第79話 真紅の魔人、驚変す!③
「うおぉッ、これだけの巨体を有しながら気取らせることがなかったのは、ギリギリまで接近してから全身を点火させたということかッ!?……だ、だがまさに至近距離にいる隊長は恐ろしいまでの灼熱地獄に苛まれているのではないか……その証拠に、片手で抱えた鉄狼の骸に既に引火し、漆黒の体毛が紅と化しているではないか……む、むろんもう一方の手で必死に渦呪輪を翳しているゆえ多少は死熱を和らげられようが、この炎の大怪物が前進するだけで生命の危機だ──かくなる上は天裂穿弾を何十発も目玉にブチ込んで怯ませ、その間に隊長に逃走を……おおッ!?」
全身からエメラルドグリーンの闘気を噴き上がらせながら左拳を振りかぶった最強念殺士の動きが突然止まったのは、闘示盤に緊迫映像を送信していた2個の鏡晶珠が左右から炎蛇の両眼に穿孔光線を命中させたのを目撃したからであったが、そのまま拳を下ろすことはなく効果を疑問視しながらも全身全霊で緑光の拳弾を実に30発近くも巨大な口腔内に叩き込んだのであった!
──ギグギャワワワワッッ!!??
驚愕と苦痛が綯い交ぜとなった苦鳴を上げた火焔獣兵が身をよじらせながら後退したのを目の当たりにしたガデラズは、右脇に抱えた戦友の遺骸が半ば炭化してしまっているのに気付くと一瞬躊躇いつつも膝を屈して通路の隅に慇懃に横たえ、立ち上がると同時に元の方角へ脱兎のごとく駆け出し、所々が裂けたマントを脱ぎ捨てながら天翔仙翅を起動させる!
幸いにも盲目状態にあるワヴォールは察することなく苦悶し続けていたがそれも束の間のことであり、やがてグネグネと蛇行しながらも報復のため前進を再開する。
「うぬッ、この死に損ないがッ!
ならば今度は我が必殺技にてその頭蓋を切り裂き、脳髄を微塵に刻んでやるッッ!!」
左拳を腰に当て、躰の正面に垂直に立てた右手刀に念を集中させるシェリス……これは旋煌刃波に最大限の切断力を発揮させるための型であったが、右横に座す首領からの「ムダに念力を消耗するな……今グローメズが到着したわ」という一言で瞬時に脱力し、小型化した凶霊龍の一群が突進して来るのと鉢合わせした、操龍者が誰あろう首領であることを知る由もない鎧刃部隊長は、「ようやく来おったかッ!それにしても待たせおってッ!!」と絶叫してしまうのであった。
「ふふふ、まさかニミルドと余が入れ替わっておるとは夢にも思わぬであろうあやつがそう口走るのもムリはないが、曲がりなりにも将士団最上位を占める龍氣師に対する口の利き方としては聞き捨てならぬものがあるな……シェリスよ、もし彼奴が無事に帰島することがあればおまえからもよく言っておけ」
「──は、はいッ!」
半ば安堵しながら返事する魔少年であったが、豪胆な反面人後に落ちぬ心配性でもある彼にとってこの無意識の舌禍は新たな懸念材料であり、今後尾を引かねばよいがと願うばかりであった……。
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19体の散躰の内、巨鳥部隊訓練所を壊滅させた10体は既に王家の森に駆けつけていたが彼らは上空にて待機を命じられ、要塞突入は残る9体の任務であった──かくてガデラズの脇をすり抜けながら炎の大蛇に殺到する群龍たちの1体が飛翔するガデラズの正面で急停止し、事前の打ち合わせ通り自分に跨ることを視線によって促す。
「うむ、忝ない──それでは龍氣師どのよ、厚意に甘えさせてもらうぞッ!」
たちまち機嫌を直した乗り手が定位置に着いたことを確認した凶霊龍は、九つの口から発射される猛焔弾に直撃されて先ほどとは比較にならぬ凄まじい苦鳴を迸らせるワヴォールを尻目に180度旋回し、文字通りの火の海と化しつつある地上目がけて疾駆するのであったが、その直後に地下要塞の十数ヶ所に仕掛けられた自爆装置が作動したのである!
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塒である森外れの洞穴、その入り口付近で死んだように眠っていた“はぐれ聖獣師”ルコリト・ユドンは、遠雷のごとき爆発音とそれに伴う地響きによって目を覚ましたのだが、その覚醒には割れんばかりの頭痛が伴っていた。
「ウ、ウ〜ン……痛ててててッ……な、何だ、何があったんだ?
ひょっとしてベガモのクソガキどもが殊勝にも爆弾抱いて凶霊龍に特攻したとでもいうのかよ……い、いやあのボンボン兄弟にそんなご立派な勇気があるワケねえ……ってことは、あの色っぽくも猛々しい巨鳥部隊の姉ちゃんたちがバトルの最中なのかな……!?」
不倶戴天のベガモ家嫡男と共に第一通用門の警護を任されていたものの、襲来した凶霊龍の放った猛焔弾に恐れをなして相棒の肩に縋って一目散に逃げ出したはいいものの、3メッツほど闇雲に森の内部を駆け回った末に突如として頭上にただならぬ気配を察して見上げた時にはお世辞抜きに全身が総毛立った──なぜならば馴染み深い星覇獣国の怪人どもが信じられぬことに見慣れぬ飛行装置を担いで悠々と飛翔しており、あろうことか一発でも食らえば躰が真っ二つに引きちぎられそうな剛弓につがえたぶっとい矢を向けていたからである!
「ヤッ、ヤベえッ!おいボーアッグ、オレらの頭上にとんでもねえヤカラが舞ってやがるぜッ!!
あ、後は任せたッ、こーなったら名人芸の棒術と百発百中の石礫でナマイキな蚊トンボどもを一匹残らず撃ち落としてやれえッッ!!!」
こう(無責任に)言い残してから老いたる力猿の色褪せた体毛を伝って地上に降り立った野人聖獣師は、唯一の護身具である赤錆た短刀を腰のちぎれかかった革帯から引き抜くと樹木の陰伝いに必死の全力疾走に入る──だがそれも虚しく、僅か2ヤーンほど前方に立て続けに小爆発が発生したことで空飛ぶ怪人軍団の武器が爆弾化した魔矢であることを理解したものの、運の悪いことに舞い上がった土埃に混じっていた石ころに額を直撃され、今の今まで意識を失っていたのである──しかしそうなると(いや、そうでなくても)彼を親切に隠れ家まで運んでくれたのは長年の相棒以外にはありえぬが、身近にその気配が感じられないのはなぜなのだ!?




