第83話 さらば紅蓮の森よ②
「ぐごおおおおおおッ!」
最強念殺士がついに繰り出した〈奥の手〉によって、絶体絶命の窮地に追い込まれた真紅の狂魔人──むろんそれを振り払わんと金色光線を乱射するものの、そもそも相手の凶手に実体が無いのであるから、それは単にエネルギーの浪費を重ねるだけであった。
「ふふふデク人形め、このシェリス・エルアーの念撃殺法を甘く見るなよ。
いかにキサマのボディが堅牢無比な人工筋肉で覆われていようとも、この世で貫けぬものはない殲烈徹撃爪を防ぐことは不可能だッ!
しかも苦し紛れに放った光線もサイコアタック化させることもできず虚しく空間を切り裂くのみ……つまり王国軍最強戦士という虚名で祀り上げられてきたオマエの正体はネウェスにすら遠く及ばぬデクの棒にすぎず、オレの想念世界ではとっくにバラバラの残骸に成り果てているッ!……そしてその光景をイメージできていること自体がこの攻撃の有効性を物語っているわけだッッ!!」
早くも勝利を確信した魔少年であったが、同時に奇妙な違和感を感得していた──コイツの躰、急速に体温を上昇させつつある……!?
「──ぬおおっ、あ、熱いッッ!!」
まさしく、闘主があらゆる状況を想定して尖兵の体内に秘めた防衛システムの一つが作動し、ダゴードは熾烈に燃え上がる紅蓮の焔を連想させる皮膚にふさわしい超高熱を帯びつつあった──しかもその時、もはや攻撃者は右腕を引き抜くことが不可能になっていたのだ!
『ククク……誰がネウェス以下だと?
愚か者めッ、先ほどの苦悶はキサマを油断させ、私の体内に埋まった腕をより深く、炭化するまで封じ込めるための演技よッ、まんまと引っかかりおったなッッ!!』
既に人工声帯が破壊されてしまっているため発語されることは無かったが、形勢が逆転しつつあることは当の魔少年が一番理解していた。
「お、おのれ負けるかッ!こうなったらこの右腕を犠牲にしてでもキサマだけは地獄に……いや微粒子に分解して闘主に送り返してやるッッ!!
ガデラズ隊長ッ、どうかオレに力を貸して下さいッッ!!
──ぬおあああああああッッッ!!!」
かくて持てる全サイコパワーを解放した最強念殺士の全身はこれまでで最高輝度の闘気に包まれ、文字通り鮮緑色の光柱と化す!
“ぐぬぬぬぬッ、生意気なッ!
元より闘主様から霊法光星に群れなす強者どもを一人残らず平定せよとの厳命を下されたこのダゴードに勝利できると盲信しているならば、その誤りを命をもって贖わせてやるわッッ!!”
こうして相手の姿を視界に捉えることなくひたすら内面世界に沈潜し、意志力のみによって葬り去ろうという不可能事に挑んだ両雄であったが、互いに一歩も譲らぬ消耗戦が5メッツも経過した頃、ついに事態が動いた──何と真紅の狂魔人の全身に大きな亀裂が生じ、内部から緑の妖光が噴き上がってきたのだ!
『ふぬおおおッ、バ…バカなッ、金剛不壊のこの躰が、生身の人間のそれも念力のみによって破壊されるなどと……み、認めんッ、断じて容認せんぞッ、そ、そんなことがあっていいはずがないのだあッ!
お、おお偉大なる闘主よッ、貴方様の忠実なる下僕に今こそ大いなるご加護をッ!!
わ、わたくしはここで朽ち果てるわけにはいかぬのですッ、な、なぜならば貴方様が霊法光星支配の依代として見込まれたゼトゥス様をルヌラリアの盟主に押し上げるという目的すら達成されていないのですからッ!!
で、ですからどうか、せ、せめてその偉大な御手によって、無敵円盤にこの手負いの躰を携挙(瞬間移動)して下さいませッ、そして失われた左腕と共に修復がなされたならば、必ずや捲土重来を期し、大戦果をご高覧に供してみせますッッ!!!』
この畢生の叫びに対する返答は非情にももたらされることはなく、紅の宇宙機は燃え盛る森の内部を凄まじい速度で縦横無尽に這い回る12体の臙脂色の群龍から発射される猛焔弾を破壊光線で迎え撃つ戦闘行為にひたすら徹していたのである……。
そして、ついに破局が訪れた。
疲労困憊の極みにありつつも、最後の精神力を振り絞り敵の体内で炸裂させた旋煌刃波が狂魔人を心臓部である半永久動力装置ごと十文字に斬り裂き、真紅のボディをエメラルドグリーンの閃光に染め上げながら爆散させたのである!




