245弾 特訓所から帰る準備をしておこう
驚きながらメムを見ると泰然としている。メムにとって、もうこの特訓所での特訓ができるかどうかはあまり気にならないようだ。
「しかし、特訓メニューがないというのは……。」
ミアンが呟くと
「いえ、あまりにあっさり目標を達成しましたので。特にこの方が……。」
ガーワンバーさんがそう言って俺をじっと見る。
それにつられてかトレガーマさんと3姉妹がそしてメムまでもが俺をじっと見る。そんな見られてもねえ……、
「えーっと、それは俺が問題児だから出て行けというような事でしょうか……。」
「い、いえ。決して問題児というわけでは、……ありませんので。」
「ええ、このニシキ様の、……そう戦闘力が素晴らしすぎて、はい。」
トレガーマさんとガーワンバーさんが俺を必死でフォローしているようだが、これも講評か?
「では、この協働戦での講評はどういうことになるのでしょうか。」
俺が思い切って確認する。
「はい、これについては言う事なし、極めて極めて優秀であるといえます。他パーティとの連携、状況判断、そして攻撃力。もうはっきり言えば10級のランクアップ試験、合格間違いなしです。ここでこれからも特訓してもらうにしても、さっき言ったようにもう特訓メニューが全くありません……。」
結局、明日にはこの特訓所を離れてイチノシティの街に戻ることになる。まあ、要は俺たちは素晴らし過ぎてこの特訓所じゃ扱いきれなくなったということである。否定的な結果じゃないから、これは前向きに捉えてみますか。3姉妹もメムも大きく成長したはずだし。
「はい、じゃあ荷物をドラキャに入れてね。」
「「「はーい。」」」
ヘルバティアの指示で俺たちは帰宅の準備にかかる。といってもそんな大荷物を持ち帰るとかのような大変なことになってるわけでもないので、帰宅準備はあっさり終わる。併せてロッジも掃除する。
「帰宅にも時間と手間がかかるのよ。先に事務棟である程度の手続きと準備にかかるわ。途中で泊まる宿も押さえておかないと。昼食時には戻って来るから、メムちゃん、ニシキさん、留守をお願いね。」
帰宅準備とロッジの掃除が終わったので、ヘルバティアがそう言って双子妹とともに手続きに行くことになった。
「じゃあ、後はよろしくね。」
「ティア姉さんだけだと不安ですからね。」
「まあ、私もついていくことになったから。」
3姉妹がそう言ってなんやかやと手続きのためにこのロッジを離れていく。
「静かになりましたね。」
「まあ、今度は不法侵入者みたいな者がやって来ることはないと思うけど。」
「メム様。あなたがそんな事を言うと別のイベントが起きそうなので怖いのですが……。」
「まさかぁ、そんなわけないでしょう。でどうするの、この後。」
「必殺技開発で使った場所の掃除でもしましょう。使った場所はきれいにして帰るのが礼儀ですからね。」
「ダン、あなたって、生真面目過ぎるとこあるわね。後はここの所員に任せてもいいのじゃないかしら。」
「いや、ある程度はきれいにしてから帰っておいて、精神衛生上の安心を得たい、みたいなものでしょう。」
そう会話して、ロッジ外のお掃除に取り掛かる。
ロッジ周りを掃き、ゴミを拾い、備え付けのゴミ箱へ。
必殺技で使った裏庭の場所を掃き掃除した後、ボロ布人形の置き場に行き、その周りを掃き掃きして、
「あー、スッキリした。」
「あー、ぐったりするわ。」
メムはいまいちやる気がなかったようだ。
「掃除しておけば後々悪くは言われないでしょうし。」
「まあ、いいけど。………うん、……何か感じるというか。」
「ああ、メム様も掃除して心の安寧を得たのですか?。」
「……違うわよ、何か感知したような、……こっちかしら。」
「え、敵ですか。」
「わからないわ。でも……。」
そう会話しながらメムが森の奥に向かっていく。
「用心しておきますか。」
俺はそう呟きながら拳銃の具合を確かめて、いつでもショートソードを抜けるように意識しながらメムの後に続く。
