第76話 地底のジャングル⑤
意識不明の新国王と昏睡状態の少女聖獣師が横たわる救命カプセルは、鎧刃部隊侵入直後に下された王国軍評議会の判断により、直ちに収容されていた要塞最深部の医療施設から外星人によって供与された全長20ヤーン(約32m)・重量180ドロス(約220t)の【特装地底戦車】に搬入され、長大な蛇身のごとき秘密トンネルを驀進しておよそ60ルカノ(約38km)離れた王都マナスティアに位置する王立中央病院に搬送されることとなった。
『守護隊長と侵入部隊統率者の対決の行方も気になるが、何よりも憂慮すべきは縮小化した凶霊龍の要塞侵入だ──それを許してしまったが最後、徹底的に破壊し尽くされて永久に使用不可能になるのは必定。
したがって卑劣な奇襲によって予断を許さぬ状態に追い込まれなされた国王様を筆頭として、総勢41名の人員は2台の戦車に分乗して一刻も早く脱出せねばならぬ。
さりとて目下の王国軍は史上空前の危機的状況にあり、あろうことかコルバーダの海軍総司令部を筆頭にロンスタッド(陸軍)、ベナツォク(空軍)においても複数の若手将校による大規模叛乱が勃発して今この時も正規軍との間で激しい攻防戦が展開され、何よりも優先すべき神聖な任務である国防機能が停止するという異常事態に陥っているというではないか……!
この背後に憎き星覇獣国による暗躍があることはいうまでもなかろうが、かくなる上は聖獣防衛隊及び秘密研究所の底力に期待するしかないにもかかわらず、嘆かわしいことについ今しがた巨鳥部隊全滅の急報が入ったことで早々に期待は潰えてしまった……かくて防衛隊最強軍団が敗れ去った以上、キーナス総帥には悪いが力猿連合に過度な期待を寄せるわけにもいかん……なぜなら王国の未来を左右するご尊体を任されておる以上、我々地下要塞関係者に死は許されぬからだッ!!』
隧道が使用不能となった際に新たな進路を切り開くための巨大なドリルが不気味に底光りするワペリアンの操縦室に腕を組んで仁王立ちする地下要塞管轄者アーロム准陸将の理知的な双眸に、微かだがハッキリと窺える危険な光──はたしてそれが何を意味しているのかは配置についた四人の部下にも分かろうはずはなかった……!
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「──ッ!?」
肘から先が消失した自身の太い左腕を呆然と凝視していた真紅の魔人であったが、ガラ空きとなったガデラズの土手っ腹に強烈な前蹴りを叩き込んで一矢を報いる。
かつて受けたことのない凄まじい衝撃に「ぐげッ!!」と呻いて上体を折る漆黒の甲冑騎士──されどダゴードもまた自身を襲った悲劇による心的ダメージは甚だしいものがあったのか、追撃をかけることなく踵を返し、入場して来た扉を開いて退散?を図ったのである!
「愚か者めッ、断じて逃がしはせんぞッ!!」
瞬く間に回復し、放たれた叫びにもどこか愉しむような余裕の響きが感じられ、ガデラズは再び閉じようとする扉を豪快に蹴破って追跡にかかるのであった。
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「ふふふッ…ダゴードめ、左腕を失ったのがよっぽどショックだったとみえますね──加えて長らく王国軍最強を気取ってきた奴がここまで動揺を露わにしたのはこれが初めてなのではないですか?
となれば未だたっぷりと動力を残した最凶魔導具を駆使する隊長に仕留められるのも時間の問題……!」
既に盟友の勝利を確信したらしい緑衣の魔少年は相好を崩しながらまくし立てるが、仮面の絶対者は顎を撫でさすりつつ否定的な見解を述べる。
「──さて、それはどうかな?
そもそも死どころか痛みですらも実感できぬ人工生命体にすぎん彼奴めが単なる部分的欠損をそこまで深刻に受け止めようとは思えんし、あくまでこれ以上素手でガデラズに立ち向かうのは自身の消滅に繋がり創造者(闘主)の意思に反すると演算した結果、自身も何らかの武器を手に取るためにあの狭苦しい空間を離脱したのではないか?
しかも最重要人物である新国王を地底戦車に搬入し、着々と脱出準備を整えていることからも、王国軍は我々に対する反撃の狼煙として地下要塞全体を爆破しようと目論んでいるようなのだがな……!」
「ゼトゥスを地底戦車に乗せて脱出するですってッ!?
そ、そうか……要塞に詰めていた連中は最初からいつでも逃げ出せるよう手を打っていたのですね。
(複雑な笑みを浮かべつつ)
ですが星覇獣国の息のかかった若手軍人たちが各地で続々と蹶起しつつある今、文字通りの意味で危険な火薬庫となった軍事基地に担ぎ込むというわけにもいきますまい……残るは王家の専用個室が用意されている王立中央病院あたりでしょうが、こちらから叛乱軍に指令を下して突入させれば難なく討ち取れるのでは……!?」
その冷徹な口ぶりからは既にゼトゥスへの未練は断ち切られていると思われたが、魔龍皇は些か皮肉めいた口調でおそるべき腹案を披露するのであった。
「くくく、そうだな……とはいえ命を賭した大勝負の渦中にある彼らに更なる重責を課すのも気が引ける……ならばここは高空にて手持ち無沙汰の状態にある我が超凶霊龍の出番であろうな……!」




