204弾 こんな手段で逃げ切ろう
「でもどうしてこのタイミングで魔法を発動させて捜索するなんて手を使い出したのかしら。」
メムがロッジの外での俺の探し物の捜索に付き合いながら疑問を述べる。
「もうすぐ終了時間にも近づいていますからね。時間がなくなってきたのでその手に切り替えたのでしょう。」
「やっぱり地図をかっぱらったことが大きいのかしら。」
「それもありますし、武器を手に入れたことも大きいですから。」
「抜身のままとはいっても、やっぱりあると便利なのね。薮とか払うのには便利よね。」
「盗られた側がこういう使い方してると知れば、かなり落ち込むでしょうけど。」
「ああ、ミヤンはかわいそうに……。」
「メム様、そんな言い方しないでください。俺がとんでもなく悪役に見えるじゃないですか。」
「あら、ダンの思考、行動をかたわらで見てるとそう思えてくるわよ。」
「そんな………、こっちはサバイバルに必死なのですから。おお、これこれ。」
よし、これなら使えそうだな。ややボロいがこの2つは使えそうだ。そしてこのロープでと。
「え、何してるの。ガラクタぽいものを見て探していたけど、なんでそれを修理をするのかしら。ねえ、ねえ。」
「では、ルールに従いさっさと行きますか。」
「え、ちょ、ちょっと待ってよ。説明してよ。」
ロッジ外から離れて茂みの方に向かう。
「じゃあ歩きながらで、いいですか。メム様。」
「いいわよ、教えてよ。」
「まあ言うなれば、保険ですね。用心のためですよ。」
「そのボロくなった桶2つがなの?。」
「まだ使えますよ。リサイクルしたいのですから、いやリユースか。」
「どうだっていいわよ、リユースでもリサイクルでも。」
このボロ桶は取手が取れているが、それは古ロープの一部を使って持ち手にしている。
「どうですか、かなり近づいてきているのではないですか。」
「そうね、かなり威力の高い魔法を発動させて撃っているようね。」
メムがそう答えた瞬間、ズンと腹に響く低く大きな音がしてくる。そして生暖かい風がびゅっと俺たちに向けて吹きつけてくる。その後に漂う木や草が焦げたような臭いと空気の焼けたような臭い、こうなってくるとなあ。
「メム様、3姉妹たちは俺たちからどのくらい離れているのかわかりますか。」
「ちょっとすぐには、…………1000マータルは切ってるわ。しかし、私たちを囲みつつあるみたいね。」
さすがにすぐにはわからないとはいえ、ある程度の距離はわかるのはすごいな……。単位を地球の単位で言うところは少し落ち着いていないからか。でもやっぱり俺はメムに感心している。
そう思いながら少し進むと予想外にも冷気を感じる。
「少し冷えてきてるわね。気候の変化、……じゃないわね。うう、寒っ。」
メムがクンクンしながら何かを嗅いでいたが、そう言って少し身震いをする。
「……まさか、距離を詰めてきたとか、でもなさそうだけど。」
俺はそう言いながら冷気の元を辿るように視線を左側に送ると、その視線の先の方では空気が薄白くなっていく。
ここは全力で逃げて彼女たち3姉妹から離れるべきか、それとももうここでメムと別れて埋伏の毒の作戦を実行するか、判断に迷ってしまう。
しばらく判断に迷いながら、早足で前方に歩みを進めるが、どうも心が落ち着かない。何かが変な感じである。
日の傾きとか影の長さを見ると後2時間ぐらいで夕食時間になりそうか。もう少しなんとかできるかも知れないがやはり頃合いか、闇雲にメムと走っているが体力も落ちてきている。
「やっと追いついたわ、メムちゃん、ニシキさん。」
そう思っているところに後ろから思わぬ声がかかる。この声は……。
やむを得ず、足を止めてゆっくり振り返ると、なぜかヘルバティアの姿があった。
「い、いやー、どうもお疲れ様です。」
我ながらなんて間抜けな挨拶だろうか。しかし、どうやって追いついたのだろうか。メムの鼻で結構距離が離れていたと言っていたのに。
そう思いながらヘルバティアを観察すると、何か匂う。この匂いってなんだ。
えも言えない甘い香りでありながらシトラスのような香りも持っていて、若々しい草の青臭い香りも含んだ香りがヘルバティアから吹き出しているような感じである。
それに、……え、長杖に持ち替えている、いつの間にだ。いや、あの特訓が始まった時はミヤンは短杖しか持っていなかったのに。
あ、もしかしてこの特訓開始からずっとヘルバティアが3人分の長杖を持っていたのか……。
そう考えていると、
