193弾 特訓をする準備をしよう
「いや、この機会での能力向上を主眼にしたいの。私たちのためにも。」
そう言って、俺とメムの反対表明に対して反論にかかるヘルバティア。
「ランクアップ試験を受けるのは、このパーティ華束舞踏のメンバーの能力向上の結果を測ろうと思っているからよ。多分ニシキさんが言うように試験には時期尚早かもしれない。けれど、試験を基準にしてどのくらいの能力かを把握はできるのじゃないかしら。試験をクリアできなくて撤退することも含めて自分自身を観てみるのもありじゃないのかしら。どうかしら、ニシキさん、メムちゃん。」
「……ティア姉さん、そこまで考えているのですね。」
「さすがティア姉さん。」
ミアンとミヤンの双子妹たちは感心しているが、
「一番の問題はそのヘビースネークをどう対処するかでしょう。今までの話を聞く限りでは、初撃を高額装備品で受け流すか、または初撃をかわすか、まあだから囮役に初撃を受けてもらう対処策もあったのでしょうが。しかし、それに遭遇しないでそのイダーゴンの葉を採集していく方法でもあればいいのですが。」
「ヘビースネークに関してはニシキさんの言う通りだから。それはよくわかっているわ。確かにヘビースネークを倒したパーティの話にも、初撃をどうするか、そのあとは動きは鈍くなるところを攻撃するとは言っていたのよ。ただ体力も打たれ強さもかなりのものだから。」
「時間をかけ過ぎると別のヘビースネークが襲来することもあるかもしれない、ということかしら。」
俺とヘルバティアの問答に、メムが渋い表情でそう聞いてくる。
「その時は逃げるほうがいいでしょうね。でも試験まで特訓所で能力向上に励んでみてから、ランクアップ試験を受けたほうがメリットの方が大きいのよ。」
うーん、ヘルバティアは間違ったことは言っていないが、何か足りない気もするのだよなあ。
「ところで、私がこの試験に参加して重要な役をしたらどうなるのかしら。」
メムが変な質問をしてくる。
「メム様、何か思ったのですか。今までランクアップ試験をメム様と一緒にやってきておいてこのランクアップ試験のときだけメム様を使っちゃダメなんて聞いたことはないでしょう。そうですよね。」
「益獣のいるパーティで試験を受けちゃダメということはありませんが……。」
俺の確認にミアンは試験の規約を思い出しながら答えているようだ。
「まあ、メム様の嗅覚に頼るしかないのかもしれないですが、メム様が真っ先に襲われると危険ですね。」
俺の話に対してミヤンが
「益獣をおっぽり出して撤退したパーティもあるからなあ……。」
と一言。
それを聞いて
「ダン、あなた、そんなことをしたらどうなるか、わ。」
「はい、そんなことをしたら元の世界に戻ることが難しくなりますから。それにメム様の力に助けられてきていますので。」
俺は、メムのセリフに被せ気味に答えるとメムが
「まあ、分かっているのならいいけど……。」
と呟く。
「俺もなんだかんだ言いましたが、リーダーの決断には従いますよ。いろいろやってみるつもりですね。」
俺がそう言うと、ヘルバティアが大きくうなずいた。
話を終えて自部屋に戻ると、早速特訓所に行く準備を始める。
そんな俺を見ながらメムが、
「ずいぶん慎重論だったような気がするけど、宗旨替えしたようね。どうしてまた。」
と聞いてくる。
「それはメム様もでしょ。」
俺もそう言って逆に聞き返す。
「まあね、ヘルバティアの言うことも一理ある、と言うところかしらね。」
「まあ俺は自分の中身が50歳の中年親父であることを実感しましたからね。」
俺がそう言うと、メムがキョトンとする。
「は、………どういうこと?。」
「俺が慎重になりすぎていたのじゃないかな、ということに気づいたから、というところですかね。どうも若い者の言うことにストップかけすぎているのじゃないかと……。」
