第73話 地底のジャングル②
【奈落殲場】の名称にふさわしく、そこは暗黒が支配する空間であった。
されど鎧刃部隊員の兜の視界部分に開いたスリットか素早く妖しいブルーに発光して高性能暗視装置がONになったことが示されるや否や、手にした爆矢銃が10ヤーンほどの下方に位置する獣兵団、中でも最も狙い易い軟体目がけて一斉に火を噴く。
そもそも的(図体)が大きく、しかも全身に散る百個近い光眼によって所在も明確なため彼らが絶好の標的とされるのはムリもなかったがその防御反応の速さは凄まじく、1体のユゼルガからは十数発のカラフル光弾が同時発射されて爆矢をことごとく撃墜したばかりか、空中の射手どもにも予想外の強かな痛撃を浴びせたのであった!
「ぐわッ!?」「えげッ!?」「ぬぎゃッ!?」「へぐッ!?」
絶対的な信頼を寄せる堅牢な甲冑は破砕されることこそなかったものの、かつて味わったことのない躰の芯にまで貫く衝撃波によって苦悶する屈強な隊員たちの中には耐えきれず嘔吐する者もあった。
「──慌てるなッ!
今鉄狼群団が敵に殺到しているッ、彼らの変幻自在の猛襲によって敵側は大いに乱れるはずだからそれに乗じて的確に攻撃するんだッ!
それには我々も二手に分かれる必要があるッ、副隊長班と工作班は合同で下から人型と筒状を攻めろ、隊長班は上から軟体を狙い撃ちするッ!!」
ガデラズの指示を部隊は迅速に実行し、総勢12名の二班は“一人一殺”の構えでオーガン&キーラートに銃を向け、部隊最強の戦闘能力を誇る隊長直属メンバーはユゼルガの〈全方位攻撃〉を巧みに回避しつつ着実に光眼を撃ち抜いてゆく!
「中々やるな──だが飛行装置の動力も無限ではない以上やがては二本足での移動となるのは避けられまい……それとも引き連れた巨狼に跨って闇の中を駆け回ろうというのかな?
ふふふ、いずれにせよキサマらが暗黒の地底世界において進退窮まった事実に変わりはない──それが魔龍皇に強要されてのことかはたまた自身の無謀な判断によるものなのかは知らんが、王国軍も甘く見られたものだ……ここは一つ改めて宣戦布告の意味を込め、鎧刃部隊を全滅させた後に刎ねた首をゾルゲシタスに送り届けてやるかな……!?」
普段は彫像のごとく無表情な真紅の魔人の唇の端が不気味な角度に吊り上がり、彼の正体が単なる任務遂行に特化した闘主謹製の戦闘マシンに留まらず、必要ならば心理的な手練手管も弄する悪魔的な怪物であることが判明する──されどその余裕は闇空間に放り出されることで凶暴度を全開した鉄狼群団の猛威と、それに後押しされた漆黒の戦士団の端倪すべからざる戦技によって完全に霧消させられたのである!
奈落殲場に落下したオーガンたちは繰り返された訓練によってスムーズに着地する術を習得しており、赤外線暗視装置並みの特殊視力によってキャッチした、【極針槍】が束になって収納された壺に殺到し、アトンらも含め全員が手にする。
全長2.2ヤーン(約3.5m)のバジェーン軽合金製銀色丸棒の尖端部が鋭い円錐形に研ぎ上げられたこの武器を手にすることで彼らは真の針擊獣兵となるのであり、階上の狭い通路上で使用させなかったのは同士討ちやキーラートのワイヤーアームと交叉するのを避けるためであった──つまりダゴードとしては戦力的に筒状獣兵の方を上位に置いていることになる……。
さて、主武器を手にした人型獣兵は皆一様に得意気で、目にも止まらぬ迅さで空突きしたり風車のようにビュンビュンと旋回させたりして敵を威嚇していたが、それを嘲笑うかのように電光石火のスピードで真正面から飛びかかった鉄狼群団は、後肢を木の幹のように太い首筋に絡みつかせるとすかさず前肢の爪を易々と眼球に抉りこませるのであった!
かくて耳を覆わんばかりの獣の苦鳴が闇を揺るがし、のけ反り倒れたオーガンたちは喉元に深く牙を突き立てられて全身を痙攣させつつ息絶えてゆく……。
一方のキーラートもまた苦境にあり、もはや彼らのジャンピングのタイミングを摑んだ隊員たちがたっぷりと距離を取った上で放つ爆矢を両眼に受けて爆発炎上する個体が続出し、人型同様みるみる数を減らしてゆく……。
そして“最強”のユゼルガも相手がガデラズはじめ頂点クラスとあっては劣勢は避け難く、平均5本の爆矢を撃ち込まれた段階で活動停止に追い込まれてしまうのであった。
「ぬうっ、キーラートの魔針やアトンの毒礫を食らった連中の動きが未だ鈍らぬとはどういうことだッ!?
まさか敵の創獣技術は我が聖獣秘密研究所の兵器開発力を凌駕するというのかッ!?
だが、針擊獣兵団を撃破したところで奈落殲場から出られると思ったら大間違いだぞッ、かくなる上は【壁面戮擊錐】で皆殺しにしてくれるッッ!!!」
国王守護隊長の叫びは響鳴石を介して司令室内の発射装置を遠隔操作し、奈落殲場の全壁面から総計2000本の超硬バジェーン鋼(従来の軽合金の6倍の硬度を誇る重合金)製の、尖端がドリル化した鋼錐が猛烈な勢いで撃ち出されて星覇獣国勢を強襲したのであった!




