202弾 さらに必死で逃げてみよう
「まあ2日目になったわけですし、追う側はさっさと捕まえたいでしょうからね。」
「焦っているかもしれないわよね。で、逃げ続けるのね。」
歩きながらメムとの会話である。夜を過ごした洞窟を離れて別の場所に向かうところである。
「まあ、本日の夕刻までを目処に逃げ続けるのが一番の手でしょう。」
「偶然鉢合わせる可能性もあるわよね。」
「その時は強行突破ですね。」
抜身のショートソードをメムに見せながら言う。
「でも、グリーンヒルダイルの死体を投げて動きを止めるなんて、思いつかなかったわよ。」
「おかげで、地図と武器をかっぱらうことができました。」
「ミヤンはかなり凹んでいるでしょうね。」
「それで足を引っ張ることにならなきゃいいのですが……。」
「まあ、この特訓でダン、あなたに立て続けに煮湯を飲まされているようなものだからね。あなたへの恨みはかなりあるのじゃないかしら。」
「まあ、俺を恨むんなら恨んでもいいのですが。」
まあ自分の能力のなさを恨むべきなんじゃないか、とは思ってもミヤンやヘルバティア、ミアンに口に出して言っちゃダメだろうが、はっきり言ってあげるのも成長を促すことになるかも、と俺は少し悩む。と、その時、
「ねえ、もうしばらく進むと獣の気配よ。この感じは、バフロッグね。」
「避けて進みましょう。」
「えー、またダンが一発唸りをあげて音痴の力を見せてやればいいじゃない。」
「下手に大音量を出すと、3姉妹に気づかれる可能性が大きいですから。というか音痴の力ってひどいこと言いますね。」
「まあでも、今の状況じゃダンに歌わせる必要性はないわね。」
「わかってて言いましたか、今のは。」
「さあ、迂回ルートはこっちよ。」
シレッとはぐらかされたようである。
「うん、ここかしらね、ちょっと地図を見せて。」
メムに言われて地図を見せると、
「うん、ここね、間違いないわ。」
「じゃあ、しばらくここでゆっくりしますか。メム様、体調はいかがですか。」
「まあ、疲労はあるけど、戦闘に支障があるほどではないから。」
「頼もしいお言葉です。」
「何、やっとダンも私の力のすごさと成長に気がついたのかしら、フフ、え、ちょっと待って、もしかしたら私、女神として、地球の女神としてこの異世界トゥーアールで無双状態に覚醒するのかしら、フフフフ。」
「はいはい、妄想するのは勝手ですが、それは今ここではしない方がいいかと。」
たまに褒めると変に暴走するなあ、この元女神猫。
「むー、で、どうするの。ここでしばらく休憩ということかしら。」
「そうですね。ここまで来たら移動し続けて、どこかの洞窟か洞穴で昼食をとって、また移動し続けることになるでしょう。それに戦闘は避けたいですね。ミヤンを倒せたのはある意味まぐれに近いところはあるので。」
「まあ、ダンの装備は今そのショートソードだけだからねえ。魔術の使用ができないし。」
「まあ原点に戻った感じはしますが……でも戦うにはキツいですよ。」
俺も素手ゴロでも戦い方を考えながらなら、それなりに戦える自信はついてきているが、もろにフィジカル勝負になる正面切っての殴り合いのような戦いは無理なことはわかっている。戦術的に不利をカバーできる範囲と、戦略的に不利をカバーするのは意味が全く違うからな。
またしばらく休憩した後、
「じゃあ、次の場所を探しますか。」
地図を広げながらメムと相談することになる。
「少しパターンを変えてみましょうよ。『済み』と書かれているところの洞窟、洞穴ばかりだったけど向こうもそろそろ『済み』のところをもう一度捜そうと思っているのじゃないかしら。」
とメムが提案してくる。
「そうですね、俺も実はそれを考えていました。」
どうやら意見は一致したようである。顔を合わせてお互いにニヤリとして、地図を片付け立ち上がり次の場所へと移動を開始する。
