221弾 これからの特訓にゲンナリしそう
「え、私にあっていないというのはどういうことかしら。」
「両親に教えてもらったものなのですが、ミヤンにあっていないとは。」
「ちょっと、ミヤン、ミアン、落ち着きなさい。ニシキさんの話を詳しく聞きましょう。」
そう言ってヘルバティアが、ミアンとミヤンに静かにするように指示する。
「あっていない、というのは、今使っている武器がミヤンさんにあっていない、重すぎるのじゃないかということです。この刃の部分がない武器はこの特訓所にあったものですよね。」
「そうね、ここでの特訓用武器よ。実際に依頼とかで使うものではないわね。これじゃあ野獣すらも倒しにくいし。」
ミヤンが少し疑問を持った表情で俺に答える。
「実際に使う場合は、この長さで刃がついているのですよね。で、ちょっとその今持っているそのロングソードをお借りしても。」
「いいけど、どうぞ。」
俺は、ミヤンからロングソードを借りて実際に柄を握って振ってみる。見た目以上にずしりとした重さを感じる。
「どうなんですか、実際に戦闘で使うロングソードはもう少しは軽くなっているのじゃないですか。」
「そうだなあ、ニシキさんの言う通りなんだけど、でもこれは使いこなせていないわけじゃないわよ。」
「ええ、俺もミヤンさんが使いこなせていないと言ってるつもりじゃありません。ただ、重さがあるから力が入りすぎてしまっているように思うのです。もう少し軽くしてみたらもっと上手に使いこなして戦闘できるのじゃないかなあとみていますが。」
俺の説明にミヤンもミアンもヘルバティアも少しずつ納得してくれる。
「じゃあ、ダンはミヤンにも何か合う剣はあると思っているの。」
メムが思わぬ質問をしてくる。
「もしかするとあの剣がとは思っていますが、これについては特訓所を出てからの話になるかと。それに俺が思ってる剣がそこらにあればいいのですが。」
「ふーん、ニシキさんは剣についても何か考えていることがあるのですか……。ニシキさんの考えている剣というのは何か教えてくれてもいいのですが。」
ヘルバティアがそう俺に聞いてくるが、
「今は特訓所での特訓を一度終えましょう。そこからでいいですか。」
俺がそう言うとヘルバティアが無言でうんうんと首を縦に二回振る。俺は続けて、
「それに、この3姉妹の中では一番武器について負担が大きいのはミヤンでしょうから。前に俺たちを襲撃した時のショートソードを使った戦い方は、急ごしらえですよね。」
「ええ、確かにニシキさんが言うように、両親が行方不明になって情報を得るためにショートソード二本、ダガー二本の二刀流で、盗賊、シーフのようなスタイルにしていたわ。」
ヘルバティアが少し苦い表情で俺の問いかけに答える。
「ダガーはロングソードと比べるとかなり軽い、その使い分けはミヤンさんには結構負担になっている。重さが違うものを使うのですから、疲労度や体全体の使い方も異なるわけですから。」
まあ、プロ野球で投手と四番打者を同時にやる二刀流よりは負担は少ないだろうが。
「ショートソードは私には合わなかったのよね。だから両親は私に盾とロングソードの形を教えてくれたのよ。」
ミヤンがこれは譲れない、と言う決意を秘めた表情をして俺に言ってくる。
「わかっています。だから俺が『動きのキレがない』と言う理由の根源は、ロングソードが今のミヤンさんに重過ぎることと、ロングソードを使いこなす体の使い方を思い出すことかと。それもあって熱くなりやすいのかもしれませんが。まずは特訓所での特訓後に体に合った軽めのロングソードを探してみるのはいかがでしょうか。」
「……そう言われるとな、じゃあ特訓所を出たら真っ先にそれを探すから、ニシキさんにも付き合ってもらおうっと。」
ミヤンは完全に納得したようである。しかし、
「むー、じゃあ私の方もみてもらいましょうか。ニシキさん、私も打ち込んでみますから何か思うところを教えてください。」
とミアンが言い出すと、
「ちょっと、こういうのはリーダーが先よ、長姉としても私が先よ。」
「ティア姉さん、セコいです。割り込みはダメですよ。」
「じゃあ私も、ダンと稽古してみてもらおうかしら。」
「メム様、あなたとは必殺技開発でさんざん相手したじゃないですか……。少し皆さん落ち着いてください。じゃあ次はミアンさんを見ますから。」
何か頭が痛くなってくるのだった。
「ふぅー、疲れた疲れた……。」
「ええー、私の相手はしなかったのになんで疲れるのよ。」
「ほぼ一日あの3姉妹の相手をしまくっていたのですから、そりゃ疲れるでしょ。」
