15.5話
もう、ニコラスったら。いつかの意図返しって訳ね。うんうん、それじゃあ聞いてくれるかしら。私がハリム様の頬を思い切り平手で叩いてしまった理由を…。
昨晩、まだそんなに遅くなかったかな。私は自分の部屋で、今日の講義の復習をしていたの。……え?本当かって?いいえ、今は本当かどうかっていうのは関係ないわ。……うん、今度、勉強付き合ってね。
そうしていたらね、寮の外がザワザワし始めたの。だから、なにかなぁって覗きに行ったんだ。そうしたら、ハリム様がニコを、こうやって抱っこして……そうよ。抱っこしてたの。ええ、ハリム様が、ニコを。
でね、ハリム様がニコを抱っこして立っていて、こんなこと言うの。
「誰か、ニコラスを部屋まで連れて行ってくれないか」
って。けれど、寮生のみんなは遠巻きでザワザワしてたけど、誰も前に出れなかったのよ。だってハリム様の言うことでも、ニコを部屋に連れてくって。なかなか複雑な問題を投げてるんだもん。
だから私がね、前に出てハリム様と話したの。みんなに見られながらっていうのは、少し嫌だったけれど、ニコが気を失っているみたいで心配だったし。
ハリム様からニコを渡された時は、気を失ってたんじゃなくて、ただ眠ってるだけって分かって安心したの。けど、匂いがきつくて。あれ、なんの匂いだったの?ま、無理には聞かないけど、ちょっと頑固な匂いね。あとで匂い消し持ってくるから使ってみるね。
それでね、やっぱ気になるじゃない、何があったのか。なんでニコが寝てるのか。なんでハリム様が抱っこしてるのか。だからハリム様を相手に緊張したけど、ちゃんと聞いたの。“何をしてたんですか”って。そしたらね……。
「……言えないんだ」
だって!なんなのよ!もー!かっこつけちゃってさ!一気にハリム様の株が落ちたわよ!ちょっとは説明してよ!って思うじゃない?
でも、そこは我慢したよ。“そうですか”って。立場が私とは全然違うもの。言えないことだってある。それは分かるの。けれど、初めから一つ気になってて、それも聞いた。“ハリム様にとってニコは何ですか”って。あ、そんな変な意味にじゃないよ?そしたら返ってきたのが……
「剣でもあって、盾らしい」
それ聞いてね、この右手がね、パチーンって。こう、思いっきり振りかぶってね、振り抜いちゃった……ハリム様の顔を。そして言っちゃったの。
“私の友達は道具じゃない!”
ってね。大きな声で。もう失礼どころじゃないじゃない。女性を道具扱いするなんて、どんなに顔が良くて、どんなに優秀でも許せないわ。
でも、一瞬だけ怒ってね、ザワザワしてた周りが静かになったの気が付いたら、急に恥ずかしくなっちゃって。突然叩いたのも、とても失礼だったし……。そしてね、ハリム様は叩いたことも怒らずに言ったの。
「起きたら、俺もお前もまだまだだな、と伝えてくれ」
さっき伝えたよね。こういうことなの。“はい”とだけ答えて、気まずくて。その場を離れようとしたらね。
「君、エリザ、だったな。……覚えておく」
って言いながらね、私が叩いた頬を撫でながら笑っていたの……。絶対怒ってるよね。絶対に怒ってるよね?笑い事じゃないよ。私の将来にも関わってきちゃうかも……。
だからニコ。一緒に謝ってぇ……。