ダッシュとかをしないで、慎重な足取りで森の奥にしばらく進んでいくと、メムが一度立ち止まり鼻をクンクンさせながら四方八方を嗅ぎ回る。
「あっちかしら。」
そう言ってメムが慎重な足取りでさらに奥へ進んでいく。だんだんと木々が密生してきているようだ。薄暗くなりつつある。
「ああ、ここね。」
メムがそう言いながら太めの木のくぼみに鼻を突っ込み、
「イテテテ、これは、もう。」
そう言って、何か生き物を覆っていた枯葉や草を払いのけると、
「ううん、何ですか、これは……。まあ、異世界ならではの生き物というのか……。」
俺はその生き物をじっくり見てみる。大きさは20サンチマータルくらいか、子犬というか子猫というか幼い感じはする。しかし、これは……。
頭部は白く猛禽類のような感じで、頭頂部に小さな黒い角が生えている。胴体は背中が白と茶色の羽毛で覆われ翼が生えている。腹部は何か赤茶色の短い毛で覆われて馬の腹部のような感じでウサギのようなちんまりとして丸っこい白い尻尾がぴょこんとあり、前足は猛禽類のような脚と爪があり、後足はウサギのような脚であった。
まあ簡単に言えば猛禽類と馬とウサギが混成したキメラのような小さな動物が横たわっていたのである。
「ねえ、ダン。携帯食糧をあげてみて。」
メムがそう言い出す。
「ダメです。俺たちがこの異世界トゥーアールの環境に手を出したら後々厄介なことになりますよ。下手に餌をあげたりしたらこの子は助かっても、それが環境破壊になってしまいかねないのですから。」
「確かに自然のままにしたほうがいい、下手にこの状態に手を加えたらダメだというのはある意味正論よ。でも私の直感がこの子を助けろと言っているのよ。だから、はい、携帯食糧を。」
「そんな……、あなたの直感ってロクなことがないだけだったようですけど。」
「へえ、行き倒れていた魔道具製作職人は、シストラニさんは、助けておきながらこの子は放っておけと。ダブルスタンダードじゃないの、それ。さあ、出しなさい、携帯食糧。」
メムの意思は俺がどう言っても変わりそうにないし聞き入れそうにない。ここで議論してもどうしょうもないか……。
「ふう、もうどうなっても知りませんけどね。」
「そうそう、素直に話を聞けばそれでいいのよ。」
メムがまるでアコギな強盗に思えるのだが。そう思いつつ携帯食糧の袋を開けて出して、食いやすいように手のひらで砕いて小片にして、横になっているその生き物に差し出すと、
「おおっ、すごい勢いだ……。」
俺がそう呟く間に、その生き物はあっという間に手のひらから携帯食糧を平らげた。
「はい、次は水よ。」
メムがさらに要求をする。仕方がないので水筒の水を飲ませるべく、と思ったらその生き物が何とも器用に水筒を掴み、水を飲み干して俺に水筒を返した。
「じゃあ、もういいでしょう。行きましょう、メム様。」
俺がそう声をかけてその場を離れようとする。
「えー、ここまできたらもう飼うしかないでしょう。私のペットとして。」
「おーい。俺はそんなことは認めませんよ。ええ、決して認めませんから。というかあなたが、メム様が飼い主になるつもりですか。」
「いいじゃない、今の私の立場はダンという飼い主に飼われる立場、でも私が飼い主になってみるのもいいのじゃなくて。」
「別に俺は飼い主とは思ってませんから、メム様を相棒と思っているつもりなのですが……。」
「いいのよ、今さっきの私の発言は、……ノリよ、言葉のあやよ。それよりほら、飼うからね。この子。私が責任持って飼うわよ。」
メムがまなじりを決してその生き物を庇うかのように立っている。
「いえいえいえ、何言ってるのですか。もうこれ以上この異世界の生態系に手を出したらまずいですから。ダメですよ、本当に。」
俺もそう言いながら毅然とメムを睨み返す。と、その時、
「あのー、ウチは兄さんに飼ってもらえるのなら、それがよろしゅうおま。」
その生き物が俺たちに話しかけてきたのだった。しかもめちゃめちゃ流暢な関西弁?で。