「ふーん、えらく弱気な様子ね。」
少しメムがニヤつきながら俺を挑発するように言う。
「……まあ、あのヘビースネークという獣の対策を考えてみたのですが。」
「何か必勝の策でも生まれたのかしら。」
「メム様頼りになりすぎる気がして。」
「何ー、やっぱり私が頼りなのー。もう、それはもっと言っていいのよ。」
そう言ってメムが表情をだらしなく崩す。
やばい、調子に乗り出したか。そう俺が思ったところで部屋のドアがノックされる。
ドアを開けると、そこにはミアンがいた。
「あのう、部屋に入ってお話してもいいですか?。」
「何も出すものはないですが……。」
「では、お邪魔します。」
ミアンは俺の小ボケを無視して自部屋に入り込む。
「………………。」
部屋に入ったが、何か言い淀んでいるのかミアンは口を開かないままである。
俺はメムと顔を合わすと、
「もしかしてさっきのランクアップ試験への俺たちの慎重な意見での話ですか。」
と聞いてみる。
「ええ、ずいぶんと慎重論というか、ニシキさんもメムちゃんもやっぱり時期尚早の意見なのかなとは思っていましたが……。」
意を決して口を開くが、後の方はゴニョゴニョした言い方になる。
「もしかして迷っていたの、ミアンは。」
メムが聞いてくる。
「はい、ティア姉さんの意見にもニシキさんとメムちゃんの意見にも一理あって、対立した感じだったのでもう少しニシキさんらと話をしたいなと……。」
深刻そうな顔でそう言い出す。
「うーん、そんな対立しているように見えましたか?。俺は、もうヘルバティアの考えには賛成ですよ。特に試験を基準にしてどのくらいの能力かを把握はできるのじゃないか、試験をクリアできなくて撤退することも含めて自分自身を観てみるのもありという考え方にはものすごく賛成ですから。ただ、用心するべき点を強調しすぎたかもしれません。」
「えっ、そうなのですか。」
「さっきも、俺とメムでその慎重論について反省していたところですから。」
「ええ、そうね。このダンが妙にしおらしく反省してるのだから。ミアン、気にしないでね。ヘルバティアの判断に従うわよ、私たちは。」
それを聞いてミアンがものすごく安堵した表情になる。
「そうでしたか、安心しました。すごく安心しました。」
その時、ドアがノックなく開けられて、ミヤンが入ってくる。
「ミアン姉さん、ニシキさんとなんの話をしてるの。」
「ああミヤン、さっきの話し合いで気になることがあったから、ニシキさんとメムちゃんに確認していたのよ。」
「ふーん……、でももうすぐ昼食だからね。」
「ああ、それで呼びにきたのですね、ミヤンさん。」
俺がとりあえずそう言ってみる。
「あ、ああ、ええ。」
「何、ミヤン。私を何か疑っているのかしら。」
「まあ、本当に全く何もないからね、ミヤン。このダンにそんな甲斐性もないから。見ててわかるでしょう。」
メムのフォローは何か俺にキツく刺さってくるような気がするのだが……。
ミアンとミヤンが自部屋を離れて、少しホッとする。
「まあ、どっちにしてもヘビースネークを基準に魔弾の新開発をしなくちゃな。それにどう戦うかも考えないと。」
「じゃあ特訓所でそれもできるかもしれないわね。」
メムは期待を含んだ声で俺に言うが、ヘビースネークのどんな属性の魔法を発動させてくるか全くわからない、という話が俺の脳裏をよぎって離れない。ヤベア種のように毛色で魔法属性がある程度わかるものならまだいいが、ヘビースネークのように魔法属性の不明な獣はどう攻めるか、前からそういう課題は出てくるかもとは思っていたが、いざ現実になるとなあ……。うーん。
「昼食に行くわよ。」
メムがそう声をかけられたことで、俺は我に返り昼食に行くことにする。




