247弾 この珍獣、飼うかどうか議論しよう?
「……メム様、何ヘルバティアの意見に乗っかっているのですか。本当に情けない。自分の意見をコロコロと変えて最低ですね。」
俺がメムを冷たい視線で見ながら反撃を開始する。
「良いのよ、メムちゃん。さあ、今こそ団結の時よ。」
「ああ、ヘルバティア。」
メムとヘルバティアがそう言ってヒシっと抱き合う。これ一体何の小芝居だ……。
「というか、ティア姉さんはメムちゃんを愛でてるのなら、私はこの子を愛でても良いでしょうが。それとも何、ティア姉さんは愛情の多様性について随分と否定的なんだな。」
ミヤンが好戦的にヘルバティアを挑発する。
「はいはい、また姉妹喧嘩するのなら俺がまたぶっ放すことになりますが良いのですか。」
危ない空気になる前に早めにその流れは断っておく。
「あのー、よろしいでっか。うちはフォグコリンという種類の獣で名をバンナと言います。お3人さんにはお初にお目にかかりますが、うちにもよんどころない事情ちゅうもんがおまして、このニシキはんにうちを飼ってくんなはれとお願いしたのがそもそもの始まりです。そちらさんらに迷惑をかけるつもりはおまへんので、ほんの片隅でも良いのでこの身、おいとかせてもらえませんやろか……。」
バンナがそう言ってヘルバティアとメムに深々と頭を下げる。
「良いのよ、このろくでなしどもが何と言っても、私は、このミヤンはあなたの味方よ。バンナ……ちゃん。」
「そんな、そんな言ってくれはるなんて、このバンナ、何と言っていいのやら。嬉しゅうおます。いきなり来てしまったこの獣にそこまで……ミヤンはんの情に、ウウウウ、涙が、涙が止まりません。」
「良いのよ、私はたとえ一人になってもあなたの味方になるつもりよ。」
「うううう、ミヤンはん。」
「バンナちゃん!。」
こっちもこっちでそう言ってミヤンとバンナがひしと抱き合う。そしてバンナがミヤンの豊かな双丘にに埋もれていく。だから何の小芝居だ。
「ティア姉さんとミヤンがメム派かバンナ派かに別れた訳ですね。ところで、ニシキさん、メムちゃんに意見をコロコロ変えてと言ってましたが、こうなるまでに何かあったのですか?。」
ミアンは冷静に中立の立場でそう俺に問いかける。
「ええ、最初にメムがこのバンナを発見しまして、俺はそのままにしておくほうがいいと言ったのですが、『私の直感がこの子を助けろと言っているのよ。』と言って、俺が『もうどうなっても知りませんけどね。』と警告したのに『私が責任持って飼うわよ。』と言い切ったのです。ところがバンナが話をした途端に態度を変えまして……。」
「ダンの話にはところどころフェイクが混じっているわね。」
俺の話に被せて来るようにメムがそう言ってくる。
俺は大きくため息をつき、
「そんなことを言っていいのですか。メム様の行動が問題を生んでいるのですよ。人の警告を聞かないでそんな態度をころっと変えて、それはあまりに身勝手というものでしょう。それに、今はまず昼食にしましょう。空腹で話し合ってもよろしくないですから。で、このバンナには俺が携帯食糧を与えますので、昼食後にまた話し合いましょう。」
「そうね、ニシキさんの言う通りね。少し落ち着きますか。じゃあ、メムちゃんと一緒に食ーべよーうっと。」
ヘルバティアがそう言うと、ミヤンが意地を張るかのように、
「ねえ、ニシキさん。私はこの子、バンナちゃんと一緒に食べてもいい。私が携帯食糧を与えるから、ねえ。」
と言ってくる。
俺はまた大きくため息をついた。
昼食を食べながら、再度このバンナを見つけるまでの経緯とバンナの抱えている事情として両親とはぐれたこと、ただ両親のもとを離れて『托生』としてしばらく生き延びなくてはならないことを説明すると、少し空気は和らいだようだ。
ヘルバティアはメムと、バンナはミヤンと一緒に食事をしたが、この対立状態もあまりよろしくはない。
とはいえ、メムは未だに反対の意思を示したままなのである。
昼食を終えて落ち着いたところで俺が妥協案を示す。
「とりあえず、このバンナのご両親と話をしたいので、まずご両親と話をしてからこのバンナをどうするか決めてもいいかとは思います。メム様もそれでいいですか。」
「うーん、じゃあそれまで一旦私たちで預かるような形ね。」
メムはその案に了解する。
「ええー、じゃあ、この子の両親とあったら私はこの子を、バンナちゃんを手放さなくちゃならないの、そんなのイヤ。」
