのよ。』と言って、俺が『もうどうなっても知りませんけどね。』と警告したのに『私が責任持って飼うわよ。』と言い切ったのですからね。それだけ言っておいて、今更そんなことを言っちゃダメでしょ、女神としての威厳も何もあったものじゃない。」
「ぐ、ぐぬぬぬ。」
俺の反論にメムが見事に撃沈してしょんぼりと頭を垂らす。それを見てバンナは、
「ククッ、ククッ。」
と笑い声を上げる。
「じゃあ、とりあえずロッジに戻りましょう……。」
俺はそう言ってロッジの方向に向かう。でもヘルバティアたちが認めてくれるかどうかだけどな。
取り急ぎロッジにバンナも連れて帰ってくると、まだ3姉妹は戻っていなかった。昼食は届いていたが、ロッジのどこにも何も異常がないのを確認してからメムとバンナと一緒に入って居間の席に着かせる。
その大体5分後には、ドラキャの走行音がして3姉妹がロッジに戻って来る。
「あー、ただいま。ニシキさん、留守番ありがとうね………、えっと、これは。」
ヘルバティアがそう言って居間に入ってくると、何か異変に気付いて動きが止まる。その後ろからミアンとミヤンが何事かとばかりに居間の様子を見て、
「あー、きゃわいいーーー!!。」
そう言ってヘルバティアを押し除け、ミヤンがバンナをめがけて突進してくる。
「ちょ、ちょっと、落ち着いてくんなはれ。そんな、ひー!!。」
ミヤンが思いっきりバンナを捕まえて抱きしめる。
「ちょ、ちょっと、………く、苦しい……。」
まさかミヤンがそんな反応をするとは……。俺もメムもミアンも唖然とする。
「ミーヤーン、何で私を突き飛ばすのかなあー、あれ?。」
ミヤンに押し除けられて床に伏せる羽目になったヘルバティアが怒り心頭で起き上がるが、ミヤンの様子に固まってしまう。
「あのー、ミヤンさん。落ち着いてくれませんか。その子が苦しがっていますので。はい、どうどう。」
「ミヤン、はい、一回その子を離して、さあ深呼吸を。」
俺とミアンでミヤンを落ち着かせる。
「何、これは。私はこの子を飼うのは反対します。」
「はーい、私もヘルバティアと同意見です。その子を飼うのは猛反対します。ということだから、ダン。いいわね。」
ヘルバティアとメムが一致団結して反対したのだった。