結局は3姉妹と稽古をすることになってしまい、入れ替わり立ち替わりで3人と稽古をして、さらにはミアンとミヤンの2人と俺でという形で2人対俺1人の稽古もすることになり、帰りのドラキャの中でぐったりとする。
「まあ、あんだけ激しい稽古をしていたら疲れるのはわかるけどね。」
そう言っているメムも3姉妹たちと稽古して、素早い動きで彼女たちを翻弄していた。
「まあ、俺としてもいい特訓になったけど、パワー不足だよなあ。」
「あら、そうは言っても、緩急をつけての動きはなかなか私たちには真似できないです。」
ミアンがそう言ってくれる。
「私の課題の原因も見えてきたしなあ。」
ミヤンも少しご機嫌である。
「3人は魔術の研究の方は大丈夫なのですか。」
俺は3姉妹の使う魔術も研究についても気になって聞いてみる。
「まあ、私たちの魔法は威力の強化は必要ですが。」
「使えて発動できる魔法の種類も限られているので、ニシキさんみたいに全属性を使うことのできるというのもすごいとは思います。」
ミヤンとミアンが順々に答える。
ロッジに戻ってみるともう夕食が置いてあってので、疲れた体を動かしながら配膳して夕食にする。
「自主特訓の期間もあと2日ね。コンディション管理に移らないとね。」
と夕食を食べながらヘルバティアがそう言い出す。
「そろそろ実戦特訓ですからね。」
とミアンが話を合わせる。
「へえ、実戦特訓というのは何をするのですか。」
そう質問しながら、俺は初めて聞くその実戦特訓というのに疑問とイヤな予感を抱く。
「まあ、多分だけど今までの個人対象の特訓からパーティごとの特訓に変わるのよね。」
ヘルバティアがそう教えてくれる。
「へえ、そうですか……。」
「まあ、ここまでのは特訓と言っても軽いものでしょ。ニシキさんにとっても。」
ミヤンにそう言われて、俺はものすごく勘違いをしていたことに気づく。
「はあ、じゃあ自主特訓とか皆さんとタスキマッチやキャッチミーイフユーキャンとかやっていましたが、あれよりこれから激しい特訓があるということですか。」
「当然じゃない、10級のランクアップ試験を受けるのよ。そのための準備の一環よ。この特訓所での特訓は。」
ヘルバティアがそんなのは当然とばかりに言ってくる。それを聞いて俺はメムと顔を合わせるのだった。
「ふぅー、特訓がもっと激しく厳しくなるのかあ……。」
「なんか、……私もダンも大丈夫じゃないような気がしてきたわ……。」
夕食を終えて入浴も終えて寝室でメムとため息をつく。
「特訓内容についてもう少し調べておけばよかったなあ。」
「ダン、今後の予定はわからないのよね。」
「多分ヘルバティアたちはこの異世界にいてある程度の情報はあるからわかるのでしょうけど、詳細な予定はヘルバティアも知らされてないでしょうね。」
「やっぱり10級のランクアップ試験受けるの拒否すればよかったわ……。」
メムがぼやく。
「まあまあ、3姉妹としてはご両親を越えて行きたい欲もあるのでしょう。だから10級のランクアップ試験を受けることにした。それはあるのでしょうから。それに俺たちもこの試験を受けて合格すればもっとあちこちに行けるようになるでしょうし、そうすれば元の世界に戻る手がかりがもっと手に入るかもしれないですから。」
「まあヒントに近いのがあの正多面体の石よね。あれがどこで入手できるのか、あの石がどんな力を秘めているのか、どういう使い方をすればいいのかわかれば……。」
メムがそう言って考え込むが、すぐに、
「ところでダン、ミヤンにロングソードが体に合っていない話をした時に『俺の思っている剣』の話が出たけど、もしかしてダンの考えている剣って。」
そう言って話題を変えてきた。
「……まあ、日本刀みたいな形状をイメージはしていますが。」
俺も話題の変更に少し驚きながらメムに答える。
「なければどうするの?。」
「まあ、特別に作ってもらうことも考えますか。」
「ふーん、そこまで考えているのね。」
「しかし、特訓は続くのですよね。少しキツいですね……。」
俺は冒険者ランク10級へのランクアップ試験の内容について書かれたメモ紙を見ながら、大きくため息をつく。
「3ヶ月以内に、強獣15体以上もしくは狂獣2体以上を退治すること、イダーゴンの葉を1人あたりで3カロガラム集めること、組合本部長及び警備隊総隊長の推薦する者と戦闘で勝つこと、この3つをクリアするための特訓というけど、本当、こんな試験内容……。」
メムも横からそのメモ紙を覗き込んでため息をつく。
「まあ、互いにため息ついてもしょうがないので。」
「ええ、もう寝ましょう。おやすみ、ダン。」




