220弾 一つ助言をしてみよう
「一度ミヤンさんがミアンさんへ打ち込んでもらいますか。」
課題とやらを見つけ出すためにも実際に見るしかないのだが。
「え、ダンが受けてあげればいいのじゃないの。」
すかさずメムが俺の指示に疑問を表明するので、
「いや、まず外側から見てみるのがいいかなと思っていまして。まずはミヤンとミアンで戦ってもらったところを見てから、俺が受けてみようと考えています。」
「ああ、順序があるわけね。」
俺の回答にメムがあっさりと納得する。
ということで、ミアンとミヤンが一対一の形で稽古を開始する。
宰相邸の稽古場でヘルバティアとミアンが素手で稽古をしたのを立ち会って審判役したことはあるが、この2人の稽古を見るのは俺は初めてである。しかも武器有りでの稽古。どんな戦いが見られるのか少し楽しみにしている俺がいる。
ヘルバティアが2人へ声をかける。
「じゃあ、初め。」
互いに自分の武器を手に構えて見合った後、盾とロングソードのミヤンがまずは打ってかかっていく。両者、確かに俺を襲撃した時より動きがいいし的確に互いに相手の隙を狙いながら、相手の攻撃をミアンはショートソードで、ミヤンは盾で防ぎつつの打ち合いになる。ミアンもミヤンもほぼ互角である。
「双子とはいっても、ご両親は互いに違う武器が合っていることに気づいていたのね。」
メムが2人の稽古を見ながら感心したように呟く。
2人の攻防は互角であったが、一瞬で均衡が崩れる時がくる。ミヤンが打ち込んだロングソードの一撃を、ミアンが右手のショートソードで下方に受け流す。その受け流しでミヤンが少しバランスを崩しかけたところに、ミアンが時計回りに自分の体をくるりと回しながら左手のショートソードをミヤンに突き立てにかかる。ミヤンが無理な体勢ながら両足を踏ん張って盾で受けようとするが間に合わず、ミアンがミヤンの左胸にショートソードを突き出すと、
「まいった。」
と左斜め前に崩れ落ちながらミヤンが言い
「それまでよ。」
とヘルバティアがほぼ同時に叫ぶ。
ミヤンは
「ああ、くそっ!!。」
と叫び息をあらげ、対照的にミアンは無言で深呼吸して息を整える。
「なかなか見れない攻防よね。ダンはどう思ったのかしら。」
「メム様と同じ感想です。」
俺はミヤンを見つめながらメムの方に顔を向けずにメムの振りに淡々と答える。ミヤンのイマイチな理由はもしかして、と俺は原因に思い当たるがまだ確証がないので黙っていることにする。
「じゃあ次はニシキさんがミヤンと手合わせしてくれるのですか。」
ヘルバティアが俺を見ながらそう聞いてくる。
「ミヤン、このスカしたヤローなんてぶちのめせばいいわよ。」
メムがそう言って野次る。
「あのー、手合わせじゃなくて見るだけなので、そこは勘違いしないでください。」
俺はメムにそう言って聞かせるが、
「ええー、やっぱり戦ってこそ見れることがあるのじゃなくて。」
またまた無責任なメムの発言。
こうなったらメムを完全無視して、準備にかかる。
「ここに予備の軽鎧があれば、ああこれか。あと盾を、この2つを使って。」
俺が準備を終えミヤンと対峙する。
「えー、ダンのその装備はおかしいわよ!。なんでそんな格好なのよ!。」
メムがそう言ってブーイングをするが、
「打ち込んできてください。いいですか、あんなメムの野次は知らぬ顔で結構ですから。」
俺はそう言って左右で大きさの違う盾を持って身構える。
「じゃ、ニシキさんの守りを破るつもりで攻め立てればいいのね。」
ミヤンの表情に好戦的なものが浮かび、いきなり打ち込んでくる。ロングソードが振り下ろされるのでガシッと俺の右の盾で受け止める。
しばらくミヤンの攻撃を受けていると『動きのキレが良くない』と言う原因が少しずつ見えてくる気がする。
「でヤァっ、おおりゃっ。」
気合を入れて俺の守りを破るべく必死に打ち掛かっていくミヤン。
やっぱり、原因は単純なことなのかもしれないが……。とりあえず説明のために、
「いいですか、ここで一旦止めたいのですが。」
「でヤァっ、おおりゃっ。このっ。」
ミヤンは攻撃を続けて熱くなりすぎたのか、俺の発言が全く耳に入っていない。
「ミヤン、一旦止めて。ストップよ。」
ヘルバティアがそう声をかけるが、ミヤンは止まらない。
「ここはこの私が。」
