第72話 地底のジャングル①
地下要塞内は針擊獣兵団と鎧刃部隊&鉄狼群団が縦横無尽に入り乱れてぶつかり合う“死闘の坩堝”と化していた!
まず侵入者を迎撃する立場の聖門王国軍において先頭に立ったのは断トツの機動力を誇る筒状獣兵であり、最長8ヤーン(約13m)まで伸長する計30本の〈猛毒〉〈電撃〉〈超高熱〉を尖端から放射する魔針を装着したワイヤーアームを自在に駆使して正面突破を図る鉄狼どもの出鼻をくじき、王国軍正式狙撃銃【ロズナーツ】の弾丸をも撥ね返す鋼の皮膚を恣に突きまくっていた。
されど天才創獣師ヂャベドが持てる能力の全てを傾注して完成させた“最強凶魔獣”の自己修復力は凄まじく、一頭が魔針の直撃を受ければ即座に仲間が背後に庇って応戦し、驚くべきことにごく短期間に急回復して直ちに戦列に復帰するのであった。
一方、人型獣兵はルヌラリア屈指の硬度を誇るバジェーン軽合金製の10本の角が放射状に屹立する兜と鎧で全身を固め、刃の切っ先のごとき棘で覆われた籠手と脛当て、肘膝から突き出す円錐形の突起を武器として漆黒の甲冑戦士に接近戦を挑んでいたが、鎧刃部隊はそれに乗ろうとはせず手にした爆矢銃によって無防備な顔面を破壊することに固執していた──そしてその戦法は俊敏性にやや難のある標的に対してまんまと図に当たり、鬼面を彷彿させる醜貌を砕かれたオーガンたちは次々と討ち取られてゆく……。
「──くっ、何と正確な射撃の腕だッ!
し、しかも一体が殺られるとまるで魅入られたかのように連続で餌食になるとはあまりにも愚かしい……やはりここでも人型獣兵の悪癖…いや習性が出てしまっているな、つまりあくまで統一行動を取りたがる、という……!
だがかねて見込んでいた通り、“礫の達人”アトンだけは気を吐いているようだ──しかもその神技はこの修羅場においても些かも揺らぐことなく正確無比に凶魔獣の眼球を撃ち抜いているッ!
尤も残念ながら4体の弟子たちは師には遠く及ばず無駄撃ちを重ねているようだが、連中が投擲する【星型毒礫】の尖端に塗布されている凶毒はキーラートの魔針と同威力ゆえ、一見効かぬようであっても凶魔獣の生体組織を深く蝕んでいるはずッ!!」
されど真紅の魔人が最も鋭い視線を注ぐのは、疾駆する漆黒の戦士と鉄狼のはるか後方から尋常ならざる闘気を立ち昇らせつつ、あたかも王者のごとく悠然と歩を進める甲冑騎士──ガデラズ・バドオであった!
「……此奴が統率者なのは間違いないが、銃器を持たぬどころか剣も抜かぬとは何とも倨傲な憎々しき態度よ……尤も両脇を固める凶魔獣に背負わせているのが彼奴の飛び道具なのであろう。
しかし最強者を気取るのは勝手だが、キサマは既に死地に踏み込んだ──はたしていつまでその余裕を保てるかなッ!?」
国王守護隊長がこう言い放ってから20エスタ(約30秒)後、およそ長さ40ヤーン(約65m)ほどの通路がいきなり左右に割れて、針擊獣兵団と侵入者全てがもつれ合いながら転落してしまったのである──だが18人の鎧刃部隊は一斉に天翔仙翅を起動させて危地を逃れたかに見えたが、脅威はすぐそこに迫っていた!
「なるほど、やはりマントの下に飛行装置を隠し持っていたな。
だがたとえそうだとしても、天井が凄まじい圧力でのしかかってきてはどうしようもあるまいッ!?」
この言葉通り数十本のシャフトが取り付けられた特殊コンクリート製の天井板が猛烈な勢いで押し出されて開いた通路をピッタリと塞ぎ、鎧刃部隊トップチームは1人残らず鉄狼群団の後を追う羽目となったのである!
「一旦【奈落殲場】に落ちた以上、二度と脱することは叶わぬ──されどあえて敵地に乗り込んで来た気概に敬意を表し、我が獣兵団と決着がつくまで要塞内兵器による処刑は猶予してやろう……!」
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針擊獣兵によって破壊された2個とは別に生き残った残り2つの分裂鏡晶珠がガデラズらを襲ったハプニングを闘示盤にありありと映し出し、盟友であるシェリスは長大な落し穴となった通路が速やかに塞がるのを目の当たりにして「ちっ、やはりそれなりの罠が仕掛けてあったな……」と唇を噛む。
「……くくく、何も案ずるには及ぶまい。
これまで幾度もの侵入戦をモノにしてきた連中のことだ、これしきの歓迎は当然織り込み済みだろうからな。
むしろ漫然と要塞内を徘徊するより、ある定められた戦闘空間で活動する方が迅速に目的に到達できるとほくそ笑んでいるのではないか?……ま、それは自身の能力に揺るぎなき自負を持つ者固有の錯誤かもしれんがな……!」
かくも鷹揚に宣う首領に「ええ……」と頷きながらも緑衣の魔少年の心中は穏やかではなかった。
『たとえ彼らがいかなる危険に曝されようと、魔龍皇様さえその気になれば小型化した凶霊龍を送り込むことによって救出することはできるはず──されどそのように動いて下さるかは定かではなく、決して楽観はできぬ……。
とはいえあれほど隊長とダゴードの対決を楽しみにされている以上、部隊がとことんまで追い込まれれば手を差し伸べられるはずだが……!?』




