203弾 このガラクタで逃げ切ろう?
「ま、そういうことです。多分ミアンが怪しいと思われるところには火属性魔法を発動させて撃ち込む、そして様子を見ながら、ミヤンが火事になりそうなら水属性魔法を発動させて消火するなりすれば、少々焦げ臭い匂いと煙だけじゃなく湯気も上がる。」
「じゃあそうなるとヘルバティアがミアンとミヤンをコントロールしてるということかしら。」
「おそらくそうでしょう。視界の確保はヘルバティアの風属性魔法でどうにかする。」
目的の場所に急ぎ足で歩きながら会話しているが、そのうち気持ちが急いで小走りになる。
結局最後は、目的の場所であるコテージに最も近い洞穴へ駅伝のラストスパートのように駆け込むことになる。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ………。」
「なんか焦っちゃったわね、ゼェゼェゼェ、ふぅふぅふぅ………。」
両者とも息切れしてしまう。しばらくは深呼吸をしながらゆっくり歩いて息を整える。ついでに心も整える。
「さて、もしかするとここら辺りで最終決戦みたいな感じになるかもしれませんね。」
「採集決戦?、何を採集するのかしら。」
「え、……あの3姉妹とやり合うことになるということですが、時間的なものを考えると最後に戦闘することになるのではないかと。」
「ああ、最終決戦の方ね、大仰に言うからちょっと勘違いしたわよ。まあ、ここであの3姉妹とバチバチにやり合うということね。うーん、闘志がわいてきたわ。まさに闘志溌剌、◯ロナミン◯、というところかしらね。」
なんかどっかで聞いたような言葉が出てきているが……。
「燃え上がってくれるのはいいのですが、メム様単騎であの3姉妹とやり合えますか?。」
「あんなのに遅れをとるわけじゃないでしょう。地球の女神として。」
「おお、頼もしい。この特訓所にきてから何か変化してきてますね。」
「そうよ、ダン。今のこのメム様は一味も二味も違うのよ。任せてちょうだい。あの3姉妹相手に暴れてやって、ヤバくなったらヘルバティアに媚びて泣きついて寝返ってやるのだから。」
おい……。この元女神猫は……。
「……寝返る気満々じゃないですか。わいてきた闘志とやらはどうなったのですか……。」
あまりもの馬鹿らしさと阿呆らしさに俺はガッカリして崩れ落ちて四つん這いになる。
「何よ、裏切り、寝返りは乱世の常よ。当たり前じゃない。有利なところにつくのは常識よ。」
今ここは異世界で、日本の乱世じゃないのですが……。俺は大きくため息をつく。
「ああ、ここにきてそんなことを言うなんて……。」
半分泣きたい気分であるが。
「だって、魔法が、魔弾が使えないダンが圧倒的に不利じゃない。決戦だと言っても戦力的に勝てる要素が一つもないのだったら、無謀に突撃して散るのか、一気に後退して逃げまくるしかないでしょう。そうなったらねえ。」
「いいですかメム様、俺の敗退はメム様の敗退にもなりますから。そもそも一昨日の夕食がメム様も一緒だったのは俺が飼い主である益獣とみなされているからですよ。もしメム様が寝返ったとしても俺の敗退はそのままメム様にもはね返ってきますから。当然夕食は……。」
「よーし、ダン。勝つための手を考えましょう。」
以前に食い意地を張りすぎないとかどうとかいっていたが、結局はなあ……。
まあ、メムの弱い心を把握したところで、どうにかして逃げ切る作戦を考えないといけないだろうからなあ。しかし、どうしようか。
「勝つための手、か。」
「何、どうしたの、えらく弱気を見せて。」
「そりゃ、思いっきりこんな場で寝返るなんて公言された日にはですね……。」
「やーねー、冗談よ冗談。さっきの発言は軽いジョークよ。そこはサラッと流してくれればいいから。今まで一緒にやってきたのにこんなところで寝返るなんてそんなことないじゃん。」
いや、ジョークに聞こえなかったから、本当。