意外なことにメムがそう言いながらミヤンに飛びかかり止めに入る。ミヤンが打ち込もうとするタイミングでメムが横合いから飛び込んできて交錯して、ミヤンとメムが転がってもつれ合い、ロングソードが転がり落ちる。その拍子にメムが爪を立てていたせいか、ミヤンの服と鎧が傷つき、鎧を留めていた革紐が切れてしまったようだ。
「ミヤンさん、一旦稽古止めます。落ち着いてくだ……。」
俺はミヤンに声をかけるが、ミヤンの思わぬ格好に声をなくし動きが止まる。
ミヤンの前が完全にはだけてしまい、豊かな双丘が顕になってしまっていたのだった。
「どうした、ニシキさん、稽古を止めて何があったのか。メムちゃんも飛び込んできてちょっとびっくり……、きゃーーーーーーーっ。」
自分の状況に気づいたミヤンが、けたたましい悲鳴と共に俺に向かって持っている盾を投げつける。それは見事に俺の顔面に命中してしまう。
「ぐはっ。」
そして俺はそのままひっくり返ってしまった。
慌ててヘルバティアがミヤンを隠すように俺とミヤンの間に割って入り、俺はミアンに、
「大丈夫ですか、ニシキさん。」
そう言われながら上半身を起こされる。
「ごめんなさい、ミヤン。止めるつもりがこんなことになるなんて……。」
ミヤンの傍らでメムがしょんぼりしている。
「ミヤン、一旦別室に行きましょう。」
ヘルバティアがそう言ってミヤンを連れて別室に、俺はミアンに半ば支えられながら洗面所まで行き、水をタオルに含ませて顔面を冷やしにかかるのだった。
「ニシキさん、見たわよね。」
状況が落ち着いたところで、ミヤンが修羅の如き表情で俺を睨みおろす。ヘルバティアとミアンがミヤンを宥めにかかっているが、ミヤンの表情は変わらない
俺は正座して小さくなり隅っこにいる。
「見てしまいました、申し訳ありません。」
そう言って土下座をする。
「私が原因だからね。本当に申し訳ないわ。ミヤン。」
メムも殊勝にミヤンに詫びを入れる。一人と一匹の土下座である。
「もう、見てしまったのはしょうがないじゃない。それよりミヤンは熱くなりすぎよ。メムちゃんたちが謝ることはないわよ。」
ヘルバティアがそう言って俺とメムをかばってくれる。
「熱くなりすぎて、止めの声を聞かないミヤンが悪いからこうなったのよ。自業自得よ。」
とミアンはヘルバティアの発言に乗っかりミヤンに追撃を加える。
「だって、だって、こんなことになるとは思わなかったんだもの……。姉さん2人でそんな言うことはないと思うのだけど。」
ミヤンがふくれっ面をする。
「あのー、こんな状況でなんですけどミヤンさんのイマイチという理由、俺が見たところで話をしてもいいでしょうか。」
こんなアクシデントより今は言うべきことを言わないと。
「そうね、見てもらうと言ってたのに、こんなままじゃダメね。ニシキさん、話をしてください。」
ヘルバティアがそう言って俺の話を聞くように手でミヤンを促す。
俺は立ち上がって説明を始めることにする。正座したせいで少し足が痺れているが。
「えっと、ミヤンさん、力が入り過ぎなのじゃないでしょうか。盾で攻撃を受けてみて感じたのですが、力が入り過ぎてかえって攻撃力が落ちているようなのです。」
「え、そうなのか。力入れないと思いっきり振れないだろうが。なのに力があり過ぎて攻撃力が落ちるなんて何か矛盾していないか。」
ミヤンが意外だと言う表情で俺に反論する。
「腕に力を入れすぎると逆に筋肉が強張ってしまって、柔軟な動きがしにくくなります。力一杯握って力を込めて振り回しても攻撃力が落ちるのは、強張ってしまって動きが硬くなり、最後まで振り切れなくなるからです。」
「ダンが言うことはもっともなことだと思うわ。」
メムがまたまた意外にも口を出してきて俺の話を支持する。そして続けて、
「ミヤンは熱くなりやすい性格なのも問題なのよ。熱くなりすぎて力が入りすぎてうまく攻撃が当たらなくなり、さらに熱くなって力が入りすぎてまた攻撃が当たらなくなり攻撃力も落ちるという悪循環にはまりこんでいるのよ。性格面も見直すべきよね。戦闘に冷静さも必要なことよ。だからキレが悪くなるのじゃないかしら。」
「メムちゃんもありがとう。ミヤン、メムちゃんもニシキさんもこう言ってくれるのだから少しは考える必要があるのじゃない。」
ヘルバティアがそう言ってミヤンに言い聞かせる。
「あともう一つ、ミヤンさんの武器は体にあっていないのじゃないでしょうか、俺はそう思っているのですが。」
俺が追加でさらに意見をすると、3姉妹全員が俺を見つめた。