しばらく歩いていると、遠くから妙に焦げ臭い匂いが漂い出す。
「ちょっと用心しますか。もしかすると山火事か野火が発生しているかもしれませんね。」
「そうね、……クンクン………、確かに焦げ臭い匂いがしてるわね。」
目を凝らして見るが、煙がどこかで上がっているような気配は見当たらないが……。
「行く先の方角ではないでしょうけど、どうですか、メム様。」
「そうね、…クンクン……このまま進んだ方がいいわね。」
とりあえずはメムの勧めに従うか。
少し急ぎ足で進んで目的の洞穴へ。あまり奥行きはない。
「ねえ、どうするの、ダン。火事の心配はしておいたほうがいいと思うけど。」
「それはそうですが、まず昼食にしましょう。それに審判役が俺たちを見ているのですから、何かあれば中止なりの指示は出ますから。」
「あ、そう言われればそうか。しかし審判役うまく隠れているのね。感知はするけど。」
「しかし、審判役も大変でしょうね。まあそれは気にせずに行きましょう。」
と会話しながら昼食にする。
「やっぱり、食事は温かいものを食べたいわね……。」
「それは言わないお約束でしょう。この状況だからというのもありますから。」
「……そうね、食い意地を張りすぎない、と言った手前ね……。」
「メム様、今、それを言わなきゃよかった、公言しなきゃよかったって思っていませんか。」
「そ、そんなことないじゃん。気合いと根性でなんとかするのよ。」
「……まあ、無茶はしないでください。あと俺を食い意地のために巻き込まないでください。」
「ちょっと!、もう少し言いようってものがあるでしょ!。頑張って、とか。」
小声の会話ながらメムの語勢が強くなる。
「……いや、俺に何を求めてるのですか……。」
「まあ、こうなったらこの特訓でも、なんとしても一位の成績を取って豪華夕食をゲットしましょう。」
「メム様はいいですけど、俺としては、あの視線を複数浴びながら食事しずらいのですが……。」
ハンデとかいうが、あの視線にさらされて食事すると、味わう余裕すらないのだが。
なんやかんやの昼食をそそくさと終えて、水分補給もして、洞穴の外の様子をうかがう。
「煙が上がってますね。メム様、少し早いですがここを離れましょう。」
「え、……クンクン…、あれ煙じゃなくて湯気じゃないの?」
「へ、湯気ですか。……なるほど、言われてみれば。」
確かに煙はもっと上がると焦げ臭い匂いがするが、あれはスッと消えていく。水蒸気の場合は気体になった水が空気中で冷やされて液体に戻るのでスッと消えると中学生時代に教わったような気はするが。
ふと俺は一つの可能性に気づく。
「メム様、ロッジに最も近い場所にある洞窟か洞穴を探します。」
大急ぎで地図を広げて、メムと確認して、すぐに地図をしまい立ち上がる。
「どうかしたの、火事の気配はない感じだし焦げ臭い匂いがするのは、これは、小火なのじゃないかしら。」
「いや、もっと早くに気づくべきでした。まず急ぎここを離れましょう。」
「ええ、いいわよ。じゃあ、こっちの方角ね。」
メムがそう言って俺と共に早足で移動を開始する。
「で、どうかしたのかしら。ダンが焦るなんて。」
「いいですか、彼女たち3姉妹が魔法を使い出したとしたら。」
「え、もしかしてあの、補佐官を護衛した時に、確か……トテポの滝で3姉妹が使ったあの『アレ』をというのかしら。」
「まあ、『アレ』は連発しずらいでしょうし、在不在の確認に使うには大仰すぎるでしょうけど、それに近い感じで魔法を使ったとしたら……。」
「私たちをいぶり出すようなことをするのかしら。ああ、ミアンは火属性の魔法を使っていたわね。そしてミヤンは水属性の魔法を、あー、そういうことか。」
早足で歩きながらの会話でメムも気づいたようだ。




