第74話 地底のジャングル③
王国公認の秘密処刑場である奈落殲場の威信を維持するための最終手段ともいうべき戮擊錐の殺傷力は凄まじく、超絶的な圧力で押し込まれるドリルの大群に星覇獣国の精鋭陣といえども抗う術は無かった──なぜならば被爆覚悟で放たれる爆矢弾や爆棒程度ではこの悪魔的兵器の進行を阻止するどころか毛筋ほどの損傷を刻むことさえ不可能だったからである!
かくて最強白兵戦団の上位を占める猛者連とその相棒たちは呪われし暗黒空間の主である真紅の魔人の餌食となって、悪逆にして血塗られた生涯の幕を強制的に降ろされてゆくのであった……。
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「うぐっ……な、何という凄惨な……!
ダ、ダゴードめ……この酷烈非道なやり口はまさに宇宙最凶の悪鬼が生み出した魔物ならではというしかない……ああ、悲願達成の志に燃えて運命の戦場に臨んだ我が盟友・ガデラズ隊長がかくも無残にしてうら寂しき最期を遂げねばならんとは……あまりの不条理に震えるほどの憤りを禁じえん……!」
顔面蒼白となり、懸命に吐き気を堪えつつ口許に深緑色の手巾をあてがいながらの独白を受け、傍らの首領は珍しく神妙な口調でこのように宣うのであった。
「ううむ……実は余なりに気を遣い、おまえが受ける心的衝撃を考慮して阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されることが予想されたこの空間に鏡晶珠を飛ばすつもりはなかったのだが、いきなり天井が覆い被さってきてはやむをえなんだわ……許せ、シェリスよ。
しかし余の超感覚には未だガデラズ戦死の悲報は届いておらんようだがな。
とはいえ身動きできぬ状況に追い込まれておるのであれば、いかに強かな生命力を誇るあやつとて衰弱死を免れんであろうが……。
ふ〜っ、ならば仕方がない、丁度三大凶霊龍中最も縮小化を得手とするグローメズも到着したことだ、誇り高き鎧刃部隊長の巌のごとき自尊心を傷つけるのは承知の上で、将士団に欠くべからざる重鎮を救出するため要塞内に解き放つとするか──そして地底の藻屑と消えた兵たちの霊を慰めるため、“闘主の秘蔵っ子”に復讐戦を挑むとしようか……しかしガデラズにはとっておきの秘策を授けてあるゆえ、それを使わずして死すとは到底考えられんのだがな……!」
一方のダゴードもまた、串刺し地獄と化した奈落殲場において、あの傑出した闘気を放っていた統率者が未だ息絶えておらぬことを鋭敏に認識していた。
「……忌まわしき侵略者を称賛するのも業腹だが、いかに堅牢であろうと個人がまとう甲冑程度であの死の錐を防ぎ止められるはずもないというのに彼奴の死を確信できんとは、一体いかなる秘術を弄しおったものか?
かくなる上は少しばかり戮擊錐を引っ込め、中央に僅かな空間を空けたところで私自ら検証するとしよう──まあ十中八九ありえぬであろうが仮にあやつが虫の息であれ生存していた場合にはそれなりの敬意を込めて介錯させて頂こうか……!」
処刑装置停止後、たっぷり1メッツの間を置いてから奈落殲場中央付近の一角が左右に開き、臨戦態勢の証として金色の双眸を凶々しいまでに爛々と輝かせた真紅の魔人が静かに足を踏み入れる。
予想通り、子飼いの針擊獣兵団も含めつい先刻まで大乱戦を繰り広げていた者たちは1体残らず戮擊錐に貫かれて絶命しているかに見えた──されど10歩ばかり進んだ所で足を止めたダゴードは、ハッキリと何者かが息づく気配を感得したのである!
「──上かッ!?」
彼が歩を進める幅1ヤーンほどの通路には、丁度跳躍中に戮擊錐の餌食となり、10ヤーンほど上方に固定されたキーラートの骸からワイヤーアーム(その内の十本あまりは無残に引きちぎれていた)がダラリと垂れ下がっていたのだが、それが微かに揺れたことで危険の在所が明らかとなったのである──されど真紅の魔人が視線を上向けた時には連射された爆矢が眼前に迫っていた!
「バカめッ!そんな玩具がこのダゴードに通用すると思うのかッ!?」
瞋恚の形相となって右拳を突き上げながらの豪語に偽りはなく、爆矢は国王守護隊長に触れることなくまとめて空中爆発するのであったが、付随現象としての爆炎が一瞬とはいえ魔人の視力を奪い去ったその機を逃さず、これも頭上から凄まじい殺気の塊が襲いかかる!
──ガガッッ!!
硬質な物体同士が激突する鈍い響きが起こり、続いて金属的な打撃音が連続して発生し、黒い影が倒れ込んだ様子が伝わる。
そこに勇躍覆い被さる紅い影……しかしズガッという異様な破裂音が轟いて後方に飛び退くことを余儀なくされたようであった!
「──食らえッッ!!!」
素早く起き上がった黒影から伸びた漆黒の稲妻?に貫かれ、紅影が動きを止めたところを見計らったかのように爆煙が収まって状況が明らかとなり、固唾を呑んで見守っていた魔少年は「や、やったッ!!」と拳を握りしめながら快哉を叫んだのである!
「ふふふ……さすがはガデラズ、余が餞として授けた【還塵渦呪輪】をここぞというタイミングで出してきおったな……」
満足気に呟く首領の横顔を窺いながら「還塵渦呪輪、ですって……!?」と驚嘆を隠せない側近に「さよう」と頷きつつ瞠目すべき説明がなされる。
「(闘示盤を悠然と指し示しながら)むろん余とてこのような事態を想定していたわけではないが、敵の要塞に赴く以上、厄介な陥穽が待ち受けていることは必定ゆえ、その打開策として密かな特技というべき魔導具開発の最新の成果をあやつに託しておいたのだ。
ま、名称を耳にすればその力能は容易に想像できたであろうが、直径30エクト(約50cm)の漆黒の輪は極小ながら凶霊龍の秘奥義と同様の強力極まる〈消滅波〉を発現させることができ、それによってあの剣呑な回転錐の一部を分解して空隙を作り、相方の鉄狼と共に身を潜めたというわけだ(不幸にしてやや離れた位置にあった1体は処刑兵器の犠牲となったようだが)──そして状況確認のため現れたダゴードに渦呪輪を突きつけながら飛び降り、彼奴の金剛不壊の機体を急速軟化させつつ、必殺の刃を右肩に叩き込み、次いで腹部に深々と突き立てたのだ……!」
ここで一旦言葉を切った魔龍皇は最強念殺士の讃嘆の表情を堪能しつつ、些か皮肉めいた口ぶりとなってこう続けるのであった。
「しかし些か解せんのは、あやつさえその気になれば消滅波をもっと広範囲に放つことで複数の…いや部下全員を救えたはず──とはいえ余から“あくまで試作品ゆえ、渦呪輪の動力は無限ではない……むろん出力は所持者であるおまえの一存によって自在に調整できるわけだが、一時に全開すれば、最低でも50メッツ(約80分間)は使用不能になるものと心得よ”との説明を真に受け過ぎて腰が引けてしまい、かくも吝嗇な使いっぷりとなったものであろう……ふふふ、とはいえ巨体に似合わず蛇のように抜け目ないガデラズのことだ、最初から手柄を独占するつもりであったのならばこれでよいのであろうがな……!」