「どうするの、追いついたわよ。まもなくミアンもミヤンも追いつくからね。」
「もしかして、何か香水をつけてメムの鼻を嗅覚を狂わせたとかですか、杖も長杖を持っているとは思わなかったです。」
「さすがね、よく見抜いたわね。前に最初に師匠にあなたが会った時、香水の匂いで変装を見破ったって言ったことを思い出したのよ。だから全く違う匂いをつけて感覚を狂わせたのよ。メムちゃんには悪いけど。杖は開始時から私が3人分持っていたのよ。」
俺が考えた通りか、しかし、うーん、まさに一本取られた気分だ。もうこうなったら少しタイミング的にはキツいかも知れないが、
「よし、よし。」
そう言って、俺はメムを置いて一気に逃げの一手にかかる。それと同時に埋伏の毒の作戦を開始する。
メムは演技かよろめきながら、ヘルバティアのところに一散に向かい、
「ああ、ヘルバティア。」
そう言ってヘルバティアにジャレつきかかる。
「いやー、メムちゃーん。」
案の定というか予想通りというかヘルバティアがメムに抱きつく。
それを見ながら俺は後退りして一気に踵を返して逃げに入った。
「ヘルバティア、ヘルバティア、ヘルバティア、ヘルバティア、ヘルバティア、ヘルバティア、ヘルバティア、ヘルバティア……。」
「メムちゃん、メムちゃん、メムちゃん、メムちゃん、メムちゃん、メムちゃん、メムちゃん、メムちゃん……。」
抱きつきながら互いに名前を連呼し合っている声がするのを耳にしながら、俺は必死で逃げ出している。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ……。」
なんとか逃げ出して、川べりに着いた。ショートソードと地図は持ったままなので、ショートソードと桶2つを地面に置き、地図で自分のいる場所を確認してから地図はポケットにしまい、川べりの周りの泥を桶に入れていく。
「これは、いい香りだな。これにするか。」
2つの桶に半分ほど泥を入れると、次に杉っぽい木の針状の葉をショートソードで剥いで、小片にすると足元と手元に塗りつける。少しはメムの嗅覚をおかしくできるかな。
しかしこのショートソードは便利だな、スコップ代わりにできるし、切り払いにも使えるしな。その後は生えている草を先端を2株束ねて結ぶ。小さな草のアーチができる。まあ、引っかかってくれたら御の字であるが、そんなものは子供騙し程度である。
その後俺は、ススキのような草を切り取って服のあちこちに付けて茂みに潜り込む。茂みに偽装するのである。
メムはうまく時間を稼いでくれるかな……。そう思いながらしばらくじっとしていると、
「メムちゃん、大丈夫。」
ヘルバティアの声がする。
「いいのですか、メムちゃんに追跡させて。」
とミアンの声がする。
「まあ、メムちゃんのあの因業な飼い主じゃこうなるだろうさ。」
とミヤンの声がする。ひどい言いようだな、おい。
というか、メムはあまり時間稼ぎにならなかったか……。
「いいのよ、ここでの特訓所の特訓が終われば、メムちゃんに私の手料理をいーっぱい、いーっぱい食べさせてあげるわ。甘味料理を中心にね。」
なるほど、買収されたか………、やっぱりな……。女神の意地とかはどこかに行ってしまったようである。食い意地を張りすぎないとも言っていたが……。
じゃあこうなったら、最後に一発勝負だ。
メムが3姉妹を連れて俺のいる茂みの前に近づき、
「ここね、ダン。もうあきらめた方が良いわよ。」
と言った瞬間、俺は茂みから桶を持って立ち上がり、3姉妹目掛けて桶の中の泥をぶちまける。
「え、きゃーっ。」
「えー。なにこれ。」
「ぎゃー、うそー。」
「ちょっとー。」
メムも巻き込んだようだがこうなったら、すかさずもう一発だ。
2つ目の桶も掴んでもう一度ぶちまける。
3姉妹とメムは哀れにも泥まみれになってしまう。
逃げる体勢になり3姉妹とメムに尻を向けて、空になった桶2つを思いっきり空に投げ捨てる。そのまま一気にダッシュする。ここまできたら逃げ切ってやる。
しばらく走っていると、ヒューと音がしてのろしが上がる。
審判役のガーワンバーさんが、
「もう止まってください、特訓終了です。ニシキ様の勝ちになります。」
と声をかけてくる。
「え、終わりになったの?。」
俺が足を止めて確認すると、
「はい、追いかける側の方から降参の意思表示がありました。今上がったのろしがその知らせになります。」
と審判役が言ったのだった。