ミヤンはその案に不満を示す。
「いや、そこは両親との話次第だと思いますので、そう決めつけなくてもいいでしょう。」
俺がそう言ってミヤンを見る。
「うーん、まあそう言われると……。」
「それと、このバンナを当座の間、預かると言う形で行きますが、ちょっとルールと言うか、バンナに守ってもらいたいことがあるのですが。」
そう言われたバンナがフワリと飛んで俺の目の前の卓上に座る。
「何でしょうか。できることはちゃんとしまっさ。」
「そうですね、メムの言うことをできる限り聞いてやって下さい。無茶なことを言い出したらしっかりメムと話し合った上で、どうしてもと言うのなら俺に話してくれていいですから。いきなりメムの背中に飛び乗るのもなしというところで、どうですか。バンナ様。」
「そりゃあんさんがそう言うのやったら、そうします。しかし、この自称女神のグランドキャットの言うことを。」
「これでも俺の相棒ですので。そこは堪えてくれませんか。」
バンナが全部言う前に被せ気味にそう言い聞かせてお願いする。
「メム様とバンナ様が互いに歩み寄って仲良くしてくれれば、それが一番ですから。そうすればこっちも安心して預かることもできますし、メム様も女神の器量、器の大きいところを見せられるということになるでしょうから。」
「まあ、いいのじゃない。私は確かに器のでかい女神だから。」
自分で言ってりゃ世話はないが、だがそれは口には出さないでおく。
「まあ、ウチも新参者の立場ですわな、確かに大きな態度をしてもしようがない。皆様、どうぞよろしゅうお願いします。メムはん、先程は失礼しました。詫びさせてもらいます。」
バンナはメムの前に移動してそう言って深々と頭を下げる。
「まあ、いいわよ。そう頭を下げられてもね。いいわよ、最初に飼おうと言った責任もあるし、ダンの言う通り、当座は預かりということで受け入れましょう。」
メムが俺の案に納得して受け入れを認める。
「すんません、ニシキはん。いろいろ骨折ってもろうて。ミヤンはん、ウチをいろいろ励ましてくれてありがとうございます。ヘルバティアさんらも皆さんにもこれからお世話になりますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
バンナはそう言って、ヘルバティアの前へ移動して頭を下げ、その後ミアンの前に移動して頭を下げる。
「よろしくね、バンナちゃん。」
「ミアンです。よろしく、バンナちゃん。」
頭を下げられたヘルバティアとミアンも少しこそばゆそうにそう言って、このパーティで受け入れることを認める。
「えーと、じゃあ、飼い主として私が。」
ミヤンがそう言って手を上げるが、
「ミヤンはん、そう言うてくれてありがたいのですが、ウチの飼い主はあんさん、このニシキはんしかおまへんので、誠に申し訳おませんがそれでよろしくお願いします。」
とバンナがはっきり言い切る。
「じゃあ、私はバンナちゃんとは………。」
ミヤンがガックリするが、
「ミヤンさん、そこはほら、ヘルバティアさんとメムのような関係性でいいのじゃないですか。」
「ああ。そうか、いい例があるものね。」
俺がそう言うと、ミヤンは現金にも表情を明るくする。
「全く、ティア姉さんもミヤンも……。」
そのかたわらで、ミアンがぐったりした表情を示したのだった。
「ああ、そうそう。毛皮の分配も決めてきたけどいいわね。」
話は変わったとばかりにヘルバティアがそう言い出す。
「毛皮、ああ、協働戦の時の、回収したやつですね。」
俺が思い出しながらそう確認すると、
「ええ、一人一枚ずつ、余りの一枚はメムちゃん分として貰ってきたから。」
ああ、そうですか。メム贔屓もなんかいいのか悪いのか……。
「ところで、ニシキさん。このフォグコリン、街に帰ってから益獣として登録するのですよね。」
ミアンが俺にそう聞いてくる。
「メムの時と同じでしょう。」
俺がそう答えると、
「ええ、確か……フォグコリンは珍獣としてかなり貴重なもので、……今後用心が必要でしょうから、そこは十分気をつけていただければ。」
「確かに、こんな小さい体だと誘拐してということもあり得るか……。」
「ニシキさん。そんなことは、このミヤンがさせませんから!。」
俺とミアンの会話に割り込む形で、ミヤンが気合満々でそう言ってくる。やっぱり姉妹なのか、愛玩動物にあっという間にハマり出している感じが……。