「ふぅー、寝返る気、満々だったくせに、……いや、寝返ってください、こうなったらヤケのヤンぱちで寝返ってください。そうだ、その手で行ってみるか。」
メムが目をパチクリさせたあと、首を右に傾げて、
「……はあ?、どういうこと?。ダン。」
「どうせなら悪用しますか、うん、悪用しちゃおう。」
「何を悪用するのかしら?。」
「ただ、とりあえず追いつかれるまでは逃げ続けますが、そのうち追いつかれるでしょうから、追いつかれてしまった時点で寝返ってください。」
「ちょっと、本気で言ってるの?。さっきの発言は本当に冗談だからね。そんな信用ないのかしら、私。」
そう会話していると焦げ臭い匂いが近づいてきているようで、一度洞穴の外をうかがう。うーん、段々3姉妹が捜索範囲を広げつつ俺たちを追い詰めているようだが。湯気と煙もこっちに近づいてきているようである。
「……ねえ、結構威力を上げ目にしているような気がするのだけど。発動範囲も広げているようだし、そうなると当然、捜索範囲が広がるわけよね。」
「ええ、そうですね。でもロッジに向けては発動できないでしょうし、発動しづらいでしょう。精密なコントロールは必要でしょうから。」
「ああ、だからこの場所を選んだのね。」
「その隙に時間を稼げばいいのですから。」
メムは一瞬納得の表情をするが、
「でも戦力差はいかんともし難いのじゃないの。」
「そこで、メム様にご活躍していただくわけです。ある意味最強の囮として。」
「ふーん、最強の囮ってむやみやたらに乱用していないかしら。」
メムが目を見開き俺に詰め寄る。
「そんなことないですよ。俺がよしと言ったら、寝返ったふりをしながら、ヘルバティアのところにまっしぐらに駆け寄って甘えまくって媚びまくって、彼女を骨抜きにしてください。とりあえずそれだけでも時間は稼げるでしょう。」
「うーん、そんなにうまくいくかしら。」
「多分、次はメム様を使って俺を捜索させることになると思いますので、演技力でもってうまく別の場所に誘導してください。メム様ならそういう演技は十八番おはこでしょう。アカデミー賞ばりの名演技を期待しますので。もしうまくいけば、内部分裂を起こしてもいいですよ。」
「ダンってこういう悪知恵はよくはたらくわね。」
「失礼な、これは古来のそう、三国志の話にもあった埋伏の毒という計略の一つですよ。」
「ふーん、あの伝説の赤壁の戦いで諸葛孔明が使ったといわれる計略よね。でもどう見たって、ダンが諸葛孔明には思える要素が一つもないのだけど……。」
「でも、これで時間を稼げば、俺のいや俺とメム様の勝利となって、食事がマシにはなりますよ。」
「ふん、私がいつまでも食い意地につられると思わないことね。……よし、やるわよ。どこぞのハリウッドスターを青ざめさせるくらいの名演技、やってやるわよ。」
とんでもなく手のひら返しが上手いこの元女神猫に、半ば呆れ半ば感心しつつ洞穴からゆっくり出ていく。
しばらく早足で歩いていると俺たちの後方で爆音が響き渡る。そろそろ追いつきそうになってくるか……。じゃあ、ロッジに向かって歩みを進めてやる。
ロッジに向けてしばらく早足で歩いていると、後方からダッシュで審判役のガーワンバーさんが俺に追いついてきて声をかける。
「もしもし。まさかとは思いますが、ロッジに入って戦闘するのは禁止になっています。お伝えしておきますね。」
「はい、わかりました。大丈夫ですよ。ロッジに入って戦闘するつもりじゃありませんので。ロッジ付近に転がっている物品、ガラクタは使ってもいいのですか?。」
「ええ、それはいいですが、目的を果たしたらロッジからすぐに離れてくださいね。」
「はい、ありがとうございます。」
「では、失礼。」
ガーワンバーさんとやりとりを終えると、すぐにガーワンバーさんは俺たちの視界からどこかに消えてしまう。
よし、審判の了解を取ったしな。これでもう一つ手を打てるか。俺は内心でニヤリとする。




