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14話

 西区の北側、貴族街に近い骨董品店。そこの店主、アマンダは4年前に夫を亡くした。いや、殺されたとアマンダは考えている。一人の貴族の不興を買い、度重なる嫌がらせが続いた。


 アマンダの夫は懸命に、誠実に働いていた。けれど、誠実過ぎた。買い手が決まった品を、貴族に売らなかった。それから客は遠のいた。暮らしもままならない。その中で夫は自死を選んだ。本当に自死だったのかすら怪しい。


 だからアマンダは王国を恨んだ。今も“協力者”が王国を弱らせる計画を進めている。先まで権力側にいた、いけ好かない男を匿うのは、内心では納得いかない。それでも王国のためにならないならばと受け入れる。


 “協力者”が何者かは知らない。無縁だった戦い方を学ぶために、堅気ではない集団との付き合いも出来た。その対価に、主に身の回りの世話を任され、慰み者として身を差し出すこともある。それも全ては復讐のため。


 カラン、とドアが開く鐘が鳴り、来店を告げる。アマンダは意識を接客に戻し、客を出迎える。外套の頭巾を被っているが、赤髪の女性ということは分かる。


 “協力者”より赤髪の女性の話は聞いていた。こんな若い娘だとは思わなかったが、ここ最近の障害になっていた女には間違いないだろう。まだ20にも届かない若者だろう。そんな者が暗闇に加担する国に、やはり失望を覚える。


 この娘に罪はない。それでもやらなければならない。骨董品に仕込んであるナイフを抜き取り、娘の胸に向かって突き出す。その筈だったが、風景が崩れて消えていき、最後に一瞬だけ天井が見えて、アマンダは意識を失った。


――――――


「さすがだな」


 女の動きは見事ではあった。流れるように淀みなく動けていた。だが、ニコラスが半身に構えて、向かってきた女の襟を掴みながら引き込む。女の足が上に浮かび、背中から床に叩きつけられる。一瞬の出来事。


「手にタコがあるのが見えたからな。何かしら仕掛けてくるのは分かっていた」


「よく見てるな」


「素人ではないなら思い切り投げられるからな」


 軽く話しつつ、店内を探る。ニコラスもハリムも骨董品の質は分からないが、品物は整理され、埃も付いていない。真っ当な商いをしていた証拠だ。アマンダが抱えていた葛藤を、二人は知る由もない。


 ハリムが動きを止め、壁を凝視する。何もない木板で出来た壁。そこにハリムは音を殺して近づき、思い切り壁を蹴ると、その部分の壁が勢いよく外れ飛ぶ。


「……がっ」


 壁向こうにいたらしい男に壁が当たり、壁と一緒に床に転がる。ハリムが歩いてゆっくりと近づき、男の口を踏み抜く。不穏な音が鳴り、男の口が不自然に開き、抜けた歯が床に散らばる。


 壁が抜けた先には、整備されていない簡易的な階段が下に続いていた。空気が淀んでおり、異臭が漂っている。ニコラスは匂いに顔を顰める。


「……酷い匂いだな」


「ニコ、あまり嗅ぐな。これは“良くない”やつだ」


 ハリムの言葉に、ニコラスは手拭いで顔を覆う。頭に過ぎるのは、いつかの貴族の逮捕劇。ハリムが麻薬取引がどうとか言っていたのを思い出す。


「帝国絡みだな」

 

「どうする、下に降りるか」


「降りる」


 言い終える前に、階段を降りていく。警戒する様子もなく、堂々と進んでいく。すぐに大部屋に辿り着く。部屋には何もない、ただの部屋。ただ、炙られた麻薬の匂いが充満している。


 部屋の奥に、ハリムが屋敷で話した執事を見つける。椅子に縛られて、涎を垂らしながら、何かを見ている。そして10人ほどの男たちが待ち構えていた。


「よう。やっと来たか」


 男の一人がハリムに向かって声を掛ける。ニコラスには随分と余裕があるように感じた。突き止められたら、もっと焦るべきなのではないだろうか、それがニコラスが抱いた違和感。それに強者が持つ独特の雰囲気がある。


「で、目的はなんだ?こいつか?多分もう使いもんになんねぇけど」


 男はそう言いながら、執事が座っている椅子を蹴る。執事が床に叩きつけられても、執事の反応は変わらない。


「生きてれば良いさ」


 ハリムが答える。


「残念、契約で殺せねぇんだ」


 男も答える。


「テメェら。男は殺せ。女は殺すな。久々の上物だ」


 その一言で沸き立つ男たち。一斉に視線がニコラスの身体に向けられる。


「ニコ、合わせられるか」


「大丈夫だ」


 ハリムが一歩前に進む。それを合図に男達が一斉に向かってくる。大部屋ではあるが、それでも簡易的であり、空間は狭い。長物や飛び道具などの武器を持つ者はいない。


 向かってくる拳を冷静に避け、ハリムがそのまま顔面に拳を入れる。吹き飛び、何度も回転しながら床に転がる。向かってきた男たちの足が一斉に止まり、倒れた男の顔を見る。左半分が深く窪み、生きているのかも怪しい。


 男たちが止まっている最中、ドゴっとした音が鳴り、数人が倒れていく。ハリムがもう一人を殴って吹き飛ばしたのだ。殴られた者は、他の者を巻き添えにしながら飛んでいく。


 圧倒的な暴力。ハリムが力任せに殴り、蹴る。それだけで男たちはなす術がない。標的をニコラスに変えても投げられ、ハリムに踏み抜かれる。男たちは戦意を棄てるが、ハリムは容赦無く潰していく。


「おいおい、化け物かよ。……お前“血持ち”か」


「一応だがな」


「んだよ、早く言えよ」


 そう言って奥の男が、ゆっくりとズボンから瓶を取り出す。中には透明な液体が揺れている。ニコラスが警戒して構える。


「“血持ち”絡みに、まともにぶつかる気はねぇよ」


 男がニコラス達を無視しながら、ハリム達が入ってきた入口へ向かう。


「逃すと思うか?」


「この部屋な、薬の匂いがすごいだろ? 良く燃えるんだよなぁ」


 そう言って瓶をポンポンと叩く。


「ま、“血持ち”のお前なら問題ないな。けど、そっちの女は全身火傷だな」


 男が勝ち誇ったように声を出して笑う。ニコラスが男に向かって行こうとするが、ハリムが手で制止する。


「そうだな。悔しいがここまでだ。……最後にお前の名を教えてくれないか?」


「ダラスだ。それじゃあな」


 そう言いながら階段を登っていく。見届けてから、ニコラスは悔しさで顔を歪ませる。


「すまない、私が足を引っ張った」


「いや、目的は完遂している。それに」


 ハリムが言い切る前に、階段を降りてくる音が聞こえた。一人の男が入ってくる。いつか見た、ハリムが上司と呼ぶ男。その肩には、気を失ったダラスが担がれていた。

 

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